ラブレター ⑨
- 2019/05/31 22:54
藤沢駅に到着して、江ノ電に乗り込む。土日だけれど、時間的に空いていた。だ
から僕達は普通に座ることが出来た。
「……疲れたわね。やっぱり、歩き通したからかなあ」
「歩き通した、って言うか立ちっぱなしだったこともあるし、喉も酷使したし……、それが原因なんじゃないのか?」
「やっぱり?」
やっぱり、って何だよ。分かっていたんじゃないか。だったら僕が言うまでもないことだったんじゃないのか?
それはそれとして。
「…………疲れた」
言ったのは、アリスだった。
アリスはずっと喋っていなかったからてっきり疲れをも感じないのかと思っていたが、そこまで人間離れしていないようだった。
「驚いた。アリスも『疲れた』なんて言うんだな」
「…………私をなんだと思っているの」
「いやいや、そういうことを言っているつもりではないんだがなあ……。でもまあ、間違っていることではないか」
「アリスのことを馬鹿にしていることだけは伝わってくるわね……」
そうだろうか。
アリスを馬鹿にしているつもりはないのだけれど、僕にとってみれば、アリスのことは宇宙人としか思っていないから、馬鹿にしていると言われればそう思うのかもしれない。ただ単純に考えて、アリスは普通の人間じゃないと思っているので、あずさもそれは承知しているとすっかり思っていたから、僕の反応もすっかり理解していると思っていたからだ。しかしながら、あずさも頭が固い。今の感情が、『馬鹿にしている』と思われているとははっきり言って心外だ。
『まもなく、七里ヶ浜です』
アナウンスが聞こえて、僕の思考は中断された。
「もう七里ヶ浜ね。降りる準備しないと」
そう言って、あずさは立ち上がると、電車はゆっくりと減速する。
やがて電車は七里ヶ浜駅のホームに停車していく。
「とーちゃーくっと」
あずさの言葉は少し抜けた言葉だった。
けれど、僕達にとっては若干救いのある言葉だったというか、有難い言葉だったというか、嬉しい言葉だったように思える。何せアリスと僕だけだったら、会話が一切生まれなかっただろうから。
「じゃ、今日はさよならね」
あずさはそう言って、アリスと一緒に帰っていった。
そして、ひとりぼっちになった僕はとぼとぼと家に帰っていくのだった。
※
「デートじゃねえの、それって」
そう言ったのは、部長だった。
「やっぱりそうですよねえ……」
「思うのも仕方ないというか、当然というか、何というか……」
「結局のところは、ただのデートだったって訳だろ? 映画館にカラオケにショッピング……言っている内容からすれば完璧にデートの内容じゃないか。それ以上でもそれ以下でもない、完璧なデートプランだ」
「そりゃ、そうかもしれないですけれど……。でもデートとは言っていないですし」
「いやいや、言っていなかったとしてもやっていることはデートと変わらないんだから、それはデートと言えるんじゃないかい?」
「それもそうかもしれないですね……」
「さってっと、僕はデートの話を聞きに来た訳じゃないんだ。さっさと生徒会選挙の公開演説の文章を考えないといけない訳だからさ」
そう言ってそそくさと出て行った部長。
何のために来たんだ――なんてことを考えるのは、野暮な話だった。