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2019年05月の記事は以下のとおりです。

八月三十一日①

  • 2019/05/28 18:59

 八月三十一日。
 文字通り、夏休み最後の一日。
 その日まで、残り五時間というところまで迫ってきていた。
「終わらねえー! 夏休みの宿題が、全然終わらねえよー!」
 しかし、僕は、出来ることなら夏休みの延長を待望していたのだった。
 あと一日と五時間で終わる訳がない。このボリューム、一人で出来る訳がない。
 せめて宇宙研究部のみんなが手伝ってくれれば……なんて思ったけれど、そんなことは出来る訳がないだろう。
 あの連中が他人の勉強を手伝ってくれることなんて、一パーセントの確率もない。
 あの連中、なんて言ってみてはみるものの、数ヶ月はお世話になっているのだから、少しは言い方を変えてみてはどうだろうか、なんてことを思わせてしまうのだけれど、しかしながら、僕に取ってみては彼らはただの夏休み搾取ロボットでしかない。ゆっくり休めるはずの夏休みの殆どを、天体観測と旅行で費やされてしまっているのだから。
「一生、九月一日がやってこなければいいんだけれどな……。或いは、夏休みの宿題が瞬間に終われば良いんだけれど」
 そんな願いは、叶う訳がない。
 そう分かっていても、呟く事しか出来ない。
「……ああ、何というか、満たされない夏休みだったような……」
 そういえば今年は海も行けていない気がする。いや、謎の洋館には行ったけれど。
「来年こそは良い夏休みを迎えることが出来れば良いんだけれどな……」
 そんなことを思いながら、ベッドに横になる。
 もう結局、明日の自分に済ませてしまえば良い。
 そんなことを思いながら、僕は眠りに就いた。
 そう、そのときまでは。

   ※

「最終日も結局天体観測ですか……」
「何だい? 何か悪いことでもあるかい?」
「ないとは言わないですが……。何というか、ネタに飽きてきたというか……」
「ネタって何だよ、ネタって。そんなことはないよ。天体観測の時期は今がピークなんだからね。瑞浪基地からいつUFOが出なくなるかどうかも分かったものじゃない。そう考えれば、別に天体観測も悪いものじゃないだろ?」
「でも海にも行けなかった程のハードスケジュールだった訳だし……」
「それは海に行けないような計画を立てた君が悪い」
「そんな馬鹿な!」
 入部したときはそんなブラックな部活動だとは思いもしませんでしたよ!
 僕はそんなことを思いながら、天体観測の準備を進めるのだった。

   ※

 天体観測を終えて、夏休みの収穫を再確認。
 結局、夏休みはUFOの画像を撮影することは出来なかった。
 UFOなんてそう滅多に撮れるものじゃないから、仕方無いのかもしれないけれど、とはいえ、そのUFOを見つけることが出来るというのもこの宇宙研究部のモチベーションに繋がる訳であって、出来ることなら一度ぐらいは見つけておきたかった訳でもある。
「今日は最終日だし、みんなでファミレスでも行こうか?」
 桜山先生がそんなことを言ってきたので、僕達はそれに従うことにした。
 既に時刻は午後九時。夕食は今日は食べてくると言ってきたので特に問題はないはずだ。そう思って僕はそれに頷いた。
「そういえば皆さん、宿題は終わりました?」
「終わったよ」
「終わったよ、当然だろ?」
「終わりましたよ」
「…………終わった」
 全員が終わったとの報告。
 なんと終わっていないのは僕だけだった。
「そんな質問をするということは、いっくんは未だ終わっていないということ?」
「…………うん、未だ終わっていないんだ。帰ったら徹夜で終わらせないと……」
「徹夜はあまりしない方が良いよー。成長が止まるらしいしね」
「そうなんですけれど……。でも夏休みの宿題が終わらない方が未だ大変なので」
「そうなのよねえ……。四十日もあるぐらいだから、大量に宿題を押しつけてやろう、という思いも分からなくもないけれど。何せ私は宿題を押しつけた側の人間だし?」
 ああ、そういえばそうだった。
 確かに桜山先生は数学の先生で、どちらかといえば宿題を押しつける側の人間だったことを思い知らされた。
 それはそれとして。
 結局、僕は特に進展もなく、夏休み最後の天体観測(後夜祭含め)を終えることが出来たのだった。

