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2019年05月21日の記事は以下のとおりです。

第三種接近遭遇 ⑨

  • 2019/05/21 23:42

 そして、週末がやってきた。
 午後七時に片瀬江ノ島駅に集合ということで、僕は三十分前に家を出た。江ノ電に乗り、江ノ島駅に到着したのが午後六時四十五分。そこから歩いて、片瀬江ノ島駅に到着したのは、ちょうど五分前のことだった。
「遅いぞ、いっくん」
 声をかけてきたのは、あずさだった。青のシャツに白いプリーツスカートを履いた彼女は、何処か大人びて見える。
「?? いっくん、どうしたの? 私の顔に何か付いている?」
「い、いや! そんなことはないよ」
「見とれていたんだやろ、いっくん」
 言ってきたのは野並さんだった。黒いパーカーにジーンズという格好で、そのまま夜道を歩いていると車に轢かれそうなぐらい真っ黒な格好をしていた。
 どうしてそんな真っ黒なんですか? と質問すると、これから盗撮するのに目立たない格好をしない方がおかしいだろ、と言ってきた。盗撮している自覚はあるらしい。
 遅れてやってきたのは、池下さんだった。チャリンコに乗ってやってきた池下さんは、籠に大きなカメラを持ってやってきていた。
「そのカメラは?」
「阿呆、UFOを撮影するのに使うんだ」
「そうですか。……ところで、何処で撮影するんですか?」
「そりゃ、勿論、あそこだろ」
 そう言って。
 野並さんと池下さんは、ある一点を指さした。
 そこにあったのは――江ノ島の灯台だった。

   ※

 正確に言えば。
 江ノ島の灯台は午後八時で閉まってしまうため、その近辺での撮影ということに相成った。それで問題はないのか、と聞いてみたが特に問題はないらしい。そもそも江ノ島自体は人が居住している島であり立ち入りに制限はない。駐在さんに何か言われるかもしれないが、それでも午後十時までは問題ない、という結論に至るのだった。
 そこまで言うなら安心だ、と思い僕は江ノ島へと渡っていた。江ノ島の夜景はぼんやりとしていて、何処か暖かい雰囲気を感じさせる。調べたところによるとおおよそ三百人ぐらいの人間が住んでいるらしく、観光地としての趣を今も保っているらしい。
 坂道を登ると、大きなエスカレーターが見えてきた。
「これは?」
「江ノ島エスカーという、大きなエスカレーターだよ。ま、今の時間は営業時間外だから使えないけれどね」
「そうですか」
 ちょっぴり残念。使えるなら使ってみたかった。
 そんなことはさておき、階段を登って灯台近辺の地形へと歩いて行く。辺りに明かりはちらほらあるものの、人は誰も居なかった。鬱蒼と生い茂る森だけが広がっており、時折鳥の鳴き声がする。
 正直怖いという気持ちが勝りつつあったが、それ以上に、『UFOは本当に居るのか?』という思いが強くなってきていた。出来ることならUFOを眺めてみたい、という思いが徐々に強まってきていた。
 もしかしたら、それもまた、野並さんの策略なのかもしれないけれど。
 しかし策略なら策略で構わない。それに全力で乗っかってやろうじゃないか。
「この辺りで撮影しよう」
 そう言い出したのは、野並さんだった。
 カメラの三脚を取り出して、三脚を組み立てる。そしてカメラを載せて、カメラを瑞浪基地へと向ける。
 それだけのことだったのだが、辺りは緊張の糸が張り詰めていた。
 僕はただ先輩二人がやっていることについて、少しばかり考えることしか出来ないのだった。

 

第三種接近遭遇 ⑧

  • 2019/05/21 20:35

「……じゃあ、その日は早めにご飯を食べる感じで良いってことだね?」
「そういうことになるかな。ごめんね、急にそんなことを言って」
「良いよ、良いよ。あんたが直ぐ学校に馴染めたようで何より」
 馴染めたか馴染めていないかと言われると、未だ微妙なところなのだけれど、それはまあ、言わないでおこう。
 そういう訳で、説明は済んだ。
 後は当日を迎えるばかりである――僕はそんなことを思いながら残りのご飯をかっ込んでいくのだった。

