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2019年05月24日の記事は以下のとおりです。

生徒会選挙 ⑫

  • 2019/05/24 23:04

「今の言葉を聞いて、笑った人間はどれだけ居るでしょうか。笑ってしまう人間がどれくらい居るでしょうか。答えは分かりません。けれど、彼らはその部活動の真意を分かっていないから、そういう風に笑えるのだと思います」
 さらに、深呼吸一つ。
「問題はそこです。部活動のことは知っていても、その深部まで知ることはない。それを僕はなくしたい。部活動によって生まれる垣根をできる限り小さいものにしたいと考えています。もし、このことに賛同出来る方は、是非野並シンジに投票をお願い致します」
 そう言って、頭を下げる部長。
 最後に、池下さんがマイクを取る。
「推薦人の池下です。こいつ……あー、いや、彼とは同じ部活動です。とても真面目な人間です。人柄だけは良い人間だと思っています。そして、今彼が言ったことは実際にやってくれると思っています。ですから、是非投票お願いします。以上です」
 至って真面目なことだった。
 真面目なことを真面目な人間がやって真面目に終わらせただけだった。
 そうして二人は壇上から降りる。拍手を受けて。喝采だった。

   ※

 それから。
 二人目である金山さんの演説が行われた。推薦人は会計を務める小田井さんだった。
 金山さんの演説は至ってシンプルなもので、生徒会のオープン化と、生徒の学習制度の充実を図るものだった。しかしながら、どちらかといえばその制度の充実とオープン化は、学校側に訴えなければ意味のないことであり、簡単には解決出来そうにないものだった。
 ただ、部長の言ったことも何もなしに実現出来るのかと言われるとそれはそれで困る話だけれど。
 要するに、二人の意見は、どちらも学校側の協力が必要。
 そしてそれを誰が行えるか、という問題に限ったことだった。
 投票は一週間後。
 定期試験が終わって、夏休みまであと少し、という期間でのことだった。

   ※

 これから先はエピローグ。
 というよりもただの後日談。
 結局、投票により勝者は部長となることが決まった。
 ……ややこしいので、ここは名前で言った方が良いだろう。勝者は、野並さんに決まった。
 そして、金山さんは再び副会長に就任。そして前々から言っていたとおり、部長は会長になったけれど、その仕事を殆ど全て押しつける(全て押しつけると、それはそれで会長の座が危ういらしいので、一部の業務は自分がやることにしたらしい)結果となった。
「ま、宇宙研究部の活動には差し障りのないようにするつもりだから、問題ないよ」
 そう言ってくれるなら、それはそれで有難い話だと思った。
 え? 話を流したけれど、試験の件はどうなったのか、って?
 それは言わぬが花、と言ったものだろう?
 僕はそう言って逃げることにするのだった。

   ※

 会長が野並さんになって、また変わったことがあった。
 それは、定期的に金山さんが宇宙研究部にやってくるようになったことだ。
 金山さんは部活動には入っておらず(生徒会に入っている場合は、部活動に入っていなくても問題ないらしい)、実質宇宙研究部に入部したことになるらしい。というか、そういう契約を交わしていたらしいのだ。いつの間に。部長も抜けがない性格の持ち主だと思う。
 そういう訳で、この部活動も部員が増えてきた。
 あっという間に、夏が始まり、夏休みがやって来る。
 僕がこの中学校で迎える、初めての夏休みがやって来る。

 