   ※

 家に帰ると、急激な眠気に襲われた。
 エナジードリンクなどは購入してきていない。だから自力で目を覚まさなくてはならない。
 しかしながら、この眠気じゃいくら何でも作業効率が悪い。
 今の時刻は午後十時。家を出るのは午前八時。残された時刻はあと十時間。宿題の分量的にあと五時間はあれば終わることが出来るはず。
「それなら、あと五時間は寝てもいいはず……」
 そう思って、僕はベッドに崩れ落ちた。
 それが、失敗だったということに気づくまで、そう時間はかからなかった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑫

  • 2019/05/28 06:12

 結局、他のメンバーがやって来るまで、アリスは帰ってこなかった。
 だから僕はあれの続きを聞くことは出来なかった。
 何だろう、このむず痒さは。
 犯人は分かっているのに、警察に突き出すことは出来ない。
 どうせ突き出したところで、『任務』と命じたところが揉み消すに違いないということ。
 そもそも『任務』を命じたところはいったい何処になるんだ?
 UFOが来た次の日に彼女はやって来た。……ということは、彼女はやっぱり、『宇宙人』なのか? だとしたら所属は何処になる? 自衛隊? そもそも僕達の法律で裁ける人間だというのだろうか?
 分からない。全くもって分からない。
 僕は、ちっぽけな人間だ。
 僕は、小さい人間だ。
 何も出来ない、何もすることが出来ない、何も逃れる事が出来ない。
 ちっぽけで、臆病で、どうしようもない人間だ。
 でも、それでも。
 やれることはきっと――あるんじゃないか?
 僕はそんなことを思うようになるのだった。

   ※

 その夜も、天体観測は失敗だった。
 UFOが見えることはなかったのだ。
 いつも通り片付けは部長達とあずさに済ませて、僕とアリスはさっさと帰ることになった。
 アリスはというと、僕の予想の五倍ぐらいのスピードでさっさと帰ってしまったため、続きを聞くことは出来なかった。
 そうそう、強いて言うならば。
 今日も彼女に出会うことが出来た――ってことぐらいかな。

   ※

 後日談。
 というよりもただのエピローグ。
 相浜公園のブランコに、今日もあいつはやって来ていた。
「……御園芽衣子」
「やっほ、いっくん。どうしたの、そんな暗い顔して」
 ブランコの隣に腰掛ける僕は、そんなに暗い顔をしていただろうか。
「犯人は、やっぱり俺だったか?」
 その言葉に、首を横に振る。
「そりゃ、とんだ冤罪だったな。そして、その態度からしてどうやら犯人も見つけているようだが」
「ああ。見つけているよ。けれど、そいつを警察に突き出すことはきっと出来ない」
「どうして? このまま俺の冤罪が適用されたまま、って言うのかよ? まあ、きっと過去にやった殺人をでっち上げてくるんだろうけれどよ」
「……あいつは、殺人を『任務』と言った。だから、あいつには上が居るんだ。命令系統上の上の存在が。その存在をどうにかしない限り、何も始まらないし、何も終わらない」
「そいつをどうにかすることは?」
「出来ないだろうね。今の僕じゃ」
「ふうん。お前らしくもない」
 ブランコから立ち上がると、僕の前に立つ御園。
 御園は言った。
「……それでもお前は俺と同じ存在なのかよ? いっくん」
 そう言い残して、御園はそのまま公園から出て行ってしまった。
 僕はそれを、見えなくなるまでずっと見送ることしか出来ないのだった。

   ※

 最後に、もう一つ。
 三日前の殺人を最後に、殺人事件は収まった。ワイドショーも殺人事件をあまり取り上げなくなってきたので、このまま殺人事件は闇に葬られることになるのだろう。
 結局、アリスが犯人だったのか。
 結局、御園が犯人だったのか。
 それは分からない。
 それが分からない。
 けれど――これだけは分かる。
 中学生一人で何とかなるようなものじゃない――何か大きな流れがあるということを。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑪

  • 2019/05/28 05:58

 次の日。八月十六日は登校日だった。別にそれ以上でもそれ以下でもない、ただの八月十六日になるはずだった。なるはずだったんだ。
 午前中の授業を終えて、部室に向かうと、そこにはアリスしか居なかった。
 アリスしか居ない。つまり、僕の疑問を晴らす機会は今しかない。
 そう思った僕は、一番アリスに近い席に腰掛けて、質問する。
「アリス」
「…………何?」
 アリスはまたも難しい本を読んでいた。見ると、アレイスター・クロウリーの『法の書』だった。またどうしてそんな難しい本を読んでいるんだろうか。……いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「一昨日、殺人を犯したのは、君?」
 僕は単刀直入に問いかけた。
 僕と彼女の間に、無駄な言葉など必要ないと思ったからだ。
 僕と彼女の間に、無駄なやりとりなど必要ないと思ったからだ。
 僕と彼女の間に、無駄な価値観など必要ないと思ったからだ。
 だから、彼女は言った。
「…………うん」
 頷いた。
 彼女は、数刻の余韻を置いて、頷いた。
「僕は、殺人をした理由を聞きたいんじゃない、と言えば嘘になる。どうして、人を殺したんだい?」
「…………任務だから」
「任務? 誰かに命じられた、ってことか?」
「…………そこから先は、」
「うん?」
「…………禁則事項だから」
 禁則事項、ねえ。
 つまり、話を聞いても教えてくれないということか。思った以上にガードは堅いようだ。
 そんなことを思っていたら、放送のアナウンスが聞こえてきた。
『――高畑アリスさん、至急保健室に来てください。繰り返します、高畑アリスさん、至急保健室に来てください。放送終わります』
「行かなきゃ」
「それも、『命令』なのか?」
「…………たぶん、そう」
 たぶん、か。
 いずれにせよ、今の彼女を止める術は今の僕には持ち合わせてはいなかった。
 そう思っているうちに、アリスはたったったと走って何処かへ消えていった。
 それを僕は、目線で追いかけることなんてしなかった。

   ※

 保健室には、今池先生が待機していた。
 今池先生は七月からやって来た新任の先生である。高畑と同じタイミングでやって来た人間ということは、何らかの関係性はあるのかもしれないが、それを考えることは、『いっくん』を含めた彼らには何も出来る訳がない。
「…………失礼します」
「あらあら、そんなに畏まらなくたって良いのに」
「…………また、『治療』?」
「そうよ。『治療』は嫌い?」
 こくり、と頷く高畑。
 それを見た今池先生は、ただ一言だけ呟く。
「大丈夫よ、ちくりとするだけだから。直ぐ終わるから、ね。今は未だ平和だけれど、いつかこの世界で大きな戦争があったとき……貴方達には役立って貰わなくてはならない。そのために私達が居るのだから。分かっているわね? 高畑アリスさん」
「…………分かっている」
 何処からか取り出した注射器に、緑色の液体を投入していく。
 そしてそれを見た彼女は、何処か怖がったような表情を浮かべていたが、今池先生はそんなこと気にする素振りも見せなかった。
 そうして、注射器を彼女の右腕に突き刺した。
「…………っ」
 痛みは感じるのだ。
 未だ、痛みは感じるのだ。
 今池先生はそんなことを思いながら、ごめんなさいと思いながら、液体を注入していく。
 それが彼女のためならば。それがみんなのためならば。それがこの国のためならば。
 どんなことだってしてやる。どんなことだってしてみせる。
 そう思いながら、注射器を抜く今池先生は、
「終わったわよ。今日も良く痛みに耐えられたわね」
「…………出動は?」
「今のところ予定はないわよ。それとも、試験走行(テストプレイ)がしたい?」
「…………それは、良い。計画は順調なの? …………今池誠司令官」
「ええ、順調よ。順調すぎるぐらい。今は北も東も落ち着いているしね。……問題はいつ『あれ』が投下されるかどうか、ってこと。あれが投下されてしまったら、貴方達にも頑張って貰わなくてはならない。それは、任務の一つとして決められたことなのだから」
「…………分かっている」
「じゃあ、これで終わりだから、教室に戻りなさい。……それとも、気分が優れないとか、そういう副作用があったりする?」
「…………、」
 首を横に振る高畑。
 そうして、高畑は席から立ち上がり、保健室から出て行くのだった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑩

  • 2019/05/28 02:24

 天体観測は今日も失敗に終わった。
 いや、天体観測自体は成功している。UFOの観測自体が出来ていないだけの話だ。
「今日も観測出来ませんでしたね……」
「まあ、明日なら観測出来るだろう! 明日は午後から部活動だからそこんところよろしく頼むぞ!」
 そう言って。
 部長と池下さん、それにあずさは片付けを任せてしまって、僕とアリスは帰るようにしてくれた。
 帰るようにしてくれた、と言っても帰ることが出来たという訳であって、それは、片付けするには人員が余るから余った人間はさっさと帰れよ危険だから、と言う桜山先生のお達しがあったためである。
 アリスと離れ、一人で歩くことになった僕だったが、あっさりと知り合いに会うことが出来るのだった。
 知り合いと言って良いのか分からないけれど。
「……御園芽衣子」
「お前は俺を呼ぶときはいつもフルネームで呼ぶのかい?」
 相浜公園のブランコに乗っていた。
 ちなみに警戒線は既に解除されているので、今は誰でも自由に入ることが出来る。
 だから問題はない――と言いたいところだが、警戒線が解除されたばかりの場所に入るのも何だか気が引ける。
 しかしずかずかと中に入っている彼女を見ると、自分も中には言って良いのだろうか、という思いが湧いてきてしまう。
 そう思いながら、結局僕は中に足を踏み入れた。
「……何を考えているんだか知らないけれどさ、時間かけて入ってきた割には何も考えていないよね? 恐らく」
「ごもっともです、はい」
「ところで、お前はいったい何をしていたのかな?」
「何をしていた……って、学校の帰り道だよ。そういう君は?」
「殺人の帰り道、かな」
 まるで学校の帰り道みたいに殺人を肯定するなよ!
 そんな突っ込みを入れたかったけれど、それよりも先に彼女が、
「まるで学校の帰り道みたいに言ってみたけれど、特に問題はないだろう?」
「問題あるよ! 学校の帰り道みたいに殺人を肯定するんじゃないよ!」
「殺人鬼にとって、殺人は学校みたいなものだからね。技術は見て盗め、と良く師匠に言われたものだよ」
 師匠なんて居るのかよ。
「師匠は二年前に捕まった。だから、俺が唯一の弟子みたいなもんだ。名前は藤岡達喜。もしかしたら名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないか? 世紀の殺人鬼、ついに逮捕される、なんて見出しが出ていたはずだろう」
「どうだろうね、僕、あんまり新聞とかニュースとか読まないから」
「へえ、珍しい。でもスマートフォンがあるだろう。それを使ってニュースとか」
「スマートフォンは学校には持ち歩かないことにしているんだ。だからいつも家に置いてある」
「それ、携帯電話って言うのか?」
「さあ? 携帯はしていないけれど、携帯出来る電話なんだから携帯電話で良いんじゃないの?」
「それならそれで良いけれど」
「ところで一つ聞きたいんだけれど」
「何?」
「昨日、人が死んだ」
「らしいね。警戒線が張られていた」
「その犯人って、君?」
「それは冤罪だ。それに昨日は人殺ししていないよ」
「でもあのとき、『人殺しは夜にする』って」
「あれはジョークみたいなものだよ、ジョーク。殺人鬼ジョーク」
 殺人鬼ジョークって何だよ。
「でもまあ、要するに君は人を殺していないんだね。ちょっと安心した」
「どうして?」
「もし殺していたら、僕も殺されるんじゃないかって思ったからさ」
「ははは。……そう思うのも当然か。ま、前にも言ったじゃないか、お前のことは殺さない。つまらない殺戮はしないって言っただろ?」
 言っていたような気がする。
「じゃ、今日はもう眠るから俺はさっさとバイバイするよ」
 そう言って。
 ブランコから立ち上がると、さっさと公園から出て行ってしまった。
 それを見た僕は、ただそれを見送ることしか出来なかった。
 殺人鬼を見送ることだけしか、出来ないのだった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑨

  • 2019/05/28 01:57

 次の日。朝のニュース番組では、今日も連続殺人鬼の報道を伝えていた。
『昨晩、鎌倉市七里ヶ浜相浜公園にて死体が発見されました。死体は昨日午後九時以降に殺害されたものとみられています。身元は未だ確認出来ていませんが、二十代から三十代前後の男性と思われます――』
「うわっ、相浜公園ってあなたの通学路じゃない? 大丈夫? 学校中止になったりしない?」
「……たぶん、なったりしないと思う」
「何で中止にならないんだろうねえ」
「そんなこと、僕が知りたいよ」
 そんな会話を交わしながら、朝食を終える僕達。
 連続殺人鬼を話題にするには、少々へビィ過ぎる時間帯だったのだ。

   ※

 相浜公園を通ろうとすると、警戒線が張られていた。
 ここを通ると学校への近道になるのだけれど、警戒線を潜って抜けようと思う程、僕も馬鹿じゃない。そう思って、僕は公園を遠回りして歩いていった。
 ただ、それだけのことだった。

