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第三種接近遭遇 ⑧

  • 2019/05/21 20:35

「……じゃあ、その日は早めにご飯を食べる感じで良いってことだね?」
「そういうことになるかな。ごめんね、急にそんなことを言って」
「良いよ、良いよ。あんたが直ぐ学校に馴染めたようで何より」
 馴染めたか馴染めていないかと言われると、未だ微妙なところなのだけれど、それはまあ、言わないでおこう。
 そういう訳で、説明は済んだ。
 後は当日を迎えるばかりである――僕はそんなことを思いながら残りのご飯をかっ込んでいくのだった。

   ※

 次の日。僕はいつしか普通に宇宙研究部の部室がある図書室副室へとやってきていた。
「おっ、来たな、いっくん」
 既に野並さんが入っていて、本を読んでいた。
「……今日の会議はないんですか?」
「会議は毎日するものではないよ。題材があれば、やるけれど。それとも何かそれなりの題材を持ってきたのかい?」
「そんな訳、あると思っているんですか」
「だろうねえ。未だ君はこの部活に馴染めているように見えないし」
「当然です。UFOに興味があるとは言いましたが、UFOが居るとは一言も言っていませんから」
「……それ、本当に思っているのかい?」
「はい?」
「だから、UFOは実在しないと、ほんとうに思っているのかい、と言っているんだ」
「居る訳ないじゃないですか。そんなの、陰謀論と同じくらいですよ」
「しかし僕たちは実際に見ている訳だし」
「示し合わせれば良いだけの話ですよね? それに、UFOが見つかっていれば大スクープになっているはずです。それをしない理由は? いったい全体何処にメリットがあるというのですか?」
「……君は痛いところを突いてくるね」
「少し考えれば思い浮かぶはずです。昨日、僕も頭を整理してそういう考えに至りました」
「そういう考えに至った、ねえ……」
 そう言って。
 野並さんは図書室副室の本棚から一冊の本を取り出した。埃の被っているその本は、アイザック・アシモフの書いたSF小説だった。
「これを君に見せるのは、未だ先の事だと思っていたのだけれど」
 そう言って、野並さんは小説本の間に挟まっていたあるものを僕に見せてくれた。
 それは一枚の写真だった。
 そして写真には、円盤形の何かが映し出されていた。
 正確には、円盤形の何かが、あまりの速度で飛び回っているためか、少しぼやけた姿になっている状態。
 しかし、それは明らかにUFOと呼べる代物だった。
「こ、これって……」
「ああ、UFOだよ。僕たちが初めて見つけて、初めて魅せられたそれは、紛れもないUFOだ」
「これが、瑞浪基地から発進していると?」
「瑞浪基地から飛び立つのを見たんだ。だから今度は映像で撮ろうと考えている」
「それは瑞浪基地から飛び立つという決定的瞬間を捉えるために?」
「ああ」
 なんてこった。UFOはでまかせじゃないのか。
 これなら僕が否定しているのも、馬鹿馬鹿しくなってくるではないか。
「分かってくれたかな」
 ぼうっとしていた僕から写真を奪い取ると、また元の位置に戻す。
「これは、あずさも知っているんですか?」
「彼女も見ているよ。もっとも、彼女はそれ以前からあの基地に目をつけていたようだったけれど」
「何故?」
「今度、自衛隊に宇宙部隊が設立されるのは聞いたことがないかね?」
 ああ、何かテレビのニュースでやっていたような気がする。人工衛星を迎撃するために設置する部隊だとか。陸海空にさらに宇宙まで守る意味があるのか、なんて思ってしまっていたから普通にスルーしていたけれど。
「その宇宙舞台が、宇宙人……つまり異星人と接触をしていたら?」
「それってつまり、第三種接近遭遇ってことですか!?」
 第三種接近遭遇。
 空飛ぶ円盤の搭乗員と、接触をすること。
 確か偉い博士の文献にそんなことが書いてあったような気がする。
「でも、そんなことが有り得るなんて……」
「有り得るのさ。現に今、君に写真を見せた。そしてそれは、UFOの写真であると君も認識した。そうだろう?」
「それは……」
 そうかも、しれないけれど。
「はっはっは! 今週末が楽しみになってきたな! なあ、いっくん?」
 そう言って野並さんは僕の肩をぱんと叩いた。痛い。
 野並さんは荷物をまとめると、出かける用意をしてしまった。
「何処に?」
「今日はもう帰る。誰も来ないようだしな。もし君がこの部屋を使うなら鍵を君に預けておこう。どうかな?」
「いや……今日は僕も帰ります」
 誰も来ないなら、これ以上ここに居る意味がない。
 そう思って、僕もまた帰る準備をし出すのだった。
 それを見た野並さんは、つまらなそうに、指で、鍵をぶんぶんと振り回しているのだった。

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