殺人鬼、御園芽衣子 ⑧
- 2019/05/27 23:33
「温い」
想像通り、アイスココアを飲んだあずさは開口一番僕にそう文句を垂れた。
「ゴメン……。コンビニに行ったら、ちょっと会話が弾んじゃって」
「誰と?」
「えと……、コンビニの店員と」
嘘を吐くしかなかった。
流石に殺人鬼と一緒に居ました、なんて言える訳がなかった。
「そういう訳で、今回の飲み物はいっくんの奢りね」
「えー?」
「だって温くなっちゃったんだし。私が頼んだのアイスココアだよ? どうして温いココアが届いちゃう訳? それだけでおかしい話だとは思わない?」
疑問符の連発に僕は戸惑う。
というか、仕方ないんだ。許してくれ。
……百五十円の飲み物で延々とちまちまと文句を垂れていても、それはそれでどうかと思ったので、僕はそれを受け入れることにした。
僕は、その奢りという条件を受け入れることにするのだった。
※
天体観測は空振りだった。
こう毎日続けても何も成果が得られないなら、十六日の登校日だけの部活動だけで良いんじゃないか、なんてことを思ってしまうレベルだ。部活動といっても、県大会とか地区予選とかある部活動は毎日部活動をやっている。けれど、僕達宇宙研究部にはそんな県大会だとか地区予選だとかある訳がない。そもそも他の中学校に宇宙研究部があるのか分からない。となると、やっぱり僕達にとってみればモチベーションの減退に繋がる訳であって……。
「仕方がないから今日は終わりにしよう。明日もやるからそのつもりでね」
嘘だろ。休みなしかよ。
毎日弁当を作って貰っている親の気持ちにもなって貰いたいものだ。
そんなことを思いながら、僕達は解散することになった。
僕達は、帰宅することになるのだった。
※
その日の夜。というか帰り道。
あずさは部長達と残って片付けをすると言っており、僕は一人で帰ることに相成った。
僕も残って片付けをすると言ったのだが、あんまり残ると私的に困るのよね? と桜山先生が言ってきたから仕方がないことだった。というか、だったらさっさと一年生を帰すか先生の車で帰して欲しいものだ。それが叶わないのは残念ではあるけれど(過去に一度言ってみたら、先生は自転車で出勤しているから駄目です! と言われてしまった)。
いつもの公園に、アリスが立っていた。
「アリス? どうしてこんなところに……」
確かアリスも帰って良いという指示を受けていたはずだった。だから今は一緒に家に向かっていたはずだったのだが――。
「おーい、アリス。何しているんだ?」
僕の言葉に、一瞬そちらを振り向いたアリス。しかし直ぐに元の方角に向き直して、また歩き始めていった。
「おーい、おーいってば!」
僕はアリスに走って追いついた。
「…………何?」
「一人で歩くなんて危ないよ。親とか呼んだら? それとも僕が家まで送ってやろうか?」
「…………良い、別に」
ぷい、と向いてそのまま歩いて行った。
「でも危ないぜ。最近は連続殺人鬼とか出てきているし……」
でもそれは殺人鬼本人から否定されてしまったけれど。
「…………大丈夫、問題ない」
それ、死亡フラグって知っているか?
言おうと思ったけれど、それ以上は言わなかった。
あまり押し通すのもどうかと思ったので、僕はそのままアリスを見送ることにした。
アリスが角を曲がって見えなくなるまで、僕は彼女を見送ることしか出来ないのだった。
ああ、きっと部長とかに言ったら意気地なしなどと答えるのだろうな。
そんなことを思いながら、僕もまた家に向かって歩き出すのだった。