第三種接近遭遇 ②
- 2019/05/20 20:24
「どうだった? 先生の様子」
一時間にわたる説明が終わった後、廊下を歩きながら母は僕に問いかけた。
「未だ学校なんだから、そんなこと言える訳ないだろ」
僕の言葉に、母はふうん、とだけ言った。
「でも悪く無さそうじゃない。先生も良い雰囲気だったし」
「……雰囲気だけじゃ感じ取れないことだってあるよ。それは、母さんだって学んだことだろ」
「…………それもそうね」
二階にある小会議室から、職員専用の出入り口まで少し距離があった。僕たちは現状ここの学生(と母親)ではないので、職員専用の出入り口から出ることになっているのだ。
そこから見える景色といったら、グラウンドとプールだった。
「……プール?」
「プールがそんなに珍しい?」
「いや、だって海があるからプールなんてないものかと」
「田舎はね。でも都会は遠泳禁止ってところが多いし、仕方無いんじゃない? 詳しい話は先生に聞いたら」
「そうだね」
プールを見ると、何人かの学生が泳いでいた。
スクール水着のラインが、やけにいやらしく見える。
ついつい視線を追ってしまうのは、中学生の性なのだろうか。
「……何よ、もしかして水着姿を追いかけていたり?」
「そ、そんなこと有る訳ないじゃない」
「お。慌てたってことはそういうことかな」
「……いやいや、そういうつもりじゃないから! マジで!」
それはともかく。
もう一度僕はプールに目線をやった。
それは何故だか分からない。プールに、もしかしたら見たいものがあったのかもしれない。
飛び込み台の上に居る、一人の少女。
青がかったポニーテールの髪型をした少女は、いざ飛び込もうとしたポーズを取っていた。
そこで。
僕の視線に気づいたのか、僕の方を振り向いた。
僕は慌てて目を背けようとしたが、それよりも先に、視線の正体に気づいた彼女は僕にピースサインをした。
は、恥ずかしい。
僕はそんなことを思いながら、職員専用の出入り口から外に出るのだった。
※
「――です。よろしくお願いいたします」
次の日のショートホームルーム。僕は普通に挨拶を済ませると、窓際の後ろから二番目の席に案内された。そしてその一番後ろには、見覚えのある姿があった。
「あ、君は昨日の……」
「おっ、のぞき魔くんじゃないか。まさか転入生なんてね」
「ばっ、ち、違うよ!」
「あれ? 木村くんと伏見さんは早速仲良くなっているのかしら? 嬉しいことねえ」
担任の徳重先生は、そう言って笑顔で僕たちを見る。
「「そんな訳ないですよ!!」」
僕たちの声は、何処かハモったような気がした。
それがクラスの笑いを誘う。
仕方無く、僕はその席に腰掛けた。
彼女は、後ろからひそひそ声で語りかける。
「あんたのせいで変な空気になっちゃったじゃない」
「僕が悪いって言うのかよ?」
「あんたが悪いわよ。……えーと、私の名前だけれど、伏見あずさ。よろしくね」
そう言って、あずさは笑いかける。
何だかこの席も悪くないような気がして――一時間目の授業が始まるのだった。
※
「部活、決まっているの?」
放課後。あずさにそう問いかけられ、僕は首を傾げる。
「どうして?」
「この学校、部活動に入るのが強制になっているから、帰宅部なんて選択肢は不可能よ。一応言っておくけれど」
「そうなの?」
「そうなのよ。それで、貴方に質問なんだけれど」
「うん」
「UFOに興味ある?」
「……は?」
「UFO。未確認飛行物体。宇宙人の乗り物という意味を込めて、エイリアンクラフトなんて呼ばれることもあるわね」
「それが、どうしたって言うんだ? 僕がUFOに興味があることと、何か問題が?」
「興味はあるのか、ないのか。そこが問題なの」
ない、と言えば嘘になる。
和風西洋様々なオカルティックな噂に興味を持っていた父の影響で、そのような雑誌を小さい頃から触れていた。オカルティックな噂をテーマにした小説も書いたことがある。それを小学生時代にいじめっ子にクラスで大声で読まされたのは……はっきり言って思い出したくない思い出の一つだ。
「で、どうなの」
彼女はずい、と前に出て僕に問いかける。
「興味はあるの? ないの?」
「…………あります」
「え? 聞こえない」
「あります! オカルトに興味があります!」
「それで宜しい!」
彼女は手を差し出し、僕に笑みを浮かべてきた。
「それじゃあ、招待するわ! 貴方を『宇宙研究部』に!」
――宇宙研究部?
僕の頭は、直ぐに疑問でいっぱいになるのだった。