   ※

 次の日。僕はいつしか普通に宇宙研究部の部室がある図書室副室へとやってきていた。
「おっ、来たな、いっくん」
 既に野並さんが入っていて、本を読んでいた。
「……今日の会議はないんですか?」
「会議は毎日するものではないよ。題材があれば、やるけれど。それとも何かそれなりの題材を持ってきたのかい?」
「そんな訳、あると思っているんですか」
「だろうねえ。未だ君はこの部活に馴染めているように見えないし」
「当然です。UFOに興味があるとは言いましたが、UFOが居るとは一言も言っていませんから」
「……それ、本当に思っているのかい?」
「はい?」
「だから、UFOは実在しないと、ほんとうに思っているのかい、と言っているんだ」
「居る訳ないじゃないですか。そんなの、陰謀論と同じくらいですよ」
「しかし僕たちは実際に見ている訳だし」
「示し合わせれば良いだけの話ですよね? それに、UFOが見つかっていれば大スクープになっているはずです。それをしない理由は? いったい全体何処にメリットがあるというのですか?」
「……君は痛いところを突いてくるね」
「少し考えれば思い浮かぶはずです。昨日、僕も頭を整理してそういう考えに至りました」
「そういう考えに至った、ねえ……」
 そう言って。
 野並さんは図書室副室の本棚から一冊の本を取り出した。埃の被っているその本は、アイザック・アシモフの書いたSF小説だった。
「これを君に見せるのは、未だ先の事だと思っていたのだけれど」
 そう言って、野並さんは小説本の間に挟まっていたあるものを僕に見せてくれた。
 それは一枚の写真だった。
 そして写真には、円盤形の何かが映し出されていた。
 正確には、円盤形の何かが、あまりの速度で飛び回っているためか、少しぼやけた姿になっている状態。
 しかし、それは明らかにUFOと呼べる代物だった。
「こ、これって……」
「ああ、UFOだよ。僕たちが初めて見つけて、初めて魅せられたそれは、紛れもないUFOだ」
「これが、瑞浪基地から発進していると?」
「瑞浪基地から飛び立つのを見たんだ。だから今度は映像で撮ろうと考えている」
「それは瑞浪基地から飛び立つという決定的瞬間を捉えるために?」
「ああ」
 なんてこった。UFOはでまかせじゃないのか。
 これなら僕が否定しているのも、馬鹿馬鹿しくなってくるではないか。
「分かってくれたかな」
 ぼうっとしていた僕から写真を奪い取ると、また元の位置に戻す。
「これは、あずさも知っているんですか?」
「彼女も見ているよ。もっとも、彼女はそれ以前からあの基地に目をつけていたようだったけれど」
「何故?」
「今度、自衛隊に宇宙部隊が設立されるのは聞いたことがないかね?」
 ああ、何かテレビのニュースでやっていたような気がする。人工衛星を迎撃するために設置する部隊だとか。陸海空にさらに宇宙まで守る意味があるのか、なんて思ってしまっていたから普通にスルーしていたけれど。
「その宇宙舞台が、宇宙人……つまり異星人と接触をしていたら?」
「それってつまり、第三種接近遭遇ってことですか!?」
 第三種接近遭遇。
 空飛ぶ円盤の搭乗員と、接触をすること。
 確か偉い博士の文献にそんなことが書いてあったような気がする。
「でも、そんなことが有り得るなんて……」
「有り得るのさ。現に今、君に写真を見せた。そしてそれは、UFOの写真であると君も認識した。そうだろう?」
「それは……」
 そうかも、しれないけれど。
「はっはっは! 今週末が楽しみになってきたな! なあ、いっくん?」
 そう言って野並さんは僕の肩をぱんと叩いた。痛い。
 野並さんは荷物をまとめると、出かける用意をしてしまった。
「何処に?」
「今日はもう帰る。誰も来ないようだしな。もし君がこの部屋を使うなら鍵を君に預けておこう。どうかな?」
「いや……今日は僕も帰ります」
 誰も来ないなら、これ以上ここに居る意味がない。
 そう思って、僕もまた帰る準備をし出すのだった。
 それを見た野並さんは、つまらなそうに、指で、鍵をぶんぶんと振り回しているのだった。