生徒会選挙 ⑪

  • 2019/05/24 22:40

 そして、一週間後。公開演説の日がやって来た。
「……早かったね、ここまで来るのも」
 体育館には既に大勢の人間が押し寄せていた。みんな、生徒会選挙には興味があるらしい。ってか、興味がなければここまで来ることはないだろうし、そもそも放送部がアナウンスしているしな。これで行かなかったらよっぽど興味がない人間なんだと思う。
 僕はというと、あずさと一緒に会場入りしていた。部長と池下さんは既に裏手に待機しているのだろう。応援してあげよう、とあずさが言っていたけれど、そんな余裕はなさそうだった。
「アリスは?」
「そういえば、居ないわね。……興味ないんじゃない? 未だこの学校に来たばかりだし」
 と言っても、僕と大差ないはずなんだけれどな。僕もここに来てやっと一ヶ月が経過したって感じだし。というかもう七月なんだよなあ。海開きにプール開きも行われた時期になってきて、暑さも群を抜いてやって来た感じがある。何というか、この暑さじゃやってられない状況だ。
 体育館にはクーラーがない。窓を開けているとは言え、風が通るのは疎らだ。はっきり言って、蒸し風呂状態と言っても過言ではないだろう。
「えーと、これから、公開演説会を開始致します!」
 そう言ったのは、新聞部の栄だった。そういえば公開演説会は新聞部の主催だったか。
「今回は二名の立候補者の演説が行われます。始めに、野並シンジさん、続いて金山瑛里沙さんが演説を行います。時間はそれぞれ五分間ずつ。簡単に自己紹介も行われますが、それも加味しての時間となりますので、ご注意くださいませ」
 つまり十分間少々のために我々生徒諸君は集まらされたというのか。
 何というか、効率が悪い。
 それを誰も否定しないのが間違いのような気がするけれど、まあ、それは言わないでおくことにしよう。
「それでは、先ずは、野並シンジさん! よろしくお願いします」
 そう言われて、壇上に立つ部長と池下さん。
 ……あれ? そういえば池下さんは何のためにいるんだろう? 五分間しか演説の時間は設けないって言っていたような気がするし、それ以外の時間は特に何も言っていなかったような気がする。となると、やっぱり池下さんが居る意味が分からないというか、何というか……。
「えーと、ここに居る人の殆どが『はじめまして』になるのかもしれません。でも、名前だけは知っているという方も居るかも知れませんので、一応ご挨拶させてください。初めまして、僕の名前は野並シンジと言います」
 一息。
「僕が会長になったらやることは一つです。……部活動の充実です。具体的に何をするのか、という話ですが、例えば学校に部費の増額を検討して貰えるようにするとか、部活動同士の交流をもっと増やすとか、そういう類いになると思います」
 そこで、部長は全員をぐるっと見渡した。
 さらに、話を続ける。
「この学校には、個性的な部活動が多く存在していることは、部活動に入部している皆さんが良く知っていることだと思います。しかしながら、その部活動内部では分かっていても、部活動外部の人間には分かって貰えないことが多々あると思います。僕だってそうです。僕が所属する部活動は、皆さんご存知かどうか分かりませんので、言っておきますと、宇宙研究部という部活動です。宇宙を研究するってどういうことだ? と思うかもしれませんが、はっきりと言います。僕達は、UFOの秘密を探っています」
 そこまで来て、くすくすと笑い出す生徒が増えてきた。
 そりゃそうだろう。この場で、UFOのことを口に出したら笑ってしまう人が出てしまうのも分かる。
 しかし、部長はさらに話を続ける。
 

生徒会選挙 ⑩

  • 2019/05/24 15:08

 そして、次の日。金曜日。
 久しぶりに部長と池下さんがやって来ていた。珍しいな、なんて思っていたのだけれど、部長は何処か疲弊している様子を見せていて、大丈夫かな、なんてことを思わせていたのだが――。
「来週、遂に公開演説の日がやって来る。という訳で、事前に準備しておかないといけなくてね」
「何かありましたっけ? 準備しておくことって」
「事前準備は念入りにしておくことが一番のポイントだよ。それくらい分かっておいた方が良いと思うがね?」
「それは失礼致しました」
 変に話を盛り上げていくよりかは、さっさと止めてしまった方が良い。そんなことを思いながら、僕は話を続ける。
「……じゃあ、アレですか? もしかして今から演説の予習をしておくとか」
「そうそう、そういうのをしようと思っていたんだよ。しておくと後で楽だし、何か突っ込まれるポイントを今のうちに潰しておけば何かと楽だからね」
「そういうものですか」
「そういうものだよ」
 なら、別に否定することもない。
 僕達は話を聞くだけ。部長の演説を完璧に聞いて、もし悪いポイントがあれば指摘する、という簡単なこと。それだけで良いなら全然悪いことじゃない。
 そう思いながら、僕は耳を傾ける。
 そうして、部長の演説が始まるのだった。

