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2019年05月20日の記事は以下のとおりです。

第三種接近遭遇 ④

  • 2019/05/20 23:57

 図書室の副室。そう簡単に言っているけれど、要するに準備室だった。準備室の一部を部室として借りている形になっているらしい。それで良いのか、部活動。生徒会とかあったら一番に検挙されそうな場所だと思うのだけれど。
「……あの、一つ聞きたいんですけれど」
「何だ?」
「部員って、あずさ……さんと、部長だけなんですか?」
「もう一人居るぞ! 多分遅れてやってくるだろうがな!」
「もう居ますよっと」
 図書室で本を読んでいた一人の男子生徒が、こちらに向かって歩いてきた。
「おお、何だ、池下。居るなら居るって言ってくれれば良かったのに!」
「言おうと思っていたんですけれど、何だか騒がしくって。……新入部員? この部活に? 変わっているね、君」
「貴方だって、ここに加入している時点で変わっている人間に見えなくもないですけれど……!」
「まあ、良いじゃないか。図書室を自由に使えるって案外都合が良いんだよ」
「例えば?」
「勉強が出来る!」
「それ、部活動関係ないよね!?」
「あと、本が読める!」
「それも部活動関係ないよね!?」
「ははは! 二人はとっても仲良しだな! これならこの部活にもすんなり馴染めそうだ」
「いやいや! 僕は最初からこの部活に入るなんて一言も言っていませんけれど!!」
「……」
「……」
「……え?」
「いや、え? じゃなくて! 僕は入るなんて一言も言っていません! 勝手にあずさに連れてこられただけです! 寧ろ言ってしまえば拉致ですよ、拉致!」
「その言い方はひどくない!? 一応私は入部試験のつもりであなたに問いかけたはずだけれど!」
「何を言った、言ってみろよ!」
「UFOに興味ない? って」
「確かに言っている……」
「ほら! いっくんはそこで『好きだ』と言ったはず! ということはこの部活動に入る意思有り! さあ、どうですか、部長!」
「確かにこれは否定しようがない事実だな……。受け入れなさい、いっくん」
「くそっ、ここにはまともな人間は居ないのかよ!?」
「ちょっと待てよ。一応仮入部期間というのも考慮してあげないか?」
 そう言ったのは、池下さんだった。
 池下さん、グッジョブ!
「仮入部? ……ああ、一週間あるんだったか。じゃあ、その一週間のうちにこの部活動に魅力を持たせれば良いんだな!」
「うわ、そう来たか」
「心の声が聞こえているぞ、いっくん!」
 部長、いいや、正確には野並さんがそう言ってきた。
 部長と言わなかったのは、僕は未だこの部活動に加入していないからだ!
「だったら、今週末、ちょうどいいんじゃないですか?」
「え?」
 言ったのは、池下さんだった。
「どういうことだ?」
「江ノ島に、あれが出ますよ」
「……まさか、情報が手に入ったのか!?」
「ええ。つい先程ね。簡単でしたよ、無線の周波数を引っ張ってくるのも」
 な、何の話?
 僕は慌てふためいて二人の話を聞いていたのだが――。
「ちょ、ちょっと、先輩方! いっくんが慌てているじゃないですか! いっくんにも説明してあげてくださいよ」
「そうだな……。だったら、副室に入って貰おう。良いな?」
「……まあ、入るくらいだったら」
 という訳で。
 僕は図書室副室へ、宇宙研究部のメンバーとともに入ることになった。
 副室には段ボールが山積みされており、それを片付けるように中心にテーブルが置かれている。そしてテーブルには四つ椅子が置かれていて、まるで元から僕がこの部活動にやってくるかのような感覚に陥らせる。
 駄目だ、それは敵の錯覚だ。陥るんじゃない。
 そう自らを奮起させながら、僕は扉側の椅子に腰掛けた。
 そして、野並さんは部室の一番奥に腰掛けると、こう言った。
「……今週末、我々はUFOを観察する!」
 