第三種接近遭遇 ⑦

  • 2019/05/21 20:06

「ただいま……」
「おかえりなさい。あら? どうしたの、元気ないみたいだけれど」
 家に帰ると、母が食事の準備をしていた。母は料理は苦手だけれど、作らない人間ではない。ついついコンビニに頼りがちな家庭でもあるかもしれないけれど、しかしながら我が家はそんなことがないので、そこについては良い家庭なのかな、と思っている。
 ぐつぐつ煮込む何かは、良い香りをしていた。肉じゃがか何かだろうか。
「僕は大丈夫だよ。それより、今日のご飯は何? 肉じゃが?」
「そうよ。貴方好きでしょう?」
「うん」
 母の作る肉じゃがは副菜というよりかは主菜になり得るおかずである。味が濃いため、それだけでご飯の友になるのだ。
 学生服を着替え、いつものジャージ姿になる。
「お腹空いたでしょう、もうすぐご飯出来るから」
「父さんは?」
「お父さんは、今日も忙しいから遅くなるって。何でも宴会があるんだって」
 この場合の宴会は、いわゆる仕事後の飲み会ではなく、仕事の宴会を意味している。どういうことかといえば、やっぱりそこは料理人として腕を奮う必要が出てくる訳であって、結果的に帰るのが遅くなる――という理論だ。
「じゃあ、食べちゃおうか。ご飯は?」
「面倒臭いからどんぶりにしちゃって良い?」
「良いよ」
 そう言うと、炊飯器からよそったご飯の上に肉じゃがを汁たっぷりでかけ始めた。
 これが我が家に伝わるお袋の味、『肉じゃが丼』である。
 テーブルにそれが置かれると、醤油の香ばしい香りが辺り一面に広がった。
 僕は座り、箸を手に取る。そして「いただきます」と言って、どんぶりを手に持ち、そのまま肉じゃがの一欠片を口にかっ込んだ。
 直ぐに醤油の味とじゃがいものほくほく具合が口の中に広がっていく。その味を忘れないうちに白飯を口に入れていく。ああ、美味い。
「美味しいよ」
「ほんと、あんただけだよ。お父さんはいちゃもんをつけて味付けに文句ばかり言ってくるから……」
「それは料理人として仕方ないんじゃない?」
「何それ。あんた、お父さんの肩を持つつもり?」
「いや、そういうつもりじゃないけれどさ……」
 食事はゆっくりと進んでいく。
 我が家では、あまり食事中に会話をしない。それは会話をするな、と決めた訳じゃないけれど、いつしかそのようになってしまった、と言った方が正しいのかもしれない。
 そして、いつしかテレビを見ながらご飯を食べるようになった訳である。流石に無音では、困る。
「そういえばさ」
「何?」
「今週末、部活動で少し出歩くことになったんだけれど」
「何、あんた、もう部活動入ったの? どんな部活動?」
「……宇宙研究部って部活動」
「…………変わった部活動ね」
「それを言われちゃおしまいなんだけれど」
 咀嚼をし終えて、さらに話を続ける。
「それで? その部活動でどう出歩くことになったの?」
「星を見ようって話になったんだよね」
 流石に『UFOを見に行く』とは言えるはずもない。
 母さんには悪いけれど、少し嘘を吐くことにしよう。
「星を見に行く? 良いじゃない、神秘的で。何処でやるの?」
「学校の屋上で。一時間から二時間ぐらいで終わると思うよ」
「送り迎えしようか?」
「良いよ、そこまでしなくても」
「そう?」
「だって仕事もあるだろ」
「そりゃそうだけれど」
 それに、送り迎えなんてされてしまっては、せっかくの嘘が無駄になる。
 だから出来ることなら関わって欲しくない、とそう思う訳だ。
 

