孤島の名探偵 ⑥
- 2019/05/25 23:02
意外というか、当然というか。
結局のところ、UFOのゆの字も見えやしなかった。
僕はずっと望遠鏡で星空を眺めていた。
時折見やると、部長とあずさが会話をしている。しかし、遠くで話をしているためか、どんな話をしているのかまでは聞こえてこなかった。
まあ、気にする話でもないだろう、と僕は思った。
「……UFO、結局見つからなかったですね」
「まあ、あと二日ある! その二日で成果があれば良いのだ! あっはっは!」
いや、笑っている場合ですか?
UFOの観察、最終的にUFOとはなんたるかを見つけるのが役目だったはずなのに、それが何も成果がないなんてことになったら部費が減少する原因になりかねないだろうか。
……なんてことを思ったところで、そういえばこの部活動には生徒会会長と副会長が居るということに気づいて、それは考えるまでもないことだったということに気づかされるのだった。
※
「どうして貴方もこの合宿に参加したの?」
「参加しちゃ悪かったかしら。私はこの部活動が危険かどうかを見定めるためにやって来たのだから。貴方だって、いつ戻っても良いように、あちらにも『籍』は残しているはずでしょう?」
「それは、言わない約束だったはずよ。ベータ」
「そうだったわね、アルファ。……でも、貴方、この部活動に気を許しすぎなのではなくて?」
「というと?」
「所詮、我々と彼らは相容れることのない存在であるということ。それを理解しておかねばならないということ。それは貴方だって重々承知のはず」
「分かっている。分かっているわよ……」
「いいや、分かっていない」
ベータは即座にアルファの行動を否定する。
「貴方は分かっていない。だからあの部活動に馴染んでいる」
「馴染むことも重要な行動の一つよ。そうでなければ、怪しまれることもない」
「だったら良いのだけれど」
「?」
「貴方達がやろうとしていること、それこそが愚問と言っているのよ、アルファ」
こうして、アルファとベータの会話は終了した。
※
今日はいろんなことがあった気がする。
ベッドに潜り込みながら、そんなことを考えていた。
部屋にテレビがなければ、インターネット環境がある訳でもない。だから本でも読もうかと考えていて、持ってきていた『ハーモニー』を読もうと思っていた訳だけれど、それよりも先に睡眠欲がやって来てしまって、結局のところ、眠るしかないという結論に至るのだった。
「この本を読むのは明日以降にすることにしよう……」
けれど、団体行動で、個人行動である読書に勤しむのもどうかと思う。
まあ、でも明日だったら結局休まることが出来るはずだ。僕はそんなことを思いながら、目を瞑るのだった。
だけれど、僕は気づかなかった。
だけれど、僕は知らなかった。
だけれど、僕は分からなかった。
明日起きる、宇宙研究部最大の悲劇に――。
明日起きてしまう、宇宙研究部と袂を分かつことになりかねない悲劇に――。
※
次の日。
「きゃあああああああああああ!!」
あずさの悲鳴を聞いて目を覚ました僕は、慌てて階下へと降りていく。
すると、食堂には僕以外の全員が既に集まっており、僕はその違和感に漸く気づくことが出来るのだった。
「……いったい何があったんですか?」
僕の言葉に、部長が代表して答える。
「……殺されたんだ、桜山さんが」
「……え?」
「だから! 桜山さんが殺されたんだ、と言っているだろう!」
「桜山さんが……? 殺された、ですって……?」
僕は、漸くその状態を見ることが出来た。
辺りは血の海になっていた。
そして、その真ん中にナイフを突き刺された状態の桜山さんが居た。
既に血の気はない。動かない様子を見て、漸く僕はそれが『死』であると実感した。
「ほんとうに、ほんとうに、死んでいるんですか……?」
「見て分かるだろう。……僕だって、慌てたいところだが、代表者として慌てることは出来ない。それは僕が一番理解している」
「じゃあ、どうするんですか」
「どうするって、どうするんだ」
「犯人は、この中に居るんですよね?」
僕は、冷静に。
冷静に、そう問いかけた。
冷静に出来ているかどうか、分からないけれど。
「……いっくん。流石に冷静過ぎやしない? まるで、一度経験しているかのような」
「そんなことはないよ。……僕だって、足が震えている。動けない。けれど、やるべきことはやるしかない。だって、クルーザーを運転出来る唯一の人間が死んでしまった。つまりそれは、この場所が絶海の孤島であることを意味しているんだから」
絶海の孤島。
インターネット環境もなければ、電話環境もない。
その場所であるからこそ、その場所であるからこそ。
僕達は、いつかは犯人を捕らえなくてはならないのかもしれない。
危険性を排除しなければならない。
こうして始まった、僕達の犯人当てゲーム。
いや、ゲームというより、現実的なことなのだけれど。
それが僕達にとってどのようなことを意味しているのかは、今は未だ分からない。
分かるはずがない。
分かり合えるはずがない。
それが、犯人と僕達の価値観の違いなのだから。