第三種接近遭遇 ③

  • 2019/05/20 23:35

「だから、僕は行かないと言っているだろうが」
「えー、そんな話聞いてないなあ」
 二階の廊下を、腕を引っ張られながら歩く僕。引っ張っている相手は、紛れもなく、いや、言わずもがな、あずさである。というか、なんであずさはここまで無頓着に僕につきまとうのだろうか? そんなに、UFOに興味があることが珍しいのだろうか? 宇宙研究部という部活動があるらしいのに?
「……というかさ、引っ張らないで貰えるかな。一人で歩けるよ」
「ほんと? 急に逃げ出したりしない?」
 ……読まれてやがる。
 だとしたら、ここで逃げるのは止した方が良い。
 というか、同じクラスの前後の席だ。逃げ切れる訳がない。
「……なあ、分かるだろ? 君と僕の位置関係的に逃げても無駄だってことが。分かってくれれば、良いんだけれど」
「そ。確かにその通りね」
 そう言って。
 彼女は僕の腕を漸く放してくれた。
「助かった……。これで変な疑いを持たれなくて済むよ」
「変な疑い、って?」
「思春期にありがちな、誰と誰が付き合っているか、みたいなアレだよ、アレ」
「ああ、それね。別に良いじゃない、放っておけば」
「放っておけば、って……。君みたいに図太い性格なら良いかもしれないがね。僕は繊細なんだ。それぐらい理解して欲しいものだね!」
「何よ、それ。私の性格を批判している訳?」
「まあまあ、二人とも。こんなところで喧嘩をしていたら、変な噂を立てられますよ?」
 誰だ!? と僕はそちらを振り返った。
 大柄の男が立っていた。
 いや、制服を着ていたから、生徒か。
 生徒、というにしては大柄過ぎる気がしないでもないけれど。
「あ、部長。新入部員連れてきましたよ!」
「ぶ、部長……? ってか、僕は入るって一言も」
「おお! 新入部員か! とうとう連れてきてくれたんだね!? 一年生という輝かしい部分から、この宇宙研究部という部活に入ってくれる人間を!!」
 眼鏡をくいっとあげながら、叫ぶ生徒。
 うん。やっぱこの部活変な部活だ。
 そう思って踵を返そうとしたそのとき、がしっと肩を掴まれた。
「逃げても無駄、って言っていたわよね、いっくん?」
「い、いっくんって何処から出てきたワード……?」
「ほら、君の名前、――でしょ」
 唐突に僕の名前を口にするあずさ。
 まあ、確かにそうだけれどさ。
「だから、そこから一文字取って、『いっくん』。良いじゃない、前の名前より呼びやすいし。改名したら?」
「お前の思いつきで改名出来る程、市役所は優しい場所じゃねえよ!」
 市役所に行って、『いっくん』で改名お願いします、って言ってOKサイン出たらそれはそれで行政の考えを疑うわ!
「いっくん、か。良い名前だねえ。僕は良い渾名をつけられたことがないからなあ。部長と呼んでくれて構わないよ。あ、ちなみに僕の名前は野並シンジだ。よろしく、いっくん」
「だから、いっくんって呼ばないでくださいよ……」
 家でもいっちゃん呼ばわりされているのに、学校でもいっくん呼ばわりされたらますます僕の名前が分からなくなってしまう現象が発生してしまうじゃないか!
「そうだ。部長。今、何をしていたんですか?」
「うん? 図書室の副室の鍵を借りに職員室に行っていた所だよ。徳重先生が新しい生徒が来たら宜しくね、と言っていたけれど、君がその新しい生徒?」
「はい……、そうです」
 もしかしたら、顔を赤らめているかもしれない。
 そんなことを思いながら、下を向きつつ答える僕。
 にひひ、と笑みを浮かべているあずさには、もう昨日のあのかっこいいイメージはない。薄れている、と言っても良いけれど、完全にゼロと言って良いだろう。あんなイメージを抱いた僕が悪かったんだ。少しでもかっこいいと思った、僕が。
「ああ、そうだったんですね。だったらちょうど良い。先生にも紹介したいところだし、さっさと部屋に入りましょ、部長、いっくん」
「だから、いっくんと大声で呼ぶのは止めろって……」
 こうして。
 僕はほぼ強制的に、宇宙研究部のある図書室副室へと案内されることになるのだった。

 