第三種接近遭遇 ⑥

  • 2019/05/21 05:34

「後の議題は何かあるかい? もしかして、これでお終い? だとすれば、会議はお終いになる訳だけれど」
「集合場所、何処にしやすか」
「片瀬江ノ島駅で良いだろう! UFOの飛来時間は何時だ?」
「午後八時となってますね」
「だったら午後七時に片瀬江ノ島駅集合! ……あー、でも、あれか。いっくん、君はここに来て日が浅いんだったか」
 日が浅いどころか昨日来たばかりですが。
「あずさくん! 今日、彼を片瀬江ノ島駅に連れて行ってくれ! 集合場所はそこで教えることにしよう!」
「あいあいさー」
 右手で敬礼をするあずさ。ちょっ、本人の了承なしで物事が進んでいるんだけれど、それってどういうことなのかな!?
 とまあ、そんなことを言ったところで物事が解決する訳もなく、結局僕たちの会議はそのまま幕を下ろしてしまった。
 会議としての幕を下ろした後は、個々人の活動になるらしい。野並さんは勉強をするためにたくさんの本を取り出してはテーブルに積み上げていく。池下さんは趣味? のラジオを弄くり回している。
 僕とあずさはというと、何もすることがないから、二人で面と向き合ってしまっている。
「……何をしても構わない訳だけれど」
「何をしても問題ないと言われてもだね。やっぱり、少し躊躇ってしまうところがある訳だよ。僕は未だここに来て三日目だぞ?」
「だったら二人で観光でも行ってきたらどうだ? ほら、さっき言った片瀬江ノ島駅に向かうのもアリだ。江ノ電に乗っていけばそう距離もかからないし」
「江ノ電に乗って、って……。放課後にそんな遠くに行くのはどうかと思いますけれど」
「はっはっは! 江ノ電に乗って鎌倉や藤沢に行くのは日常茶飯事だぞ、いっくん! それとも、二人で行くのがそんなに恥ずかしいかね?」
「そ、そんな訳は!!」
「だったら行けるだろう。ほら、一緒に行ってくるが良い」
 そう言って、野並さんは財布から千円を取り出した。太っ腹だ。
「部費ですね」
「部費だ」
 部費なのか……。
 少し落胆してしまった僕をよそに、あずさはそそくさと帰る準備をしている。
 僕も帰る準備をしなければ、そう思って鞄に筆箱やらなんやらを仕舞い出すのだった。

   ※

 七里ヶ浜駅には、ウインドサーフィンのマストをモチーフにしたオブジェが設置されていた。
「これはね、ここが湘南の海岸沿いにある駅だから、こういうのがついているんだよ」
「成程ね……。確かにさっきからサーフィンボードを持った人と良くすれ違う訳だ」
「そういえば、ICカード持っているかな?」
「ICカード? Suicaなら持っているけれど」
「なら万事OK。チャージは大丈夫かな?」
「五百円ぐらいなら入っているはずだけれど……」
「それならOK。江ノ島駅でチャージ出来るからね。さっ、電車が来たから乗ろう!」
 見ると、ホームに電車が入り込んできた。
 それを見て、僕たちはICカード簡易改札機にICカードをタッチして、電車に乗り込むのだった。
 電車はガラガラで、直ぐに座ることが出来た。
「何処で降りるんだ?」
「さっき言ったじゃない、江ノ島。ここから行くと四つ目だね。……あ、信号場が見えてきた」
「信号場?」
「江ノ電は単線だから、途中でこんな感じで交換設備があるんだよ。多分もうすぐ止まるはず」
 すると彼女の言った通りに、電車が止まった。
 直ぐ横にはレールが走っているが、電車がやってくる様子はない。
 少し待っていると、直ぐ横に電車がやってきて、その電車も停止する。
 それを合図に、僕たちの乗っている電車はゆっくりと動き出した。
「ね?」
「ね? と言われても……。僕の昔住んでいたところじゃ、こんなのなかったけれどさ」
「ないなら、少しは驚きなよ! わーいとか、すごーいとか!」
「いや、そう簡単に驚ける訳ないだろ……」
 それから彼女は腰越駅と江ノ島駅の間にある併用軌道(車と電車が併用して走ることの出来る区間のこと。道路上をレールが敷かれていて、そこを電車が走るという形)についても熱弁してくれたけれど、何だか眠くなってしまったので特に話は聞いちゃいなかった。
 江ノ島駅に着いて、改札機を出ると、あすさは腕を引っ張ってきた。
「何だよ、腕を引っ張るんじゃないよ」
「ここから片瀬江ノ島駅までは少し歩くからさ。だから!」
「だから、何だよ。別に良いだろ、ばらばらで歩いても」
「そうかもしれないけれど……。うー、ケチ」
「ケチで結構」
 少し歩くと、赤い竜宮城のような建物が見えてきた。
「凄いでしょ、これが片瀬江ノ島駅だよ! いっくんがどうやってここに来たのか分からないから、もしかしたら一昨日の内に経験したかもしれないけれど!」
「いや、ここには車で来た。……いや、凄いな。こんな建物があるんだったら、待ち合わせ場所にはちょうど良いかもな」
「おっ! ちょっとはUFOに興味が湧いてきたかな!?」
「UFOのことをあまり外で言わない方が良いと思うぞ。ちょっと気味悪がられると思う」
「そうかな? あ、あそこ、アイスクリーム屋があるよ!」
「良いのか?」
 僕の言った『良いのか?』は、部費を使い込んでも良いのか? という意味だったのだけれど。
 どうやらあずさには、アイスクリームを買ったところでバレやしない、という意味の良いのか? に受け取られてしまったらしく。
「大丈夫、大丈夫!」
「……なら良いけれど」
 まあ、買い込んだところで怒られるのはあずさだ。未だ僕は入部もしていないんだからな。
 そういう訳で、部費の千円のお釣りで、僕たちはアイスクリームを買うに至るのだった。

