第三種接近遭遇 ⑪
- 2019/05/22 18:21
次の日。
いつも通りに登校をし、いつも通り席に着く。
「昨日は楽しかったわね、いっくん」
後ろには既にあずさが腰掛けている。頼むから周りが聞いたら疑うような発言をするのは止してくれないか。もし周りが聞いていたらどんな発言が帰って来るやら――。
「大丈夫よ、どうせみんな誰も聞いちゃいないから」
「そういうものなのか?」
「そういうものなのよ」
僕とあずさの会話は、チャイムによって終了せざるを得なくなった。
担任の徳重先生が入ってくると、ぱんぱんと手を叩いた。
「はい、皆さん、座った座った! 今日は転校生を紹介するからね!」
「転校生?」
「珍しいわね、僅かな時期を空けて二人連続なんて」
確かに、珍しい。
同じ日に二人入ってくるなら分かるが、若干のタイミングをずらして二人入ってくるのは少し珍しいように見える。
「さあ、入ってきて!」
先生の言葉を聞いて、一人の『女子』が入ってきた。
黒髪が目立つ少女だった。黒いロングヘアーに、ぱっちりとした目。目鼻立ちが良いとはこのことを言うのだろう。そんなことを思いながら、僕は彼女をじっとただ見つめていた。
いや、僕だけじゃない。
きっとクラスのみんな(主に男子)が彼女に夢中になっていたに違いなかった。
それはきっとふしだらな気持ちがあったとか、そういう訳ではなく。
彼女には見惚れる程の、何らかの才能があるようにも感じ取れた。
そして、一段上になっている教壇に立つと、彼女はずんと前に一歩動いた。
「私の名前は、高畑アリスといいます」
踵を返し、黒板に白墨で文字を書いていく。
その文字は達筆で、綺麗に読むことが出来た。
その文字を見て、僕は最初はハーフか何かかと思った。
アリス、なんて名前は日本人には似つかわしくないと思ったからだ。
「私のことを、日本人じゃないと思った方も居ると思います」
まるで、僕の心を読まれたような、そんな感覚だった。
というか、僕のことをじっと眺めていた。
「……あんた、あの子の知り合いなの?」
後ろからひそひそとあずさが声をかけてくる。
そんな訳あるか、と僕は一笑に付した。
そもそももし知っている人間なら、僕かアリスが反応を示すはずだ。
それをしないってことは、お互いに知らないってこと。
いや、或いは――アリスが一方的に僕のことを知っている、ということになるのか?
だとしたら、彼女はいったい何者なんだ?
「高畑さんは、伏見さんの隣の席が空いているから、そこに座ってね」
そう言われて、素直に頷くアリス。
そうして彼女はすたすたと歩いていった。
その歩いていく姿も何処か妖艶な様子を漂わせていて。
あっという間に彼女はクラスのマドンナになってしまうのだろうな、なんてことを思わせてしまう程だった。
そして席に腰掛けると、彼女はじっと僕を見つめる。
僕は目線を逸らした。どうして彼女が僕のことを見つめているのか分からなかったけれど。
「ねえ、どうしていっくんのことを見つめているの? まさか、あなた彼と何か関係性でも?」
まさかまさかの、あずさが単刀直入に聞いてきた。
そんなこと普通してくるか……と思ってしまう程だったけれど、まあ、都合が良い。僕も出来れば聞いておきたかったことだったし。
しかし、彼女は何も答えなかった。答えずに教科書とノートを鞄から取り出して、授業の準備を進めた。
要するに無視である。
最悪のスタートを切ってしまったな、と僕は思いながら、僕もまた授業の準備を進めるのだった。