第三種接近遭遇 ②

  • 2019/05/20 20:24

「どうだった? 先生の様子」
 一時間にわたる説明が終わった後、廊下を歩きながら母は僕に問いかけた。
「未だ学校なんだから、そんなこと言える訳ないだろ」
 僕の言葉に、母はふうん、とだけ言った。
「でも悪く無さそうじゃない。先生も良い雰囲気だったし」
「……雰囲気だけじゃ感じ取れないことだってあるよ。それは、母さんだって学んだことだろ」
「…………それもそうね」
 二階にある小会議室から、職員専用の出入り口まで少し距離があった。僕たちは現状ここの学生(と母親)ではないので、職員専用の出入り口から出ることになっているのだ。
 そこから見える景色といったら、グラウンドとプールだった。
「……プール?」
「プールがそんなに珍しい?」
「いや、だって海があるからプールなんてないものかと」
「田舎はね。でも都会は遠泳禁止ってところが多いし、仕方無いんじゃない? 詳しい話は先生に聞いたら」
「そうだね」
 プールを見ると、何人かの学生が泳いでいた。
 スクール水着のラインが、やけにいやらしく見える。
 ついつい視線を追ってしまうのは、中学生の性なのだろうか。
「……何よ、もしかして水着姿を追いかけていたり?」
「そ、そんなこと有る訳ないじゃない」
「お。慌てたってことはそういうことかな」
「……いやいや、そういうつもりじゃないから! マジで!」
 それはともかく。
 もう一度僕はプールに目線をやった。
 それは何故だか分からない。プールに、もしかしたら見たいものがあったのかもしれない。
 飛び込み台の上に居る、一人の少女。
 青がかったポニーテールの髪型をした少女は、いざ飛び込もうとしたポーズを取っていた。
 そこで。
 僕の視線に気づいたのか、僕の方を振り向いた。
 僕は慌てて目を背けようとしたが、それよりも先に、視線の正体に気づいた彼女は僕にピースサインをした。
 は、恥ずかしい。
 僕はそんなことを思いながら、職員専用の出入り口から外に出るのだった。

   ※

「――です。よろしくお願いいたします」
 次の日のショートホームルーム。僕は普通に挨拶を済ませると、窓際の後ろから二番目の席に案内された。そしてその一番後ろには、見覚えのある姿があった。
「あ、君は昨日の……」
「おっ、のぞき魔くんじゃないか。まさか転入生なんてね」
「ばっ、ち、違うよ!」
「あれ? 木村くんと伏見さんは早速仲良くなっているのかしら? 嬉しいことねえ」
 担任の徳重先生は、そう言って笑顔で僕たちを見る。
「「そんな訳ないですよ!!」」
 僕たちの声は、何処かハモったような気がした。
 それがクラスの笑いを誘う。
 仕方無く、僕はその席に腰掛けた。
 彼女は、後ろからひそひそ声で語りかける。
「あんたのせいで変な空気になっちゃったじゃない」
「僕が悪いって言うのかよ?」
「あんたが悪いわよ。……えーと、私の名前だけれど、伏見あずさ。よろしくね」
 そう言って、あずさは笑いかける。
 何だかこの席も悪くないような気がして――一時間目の授業が始まるのだった。

   ※

「部活、決まっているの?」
 放課後。あずさにそう問いかけられ、僕は首を傾げる。
「どうして?」
「この学校、部活動に入るのが強制になっているから、帰宅部なんて選択肢は不可能よ。一応言っておくけれど」
「そうなの?」
「そうなのよ。それで、貴方に質問なんだけれど」
「うん」
「UFOに興味ある?」
「……は?」
「UFO。未確認飛行物体。宇宙人の乗り物という意味を込めて、エイリアンクラフトなんて呼ばれることもあるわね」
「それが、どうしたって言うんだ? 僕がUFOに興味があることと、何か問題が?」
「興味はあるのか、ないのか。そこが問題なの」
 ない、と言えば嘘になる。
 和風西洋様々なオカルティックな噂に興味を持っていた父の影響で、そのような雑誌を小さい頃から触れていた。オカルティックな噂をテーマにした小説も書いたことがある。それを小学生時代にいじめっ子にクラスで大声で読まされたのは……はっきり言って思い出したくない思い出の一つだ。
「で、どうなの」
 彼女はずい、と前に出て僕に問いかける。
「興味はあるの? ないの?」
「…………あります」
「え? 聞こえない」
「あります! オカルトに興味があります!」
「それで宜しい!」
 彼女は手を差し出し、僕に笑みを浮かべてきた。
「それじゃあ、招待するわ! 貴方を『宇宙研究部』に!」
 ――宇宙研究部?
 僕の頭は、直ぐに疑問でいっぱいになるのだった。

第三種接近遭遇 ①

  • 2019/05/20 20:02

 海は良いぞ、と先輩は言った。
 どれくらい良いんですか、の言葉に先輩はどれくらいだろうなあ、と答えるばかりだった。
 でも飛び込むのは気持ちいいことだぞ、と言ってきた。
 だから僕は海を見たら、絶対に飛び込もうと決めていた。