   ※

「明日は登校日だけれど、半ドンだろ?」
「半ドン?」
 部長と池下さんの会話を聞いて、分からない単語があったので思わず反芻してしまった。
「ああ、半ドンというのはね、昼までしか授業がないってことだよ。昔からある言葉なんだけれどね。何でも昔は土曜日にも学校があって、そのときは半ドンだったらしいけれど」
「へえ。そうなんですか」
「だから、昼休みで学校は終わりってこと。……だったら午後は部活動が出来るな」
「でも天体観測出来るのは夕方ですよね?」
「そういうことになる」
「だったら登校日以外は夕方からにして欲しいものですけれど」
「図書室はクーラーが効いているからいいじゃないか」
「副室は効いていないじゃないですか」
「だったら図書室に居ればいいだろ。ただそれだけの話だ」
「でも、図書室は……」
 図書室をちらりと見やる僕。
 図書室の座席は既に勉強したい生徒や、休憩したい生徒で一杯になっていて、とても我が宇宙研究部が使えるスペースなど有りやしなかった。
 だからこの副室に僕達が追いやられている訳だけれど……。
 副室には扇風機しかない。だから時折やって来るクーラーの風を、扇風機で室内に送り込む。そうやって何とか涼しい風を得ている訳だけれど。
「それでも暑いことには変わりないからなあ……」
 副室には窓がない。四方が通路と図書室で囲まれているからだ。だから僕達は涼しさを知らない。暑い部屋に閉じこもってただひたすらと本を読んでいることしか出来やしないのだ。
 ちなみに今日は何を読んでいるか、って? 今日読んでいるのは、『大進化どうぶつデスゲーム』という本。最近入ってきた本なのでどういう内容かは分からないけれど、このタイトルでSFらしい。SFか。SFはなかなか読んだことのないタイトルなので、興味が湧いている。
「というか、女子高生十八人が八百万年前の地球にタイムスリップってどういうことだよ……」
 帯を見ながら溜息を吐く僕。いや、別に悪いことでも何でもないんだけれどさ。噂によれば、『最後にして最初のアイドル』という作品でデビューしたらしい。そちらは読んだことがないのでこの作品でお初ということになる。群像劇というだけでポイントが高いのに、百合が付くというのがさらにポイントが高い。あ、ちなみに百合というのは女性同士の恋愛という意味だ。それだけ聞けば興味を持つ人間も居るかもしれない。何せ図書室に納品されるぐらいの書籍なのだ。よっぽど面白いに違いないだろう。
「……ほら、いっくんも手伝ってよ、天体観測の準備!」
 ……だが、今日はこれを読み進めることは出来ないだろう。
 借りる準備を進めておきながら、僕は天体観測の準備をするために席を立つのだった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑧

  • 2019/05/27 23:33

「温い」
 想像通り、アイスココアを飲んだあずさは開口一番僕にそう文句を垂れた。
「ゴメン……。コンビニに行ったら、ちょっと会話が弾んじゃって」
「誰と?」
「えと……、コンビニの店員と」
 嘘を吐くしかなかった。
 流石に殺人鬼と一緒に居ました、なんて言える訳がなかった。
「そういう訳で、今回の飲み物はいっくんの奢りね」
「えー?」
「だって温くなっちゃったんだし。私が頼んだのアイスココアだよ? どうして温いココアが届いちゃう訳? それだけでおかしい話だとは思わない?」
 疑問符の連発に僕は戸惑う。
 というか、仕方ないんだ。許してくれ。
 ……百五十円の飲み物で延々とちまちまと文句を垂れていても、それはそれでどうかと思ったので、僕はそれを受け入れることにした。
 僕は、その奢りという条件を受け入れることにするのだった。

   ※

 天体観測は空振りだった。
 こう毎日続けても何も成果が得られないなら、十六日の登校日だけの部活動だけで良いんじゃないか、なんてことを思ってしまうレベルだ。部活動といっても、県大会とか地区予選とかある部活動は毎日部活動をやっている。けれど、僕達宇宙研究部にはそんな県大会だとか地区予選だとかある訳がない。そもそも他の中学校に宇宙研究部があるのか分からない。となると、やっぱり僕達にとってみればモチベーションの減退に繋がる訳であって……。
「仕方がないから今日は終わりにしよう。明日もやるからそのつもりでね」
 嘘だろ。休みなしかよ。
 毎日弁当を作って貰っている親の気持ちにもなって貰いたいものだ。
 そんなことを思いながら、僕達は解散することになった。
 僕達は、帰宅することになるのだった。

