エントリー

生徒会選挙 ⑩

  • 2019/05/24 15:08

 そして、次の日。金曜日。
 久しぶりに部長と池下さんがやって来ていた。珍しいな、なんて思っていたのだけれど、部長は何処か疲弊している様子を見せていて、大丈夫かな、なんてことを思わせていたのだが――。
「来週、遂に公開演説の日がやって来る。という訳で、事前に準備しておかないといけなくてね」
「何かありましたっけ? 準備しておくことって」
「事前準備は念入りにしておくことが一番のポイントだよ。それくらい分かっておいた方が良いと思うがね?」
「それは失礼致しました」
 変に話を盛り上げていくよりかは、さっさと止めてしまった方が良い。そんなことを思いながら、僕は話を続ける。
「……じゃあ、アレですか? もしかして今から演説の予習をしておくとか」
「そうそう、そういうのをしようと思っていたんだよ。しておくと後で楽だし、何か突っ込まれるポイントを今のうちに潰しておけば何かと楽だからね」
「そういうものですか」
「そういうものだよ」
 なら、別に否定することもない。
 僕達は話を聞くだけ。部長の演説を完璧に聞いて、もし悪いポイントがあれば指摘する、という簡単なこと。それだけで良いなら全然悪いことじゃない。
 そう思いながら、僕は耳を傾ける。
 そうして、部長の演説が始まるのだった。

   ※

 演説は五分程度で終了した。何せ、それぐらいで済ませるのが普通なのだという。だとすればそれで問題ないと思うし、特に変なポイントも見つからなかった。だから僕は指摘することはなかったのだけれど――。
「何か、気になることがあれば何でも話をしてくれ。話をしてくれること、建設的な意見を述べてくれること、それだけで充分だからね」
「じゃあ、一つ」
 言ったのは、あずさだった。
「何かな、伏見さん」
「『部活動の充実』と言いましたけれど、具体的には何をするんですか? 部費の増加とか?」
「それが一番部活動にとっては良いことだと思うんだけれど、収入がないと何も出来ないのもまた事実だからね……。だから、具体的には部費の増加というよりも部活動間の交流を中心にしておこうと考えているよ」
「と、いうと?」
「部活動間の大会とか、そういうのが挙げられるかな」
「それで部活動が充実する、と?」
「僕はそう考えているよ」
「……成程、分かりました。ありがとうございます」
「他に意見はあるかな? 誰でも、何でも、構わないよ。……さっきの意見については、少し文章に取り入れておくことにしよう。何せ、突っ込まれるポイントは、出来る限り潰しておくか、敢えてそのポイントを残しておいて、そこに誘導するかのいずれかだからね。だったら、僕は、潰しておいた方が良い。完璧な演説を求めるのが、僕の価値観だからね」
 結局、意見はそれ以上生まれることはなかった。
 それから、特に何かある訳でもなく、僕達は解散することになった。
 一週間後の公開演説の日。
 その日がとても楽しみだと、僕は思うのだった。

ページ移動

ユーティリティ

2024年05月

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

カテゴリー

  • カテゴリーが登録されていません。

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ページ

  • ページが登録されていません。

ユーザー

新着エントリー

過去ログ

Feed