   ※

 演説は五分程度で終了した。何せ、それぐらいで済ませるのが普通なのだという。だとすればそれで問題ないと思うし、特に変なポイントも見つからなかった。だから僕は指摘することはなかったのだけれど――。
「何か、気になることがあれば何でも話をしてくれ。話をしてくれること、建設的な意見を述べてくれること、それだけで充分だからね」
「じゃあ、一つ」
 言ったのは、あずさだった。
「何かな、伏見さん」
「『部活動の充実』と言いましたけれど、具体的には何をするんですか? 部費の増加とか?」
「それが一番部活動にとっては良いことだと思うんだけれど、収入がないと何も出来ないのもまた事実だからね……。だから、具体的には部費の増加というよりも部活動間の交流を中心にしておこうと考えているよ」
「と、いうと?」
「部活動間の大会とか、そういうのが挙げられるかな」
「それで部活動が充実する、と?」
「僕はそう考えているよ」
「……成程、分かりました。ありがとうございます」
「他に意見はあるかな? 誰でも、何でも、構わないよ。……さっきの意見については、少し文章に取り入れておくことにしよう。何せ、突っ込まれるポイントは、出来る限り潰しておくか、敢えてそのポイントを残しておいて、そこに誘導するかのいずれかだからね。だったら、僕は、潰しておいた方が良い。完璧な演説を求めるのが、僕の価値観だからね」
 結局、意見はそれ以上生まれることはなかった。
 それから、特に何かある訳でもなく、僕達は解散することになった。
 一週間後の公開演説の日。
 その日がとても楽しみだと、僕は思うのだった。