 神奈川県のとある街。
 海沿いに面する道を挟んで向こう側に、その中学校はあった。
 千葉の住宅街に住んでいた僕にとってみれば、海なんてちょっとしょっぱい池か湖みたいな感覚しかなかった。別に海に行ったことが無いからそんなことを言えるんだ、なんて言われてしまえばそこまでだけれど。
 とにかく、僕は中学生にして初めて海を見た。
 両親は忙しなく引っ越しの準備に追われていた。だから明日、学校に来てくれるのはどちらになるかなんて分かったものでもなかった。
 夏前の、中途半端な時期に転校。
 仕事の事情だから仕方無いのだけれど、もう少し選ぶ選択肢があっても良かったんじゃないか、なんて思えてしまう。
 まあ、それを言ったところで無駄なんだけれど。
「ごめんね、いっちゃん。それで? 何の話だったかな?」
 長い電話を終えた母が、僕の名前を呼んで声をかける。
 いっちゃん、というのは僕の名前から取った、ニックネームのようなものだ。本名よりもそちらの方が呼びやすいからその名前がつけられているだけに過ぎない。別に両親ぐらいは本名を呼んでくれても良い気がするのだけれど。
「明日、誰が来てくれるのかな、ってことだったんだけど」
 母は煙草の火をつけながら、うんうんと頷いた。
 ちなみに明日着ていく学生服は別の部屋に避難させている。煙草のにおいがついてしまっては、溜まったものではない。何を言われるか気が知れないからだ。
 母は、学校から貰った手紙を読みながらうんうんと頷いている。
「明日は私が行くわよ。仕事も見つけないと行けないし。父さんは明日から仕事だし。……それで良かったわよね?」
「……ああ」
 父は、寡黙な人間だった。
 というか、家庭に無頓着な人間だった。だのに、小学校の後半にさしかかったあたりで急に声をかけてきて、気づけば家庭に力を入れ始めている。遅すぎる教育改革とはまさにこのことを言うのだろう。その台詞を誰が口にしたのかは、分からないけれど。
 父も煙草を吸いながら、地図を眺めていた。大方、明日の仕事場についての確認をしているのだろう。
 父は料理人だった。和風・中華・洋風何でもござれ、の人間で、二十年以上この道を進んできている。確かに味は一流で、不味いものを作った記憶がない。まあ、父の料理を食べる機会なんて年に一度あれば良い方なのだけれど。
 母もまた、料理人だった。正確に言えば、調理師免許を持っているだけの、ペーパー料理人とでも言えば良いだろうか。父と料理の腕を比べれば、まさに雲泥の差。どちらが泥なんて分かりきった話である。
 母も父と同じ職場に長年勤めていたのだが、僕が生まれることをきっかけに退社。今はパートで生活を食いつないでいる始末である。パートなんて見つかるのか、なんて思ったけれど、未だ三十代半ばの年齢には色々とパート出来る職場があるようだった。なければないで困るのはこちらな訳だけれど。
「……ところで、明日、そのまま学校受けてく? それとも、一度家帰るんだっけ?」
「明日は顔見せだけで、明後日から学校の手はずだっただろ。それぐらい忘れないでくれよ」
「ああ、ごめんごめん。明日は顔見せだけね。……で、どう? なじめそう?」
「未だ一度も行ったことのない学校に?」
「冗談よ、冗談。良い学校だと良いね、明日」
「……うん」
 荷物を片付け始める母を見ながら、僕は頷くのだった。
 というか、頷くことしか出来ないのだった。

 ※

 次の日。
 学校に到着すると、潮風のしょっぱい香りがした。
「潮風って、良いよね。なんというか、田舎を思い出すよ」
「田舎って、九州の?」
 母の田舎は九州の山間だったと記憶しているが。
「福岡まで行って泳ぎに行ったものだよ、昔は」
「そんなもん?」
「そんなもんだよ」
 校門を潜ると、ちょうど部活動をやっている時間だったのか、グラウンドが騒がしかった。
 校舎に入ると、トランペットの音が聞こえて、吹奏楽部が演奏しているのを容易に想像することが出来た。
「いろんな部活があるみたいだね」
「そうだね。ま、その辺りは詳しく先生に聞きな」
 そう言われてしまってはそれまでだけれど。
 職員室から、小会議室に案内され、少し待機していると、先生二人が入ってきた。
「私がここの校長である、吹上と言います」
 初老の男性が恭しい笑みを浮かべて頭を下げた。
 それを見て僕たちも頭を下げる。
 続いて、大柄な女性が声をかける。
「私が担任の徳重です。どうぞよろしく」
 徳重先生が手を差し出してきて、それを見た母は手を受け取る。
 お互いにぎこちない様子を見せているが、それもまた仕方無いことなのだろう。
 何せ時期が時期。この時期に入ってくる転入生自体が珍しいことなのだから。
「……明日のことについて、詳しく説明したいのですが」
 持ってきた資料の量を見て愕然としながら、僕たちは腰掛けるのだった。

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