   ※

 その日の夜。というか帰り道。
 あずさは部長達と残って片付けをすると言っており、僕は一人で帰ることに相成った。
 僕も残って片付けをすると言ったのだが、あんまり残ると私的に困るのよね? と桜山先生が言ってきたから仕方がないことだった。というか、だったらさっさと一年生を帰すか先生の車で帰して欲しいものだ。それが叶わないのは残念ではあるけれど(過去に一度言ってみたら、先生は自転車で出勤しているから駄目です! と言われてしまった)。
 いつもの公園に、アリスが立っていた。
「アリス? どうしてこんなところに……」
 確かアリスも帰って良いという指示を受けていたはずだった。だから今は一緒に家に向かっていたはずだったのだが――。
「おーい、アリス。何しているんだ?」
 僕の言葉に、一瞬そちらを振り向いたアリス。しかし直ぐに元の方角に向き直して、また歩き始めていった。
「おーい、おーいってば!」
 僕はアリスに走って追いついた。
「…………何?」
「一人で歩くなんて危ないよ。親とか呼んだら? それとも僕が家まで送ってやろうか?」
「…………良い、別に」
 ぷい、と向いてそのまま歩いて行った。
「でも危ないぜ。最近は連続殺人鬼とか出てきているし……」
 でもそれは殺人鬼本人から否定されてしまったけれど。
「…………大丈夫、問題ない」
 それ、死亡フラグって知っているか?
 言おうと思ったけれど、それ以上は言わなかった。
 あまり押し通すのもどうかと思ったので、僕はそのままアリスを見送ることにした。
 アリスが角を曲がって見えなくなるまで、僕は彼女を見送ることしか出来ないのだった。
 ああ、きっと部長とかに言ったら意気地なしなどと答えるのだろうな。
 そんなことを思いながら、僕もまた家に向かって歩き出すのだった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑦

  • 2019/05/27 23:18

 ちょっとコンビニに用事があった。
 と言っても、夏休みは購買が休みなため、どうしてもコンビニに行かないと買い物が出来ない訳であって。
「あ、じゃ、いっくん、アイスココア買ってきて。後でお金は払うからさ」
 ……そういう訳で、買い物を頼まれてしまった。
 いつかの何処かで、僕も頼んだのでこれでおあいこになる訳だけれど。
 そんなことを思っていたら、コンビニの目の前にあるガードレールに一人の少女が腰掛けていた。
「あ、いっくん、やっほ」
 見覚えのある人物だとは思っていたけれど。
「――御園、芽衣子」
 まさかこうも早く再会するとは思いもしなかった。
「昨日、殺人事件があったんだけれど」
 買い物を終えたら、未だ御園は残っていた。
 御園の隣に腰掛けて、僕はお茶を飲みながら話を始める。
 思春期の男女がするには、あまりにも血なまぐさい話になる訳だけれど。
「ああ、確かにあったね。新聞で見たよ」
 新聞を見るのか。
「……一応言っておくけれど、殺人鬼にまともな家なんてないからね。簡単に言えば、コンビニにある新聞を流し見した程度ってこと」
「ああ、そういうことか」
 それなら納得。
 ってか、買えよ。
「で? その殺人事件がどうしたの?」
 ぶうん、と車が通過する。
「……君が殺したんじゃないか、って僕は思っているんだ」
「あはは。俺が殺した、って? そりゃ、流石に冤罪だね。冤罪にも程がある」
 予想外の台詞だった。
 寧ろ「俺が殺した」ぐらい言ってくるかと思ったからだ。
 しかし――冤罪、とはどういうことだ?
「冤罪ってどういうことだ?」
 だから、僕はそのまま問いかけた。
 気になったから。
 疑問が生じたから。
 気になってしまったから。
「……要するに、俺が殺した訳じゃないってこと。ただの冤罪だよ。マスコミや警察にとってみれば、殺人鬼による連続殺人事件とした方がエンタメ性に富んで良いのかもしれないけれどね。こちらからしてみれば商売あがったりだよ」
 商売って何だよ。殺しの依頼か?
「そうだよ。よく分かったね、流石のいっくんだ。愛しのいっくんだ」
 愛しとか言うな、愛しとか。
「とにかく、俺は殺しちゃいねえよ」
 オレンジジュースの缶を最後まで飲み干して、それを缶のゴミ箱に投げ捨てる。
 見事シュートが決まった缶は、そのままゴミ箱に入っていった。
「……というか、冤罪ということは、犯人が別に居るってことだよね?」
「うん? その通りだよ。当たり前じゃないか。だったら誰が殺したんだ、って話になるだろ」
「そりゃそうだけれどさ……」
「とにかく! 俺は殺しちゃいないよ。冤罪だ。寧ろその犯人を探してとっちめたいぐらいだ」
「とっちめるってどうするんだ?」
「殺すまではいかないかな。半殺し程度に済ましといてやるよ」
 それって、どうなんだ?
 僕はさらにお茶をぐいっと一飲みする。
「ま、要するに、俺をむやみやたらに疑うんじゃねえよ、って話だ」
 そう言って、御園は立ち上がる。すたすたと歩いて何処かへと消えていきそうな感じだったので、声をかけた。
「何処へ行くんだっ」
「べっつにー。特に用事も見当たらないし、この辺をぶらぶら彷徨くだけだよ。でもまあ、あんまり彷徨くと、犯人に疑われかねないがね」
 そりゃ、殺人鬼だもんな、お前。
 そんなことを思いながら、僕達は別れるのだった。
 ……あ。
 そういえば、頼まれていたアイスココアがすっかり温くなってしまっていることに気づくまで、そう時間はかからなかった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑥

