第三種接近遭遇 ⑤
- 2019/05/21 05:07
「……何ですと?」
「ああ、素晴らしい、部長! ついにやり遂げるんですね!」
「ああ、そうだとも、あずさくん。我々は遂に計画を成し遂げる機会に恵まれたのだ!!」
「ま、可能性の一つという風に捉えて貰えれば良いですけれどね。確定事項かどうかは怪しいですけれど。もしかしたら自衛隊が流したダミーかもしれない」
「ダミーな訳があるか! ダミーだとしても、我々の探究心を満たすためには、やはり現場へ向かうしかないのだ!」
「あ、あの……」
「どうした? このことについて、何か文句があるなら聞こうじゃないか」
「いや、文句とかそういう話じゃないんですけれど……。UFOを観察する、ってどういうことですか?」
「何を言っている、文字通りの意味だ。それ以上に何がある」
「UFOが? 江ノ島に? 出るんですか?」
「ああ、そうだとも! 彼の無線傍受技術は素晴らしいものがあるからね!」
「いや、それ電波法違反ですよね」
「法律に囚われる我々ではない!」
「そういう問題じゃなくて。……あー、もう何処から話せばいいのやら分からない」
「君もUFOに興味があるのだろう!?」
もう何かの新興宗教じゃないか、と疑ってしまうレベルの感情の起伏だった。
「……確かに興味はありますけれど」
「だーったら、私達の『観察』に付いていくべきだ! そうだ、付いていくべきだとも! それ以上に何の意味があるというのだ!」
「いや、あのですね……」
「ごめんねえ、部長、UFOの話になるとヒートアップしちゃって」
あずさが声をかけてきた。あずさは向かい側に腰掛けている。
あずさ曰く、この部活動は宇宙を研究する部活動である、と。そして、未確認飛行物体――とどのつまり、UFOが江ノ島近辺にある自衛隊基地、通称『瑞浪基地』に飛来しているのを目撃したのをきっかけに、UFOの観察を日課にするようになったのだという。
それからは早く、無線傍受技術を持つ池下さんが入り、興味を持ったあずさが入り、そして僕が連れ込まれた。とどのつまり、順当に行けば、僕は四人目の適格者ということになる。……なんてエヴァ? いや、エヴァだったら僕は初号機に噛み砕かれてしまうので出来ればNGでお願いしたい。
「つまり君で四人目なのだよ! この部活動に入ってくるのは!」
「……はあ、そうですか」
「何だね。もっと興味を持たないのか! 例えば、やってくるUFOはどんなUFOなのか、とか」
「じゃあ、どんなUFOなんですか」
「円盤形のUFOだ。至ってシンプルなUFOだと言われているよ」
「それを見たのは?」
「僕と、池下。あずさくんは一度も見ていなかったんじゃなかったかな」
「へへっ、ちょっとタイミングが合わなくて」
あずさは笑っていた。
実はこの活動が嫌いなんじゃないか?
そんなことを考えていたけれど、あまり言わないことにしておいた。
だって、言うと面倒臭いし。
「で。UFOを見るにはどうすれば良いんですか?」
「おおっ、早速興味を持ってくれたようで何よりだよっ」
「ちっ、違いますっ。僕はただ、気になっただけで……」
「それを『興味を持った』って言うんじゃないの?」
言ったのは、あずさだった。
あずさ、お前、後で覚えておけよ……。
「……とにかく! 今週末、絶対に来てくれよ! そうじゃないと部活動の未来に関わる。沽券に関わることなんだ! 重要なことだと言っても良い!」
「何処がどう重要なのか教えて貰いたいものですね」
「あと一人部員が入らないと、今年度の部費が大幅カットされるんだよー」
「あっ、こらっ、あずさくんっ! それは言わない約束だったはずっ!」
「あー、そうでしたっけ。失礼失礼。今のは忘れて」
忘れて、と言って忘れることが出来たらどれだけ人間は楽に生きていけるだろうか、
結局、忘れることなんて出来ないのだけれど。