生徒会選挙 ⑨

  • 2019/05/24 14:46

「いっくん、お待たせ! オレンジジュースと……キットカットは売ってなかったから、ブラックサンダーに勝手に変えておいたよ!」
「なんで勝手にブラックサンダーに変えてしまうんだ。そこは一度帰ってきて変更の有無を問うとかすれば良かったものを」
「えー。だって、別にどっちだって良いでしょう? 別に、ブラックサンダーでもキットカットでも」
「……それ、お互いのファンに喧嘩売っているけれど、それでも良いのか?」
「?」
 ああ、もう、あずさはこんなことどうでも良いと思っているのかもしれない。
 仕方ないので、二百円を支払って、オレンジジュースのペットボトルとブラックサンダーを受け取る。
「……ところで、最近部長がやって来ていないような気がするけれど?」
「ああ、それ? だったら、多分、演説の資料集めでもしているんじゃないかなあ」
「資料集め?」
 演説にそんなもの、必要だろうか。
「だって、演説と言えば、大変な資料集めでしょう? それに、私、聞いたもん。演説をするためには、相手を必ずや打ち負かさなくてはならない。そのためにも、大量の演説資料を手に入れておいて、大量の原稿を書き上げておいて、何パターンもの原稿を用意しておく必要がある、って」
「そんなことがあるのか……」
「だから、気にしない方が良いよ。選挙が終われば、またいつもの部活動に戻るって。UFOの探索もまた始まるだろうし……」
「ねえ」
 そこで。
 今までずっと沈黙を貫いていたアリスが声を上げた。
 僕はあまりの驚きで声を上げそうになったが、それをすんでのところで留めておいた。
 アリスは話を続ける。
「UFOの探索って、具体的には何をするの?」
「えーと、UFOの探索は、具体的には、遠くから見下ろすことかな」
 説明するんかい。
 しかも、この前やったことじゃないか。
「……遠くから見下ろす?」
「この辺りに自衛隊の基地があるのは、有名過ぎることだと思うけれど」
 あずさはホワイトボードの前に立つと、丸と線で何かを描き始めた。
 感じからして、江ノ島と、この近辺の地形だろうか。
 そして、江ノ島と思われる丸の傍に、四角形を描く。
「これが、自衛隊の基地、瑞浪基地だね。瑞浪基地には宇宙部隊が設立されているって噂もある。現に、自衛隊には宇宙部隊は存在している訳だしね。そうして、その宇宙部隊は、UFOと接触をしているんじゃないか、って噂もあるのよ」
「それで、UFOを目撃しよう、って話なの?」
「部長達の目論見はさらに上を行くようだけれどね」
「?」
「聞いて驚くんじゃないわよ。何でも……、UFOの正体を突き止めようとしているのよ、部長達、いいえ、この宇宙研究部は!」
「…………何ですって?」
 いや、驚くな、とは言ったが。
 まったく驚かないのは流石に想定外過ぎる。
 それも、やっぱりもしかして彼女がUFOと関係のある人物だからなのだろうか?
「……分かっていないようだから、噛み砕いて説明するけれど」
 それでもあずさの説明は続いていく。
 普通、そこで心が折れそうなものだけれど。
「UFOの意味を、先ず貴方は理解しているかしら?」
「……知っている。未確認飛行物体、略してUFO」
「そう。そのUFOの存在が、どれ程珍しいか貴方は分かっているかしら?」
「とどのつまり、宇宙人が乗り込んでいるかもしれない、ということ」
「そういうこと。UFOには宇宙人が乗り込んでいるかもしれない。ということは、UFOは宇宙人と切っても切れない関係性があるということでもある」
 歩きながら、あずさはさらに話を続ける。
 ここからどうやって話を盛り上げていくつもりなのだろうか? 僕には分からない。
「とどのつまり! この宇宙研究部がやるべきことは国家機密に触れることを意味しているのよ!!」
 ………………。
 あー、待てよ、おい。
 まさかの打ち切り的ダイナミック展開で幕を下ろしやがったぞ、こいつ。
 アリスはどんな表情を浮かべているんだ――僕はそう思ってアリスの方を見た。
 アリスは、無表情を貫いていた。
「……何というか、彼女にはうまく嵌まらなかったようね」
「うまく嵌まらなかったって何だ? 今の説明で嵌まるような考えがあったのか?」
「五月蠅いよね、時折。いっくんって」
「何だよ、その言葉!」
 わいわいがやがや、と。
 それから二人の会話になってしまい、アリスは置いてけぼりを食らってしまうのだが、それに気づくのは、それから一時間後のことであった。
 アリスが唐突に立ち上がったのだ。
 僕とあずさは急な出来事で目線をそちらに送ってしまったのだが、アリスが一言、こう呟いた。
「帰る」
 そう言って。
 鞄を持って、スマートフォンを仕舞って、アリスはさっさと部室を出て行ってしまった。
「……何か悪いことでも言ったかな?」
「知らない。それとも、放っておいたことが原因だったり?」
 それは有り得るかもしれない。
 いずれにせよ、彼女にはいつか謝らなくてはならない、なんてことを思いながら、僕は再び『銀河ヒッチハイク・ガイド』の読了目指して読み進めていくのだった。

 

生徒会選挙 ⑧

  • 2019/05/24 00:21

 難題をぶつけられてしまった。
 帰り道、一人でうんうん唸っていたのだが、思えば今日はあずさが居ないのだ。
 そう言われてみたら、いつも二人で帰っているのに、あずさの家を知ることはない。
 何せ、場所が遠いためか、少し離れた位置で、曲がり角に突き当たってしまうのだ。
 僕が右に曲がり、あずさが左に曲がる。ただ、それだけの違い。
 そこから先は僕も知らない道になる。だから、簡単に行ける訳がないのだ。
「というか、明日からどんな顔してあずさに会えば良いんだよ……」
 明日からも、いつも通りあずさは僕の後ろに座っている。
 そんな中で、あずさはUFOと何らかの関係性を持っているなどという話を聞いてしまえば、それを思わずにはいられないのは当然のことだろう。
 それに、あずさには宇宙研究部に入部させられた責任を問う必要もあったりする。
 いや、責任と言って良いのだろうか?
 責任問題、というと何か重要なことに感じてしまうかもしれないけれど。
「……とにかく、明日からも普通に過ごしていかないと……」
 僕はそんなことを思いながら、道をぶらぶらと歩いて行くのだった。