  • 2019/05/27 22:59

 次の日。朝食を取っているとニュース番組でこんな情報が流れてきた。
『昨夜未明、鎌倉市七里ヶ浜××にて殺人事件が発生しました。死体は前日未明に殺されたものとみられています。警察は対策本部を建てていると共に、此度の事件は連続殺人鬼による殺人であると思われます』
「怖いわねえ……。しかもこの辺りじゃないの。いっちゃんも気をつけてね」
 そう言って、ささくさとご飯を食べ終わるとキッチンに皿を運んでいく。
 僕も残っていたパンとココアを飲み干すと、そのままキッチンに食べ終えた皿を持っていった。

   ※

 登校中。僕はずっと昨日のことを考えていた。昨日のことは何のことだ、って? そんんなこと言わずとも分かるはずだ。昨日出会った殺人鬼――御園芽衣子のことだった。御園芽衣子、名前だけ聞けば何処かのお嬢様のような名前のように聞こえるけれど、それは全くのデタラメ。中身を見てみると、猟奇殺人を繰り返す殺人鬼であるということだ。
 そんな彼女に出会って、僕は殺されていないのだ。
 一度も、と言ってしまうとまた出会ってしまうのかもしれないし。
「……いっくん、おはよっ!」
 そう言ってきたのはあずさだった。
 あずさは僕の肩をぱんと叩くと、そのまま僕の右隣に歩き始めた。
「どうしたの? あずさ」
「「いっくんこそ、体調が悪そうだけれど、大丈夫? あ。もしかして、天体観測でUFOが見つからないから困っているんでしょ? 私もそうなんだよー。何で、見つからないのかなあ。少しはUFO側も配慮して欲しいって思うけれどね!」
 UFO側の配慮って何だよ。
 僕はそう突っ込もうとしたが、それ以上は敢えて言わないことにした。
「……今日も天体観測かな?」
「そうだと思うよ。そういえば、登校日はいつだったかな?」
「登校日?」
「私達の学校は夏休み中も、登校日があるんだよ。授業の日数の都合とか言っているけれど、何処までほんとうかどうか分からないけれどね! ……うーんと、今日は何日だっけ?」
「今日は十四日だな」
「それじゃ、明後日だね。毎年八月十六日は登校日なんだよ。その日だけね。四十日間ずっと夏休みじゃ、生徒もだれると思ったんじゃないかな? 私としてはそんなことは有り得ないから、出来ることならなくして欲しい行事の一つなんだけれどね」
 でもそれは無くすことが出来なさそうだな。
 そんなことを思いながら、僕達は学校に進む坂を歩いていく。
 並んで二人で、歩いていく。

   ※

 天体観測が出来る時間までは、各自自由。
 そう言われてしまえば、僕達には一言言葉が残ってしまう。

 ――だったら、夕方に集合で良いのでは? と。

 でもそうしないときっと警察に引っかかるんだろうな。そもそも警察の捜査が及んでいる地域だというのに、夜になっても学校に居ることが出来る時点で間違っている気がする訳なのだけれど。
「何か、気になる?」
 きっと理由はこのメイド服大好き給仕大好きな変態先生が居るからだ。きっとそうだ。そうに違いなかった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ⑤