 

第三種接近遭遇 ⑤

  • 2019/05/21 05:07

「……何ですと?」
「ああ、素晴らしい、部長! ついにやり遂げるんですね!」
「ああ、そうだとも、あずさくん。我々は遂に計画を成し遂げる機会に恵まれたのだ!!」
「ま、可能性の一つという風に捉えて貰えれば良いですけれどね。確定事項かどうかは怪しいですけれど。もしかしたら自衛隊が流したダミーかもしれない」
「ダミーな訳があるか! ダミーだとしても、我々の探究心を満たすためには、やはり現場へ向かうしかないのだ!」
「あ、あの……」
「どうした? このことについて、何か文句があるなら聞こうじゃないか」
「いや、文句とかそういう話じゃないんですけれど……。UFOを観察する、ってどういうことですか?」
「何を言っている、文字通りの意味だ。それ以上に何がある」
「UFOが? 江ノ島に? 出るんですか?」
「ああ、そうだとも! 彼の無線傍受技術は素晴らしいものがあるからね!」
「いや、それ電波法違反ですよね」
「法律に囚われる我々ではない!」
「そういう問題じゃなくて。……あー、もう何処から話せばいいのやら分からない」
「君もUFOに興味があるのだろう!?」
 もう何かの新興宗教じゃないか、と疑ってしまうレベルの感情の起伏だった。
「……確かに興味はありますけれど」
「だーったら、私達の『観察』に付いていくべきだ! そうだ、付いていくべきだとも! それ以上に何の意味があるというのだ!」
「いや、あのですね……」
「ごめんねえ、部長、UFOの話になるとヒートアップしちゃって」
 あずさが声をかけてきた。あずさは向かい側に腰掛けている。
 あずさ曰く、この部活動は宇宙を研究する部活動である、と。そして、未確認飛行物体――とどのつまり、UFOが江ノ島近辺にある自衛隊基地、通称『瑞浪基地』に飛来しているのを目撃したのをきっかけに、UFOの観察を日課にするようになったのだという。
 それからは早く、無線傍受技術を持つ池下さんが入り、興味を持ったあずさが入り、そして僕が連れ込まれた。とどのつまり、順当に行けば、僕は四人目の適格者ということになる。……なんてエヴァ? いや、エヴァだったら僕は初号機に噛み砕かれてしまうので出来ればNGでお願いしたい。
「つまり君で四人目なのだよ! この部活動に入ってくるのは!」
「……はあ、そうですか」
「何だね。もっと興味を持たないのか! 例えば、やってくるUFOはどんなUFOなのか、とか」
「じゃあ、どんなUFOなんですか」
「円盤形のUFOだ。至ってシンプルなUFOだと言われているよ」
「それを見たのは?」
「僕と、池下。あずさくんは一度も見ていなかったんじゃなかったかな」
「へへっ、ちょっとタイミングが合わなくて」
 あずさは笑っていた。
 実はこの活動が嫌いなんじゃないか?
 そんなことを考えていたけれど、あまり言わないことにしておいた。
 だって、言うと面倒臭いし。
「で。UFOを見るにはどうすれば良いんですか?」
「おおっ、早速興味を持ってくれたようで何よりだよっ」
「ちっ、違いますっ。僕はただ、気になっただけで……」
「それを『興味を持った』って言うんじゃないの?」
 言ったのは、あずさだった。
 あずさ、お前、後で覚えておけよ……。
「……とにかく! 今週末、絶対に来てくれよ! そうじゃないと部活動の未来に関わる。沽券に関わることなんだ! 重要なことだと言っても良い!」
「何処がどう重要なのか教えて貰いたいものですね」
「あと一人部員が入らないと、今年度の部費が大幅カットされるんだよー」
「あっ、こらっ、あずさくんっ! それは言わない約束だったはずっ!」
「あー、そうでしたっけ。失礼失礼。今のは忘れて」
 忘れて、と言って忘れることが出来たらどれだけ人間は楽に生きていけるだろうか、
 結局、忘れることなんて出来ないのだけれど。
 

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