   ※

 次の日の朝。
 僕が席につくと、あずさは既に席に腰掛けていた。
 なんてことのない日常。平和な日常。
「おはよう、あずさ」
「おはよう、いっくん。……寝癖、出来ているよ」
「嘘っ? ほんとう?」
 寝癖を必死に直そうとするところで、あずさが手鏡を僕に差し出してくれた。
 僕は鞄を机の上に置き、椅子に腰掛けると、手鏡を使って寝癖を探し始めた。
「直った?」
「直った、直った。完璧だよ」
 僕は手鏡をあずさに返すと、鞄から教科書やノート類を取り出して、引き出しに仕舞っていく。
「いっくんは教科書とかノートを全部仕舞う派なんだね?」
「それ以外に何があるって言うんだ? まさかいちいち取り出す派とかあるのかよ?」
「え? ないの?」
「あるかもしれないけれど、面倒じゃないか? 僕は一回で取り出せるから引き出しに仕舞う方が良いと思うけれどな」
「そういうものかなあ」
「そういうものだよ」
 徳重先生が入ってきたので二人の会話はこれでお終い。
 会話中、ずっとアリスが僕達の方を見つめていたけれど、それはまあ、無視しておくことにした。話をしても良かったんだけれど、変にこじらせたくもなかったし。

   ※

 部室に行くと、誰も居なかった。鍵が職員室にあったから当然と言えば当然なのだけれど、アリスとあずさと僕、という三人で残されるには少々苦痛のようなものがあった。
 はっきり言って、話が盛り上がらない。
 二人とも、スマートフォンを(そもそも校則でスマートフォンの持ち込みは禁止だったような記憶があるのだけれど、何処から持ち出しているのだろう)弄くっている。僕はというと、『銀河ヒッチハイク・ガイド』等を読み耽っている。名著ではあるが、読むには少々億劫になる一作である。購入する程のものかと言えば、そこまでではない(父が読書家だが、SFについてはあまり興味を持っていない)ので、結局家ではなく、図書室で読むようになってしまう訳だ。
 スマートフォンを弄くっているあずさは、急にスマートフォンから視線を外す。
 そうしてスマートフォンを鞄に仕舞うと、部室から飛び出していった。トイレだろうか。
 しかし、こうなるとアリスと僕の二人っきり。ますます会話は弾む訳もなく、部室には沈黙が幅を利かせるようになる。
 僕はというと、『銀河ヒッチハイク・ガイド』を中盤まで読み進めたところで栞を挟んだ。今日はこのままこの本を借りてしまおうと思ったのだ。
 ちなみに、宇宙研究部はあまりにも暇な部活動なためか、図書委員と兼務になっている。要するに、僕達が借りたい本はいつでも借りることが出来るのである。カウンターから判子を取り出して、後ろにある読書カードにぽんと押す。それで借りることは出来た。今日は木曜日だから、来週の木曜まで借りることが出来る。ってかもう木曜日か。一週間が過ぎるのは早いなあ。何というか、この部活動に入ってから、一週間を早く感じるようになってしまった。それはやっぱり、この部活動があまりにも暇だからだろうか。図書室を利用する人も居ないから実質僕達の独占状態に陥っている訳だし。
「いっくん、何飲みたい?」
 不意に。
 声がしたのでそちらを振り向くと、図書室の入口からあずさが顔だけ出していた。
「購買に行ってくるのか?」
「うん。そろそろ試験も近いしね。勉強してから帰ろうかな、って思ったりして。だから、もしいっくんが欲しいものがあるなら買ってこようかな、と。あ、勿論お金は後で支払ってよね」
「オレンジジュースとキットカットを頼む」
「オレンジジュースとキットカットね。りょーかい!」
 びしっ、と右手で敬礼をしたあずさはそのまま立ち去っていった。
「あ、アリスの分は聞かなくて良いのか……」
 言おうとしたが、それよりも先にあずさは立ち去っていった。あまりの速度にウサイン・ボルトもびっくりだ。
 そういう訳で、僕とアリスはまたまた二人きりになってしまった訳であった。

 

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