  • 2019/05/27 21:24

「……感情なんて、無駄なんだよ」
 気づけば、彼女は語りかけていた。
 気づけば、彼女は笑っていた。
「けれど、何でだろうな。お前と話していると、忘れていた感情がぽろぽろと零れてきたような感じがしてさ」
「それって、仲間に会えたから?」
「そうなのかな……。分かんねえや、分かんねえよ。けれど、今の状況を見られちまったら、反論の余地はないのかもしれないけれどな」
「だろうね」
「だろうね、って。そう冷たくあしらうのも、何というか、俺にとっては心地よい」
 マゾってことか。
「馬鹿にしているのかぶっ殺すぞ」
「すいません何も言っていません」
 というか言っていないはずなんだけれどな。
 もしかして僕がそう思っているだけで、口には出ているのかもしれない。
 だとすれば、納得出来るし、説明も付く。理由も分かるし、解明も出来る。
 だとしても、僕はやっぱり。
 人間らしくありたいと思うし、殺人鬼みたいな人種と一緒にされちゃ困るって思いが強まる。
「俺みたいな人種と一緒にされちゃ困る、みたいな顔してんな。……ま、当然かもしれねえけれどよ。でも、俺から見ればお前みたいな人間が一番殺人鬼にはぴったりな気がするけれどね」
「そんなこと言われるの初めてだ……」
「だろうね」
「でも、実際、僕がどう生きようったって、僕の勝手だろ? 君に決められる筋合いなんてない」
「それもそうだけれど……、でもお前みたいな人間が長生きするとは思えない。いつか、壁にぶち当たるときがやってくるだろうね」
「そのときはそのときさ」
 僕は、我慢強さだけは日本一って自信があるんだ。
 というか、こないだは全員に騙されるという危機的な状況に陥ったことがあるけれど。
「そのときはそのとき、ね……。何というか、ますます俺と似通った性格をしてんな」
「そりゃどうも」
 殺人鬼に褒められるとは思ってもみなかったな。
 そもそも、殺人鬼に遭遇してここまで時間を稼いだ人間自体初めてじゃないか?
「……やめよ、やめやめ。やっぱりお前を殺してもつまらない。普通に殺してもつまらないもの。そもそも、俺の目的ってそうじゃないし」
「え? どういうこと?」
「言わずとも分かるでしょう? 俺の目的はお前を殺すことじゃないし。殺すことは目的に出来るかも知れないけれど、お前をここで殺してもつまらない。俺、つまらない殺戮はしない主義だからさ」
 つまらない殺戮って何だよ。
 面白い殺戮が何処にあるというんだよ。
 そもそも殺戮自体止めて貰いたいことだけれど、出来ないんだろうな。殺人鬼って。DNAに殺人の遺伝子でも組み込まれているんだろうか? 僕は良く分からないけれど。
「そういう訳で、俺は退散するわ。お前もせいぜい殺されないようにしろよ、少年」
「少年じゃない。僕にも名前がある」
 そう言って、僕は名前を告げる。
 それを聞いた彼女は、ニヒルな笑みを浮かべたまま、僕の顔を見つめる。
「お前、変わった名前だな。何というか、見当も付かない名前というか。ニックネームを付けるとするなら、いっくんとかいっちゃんとかその辺りか?」
 何が言いたいんだ。
 それと、その予測は正解だ。
「へえ。いっくんって呼ぶことにしようか、いっくん。それじゃ、俺の名前教えてやるよ。俺の名前はな、御園芽衣子っていうんだ。せいぜい死ぬまでに覚えておいてくれよ、いっくん」
 そう言って。
 バイバイとでも言うように右手を振って。
 彼女は来た方角へと帰っていった。
 僕はぽかんとした表情を浮かべたまま、そのまま夜の公園に立ち尽くしてしまうのだった。

 

殺人鬼、御園芽衣子 ④

  • 2019/05/27 20:10


 ――お前、最低だな。

 いや、どういうことだ。全然理解できない。いきなり現れたその少女に切りつけられそうになった挙げ句、得られた言葉が「お前、最低だな」だって? いったい全体、僕が何をしたらそのような言葉に辿り着くのか気になる。興味が湧く。気にならない訳がない。
 彼女は僕をじっと見つめたまま、ただひたすらにこちらに殺気を送っている。
「……ねえ、どういうこと?」
「どういうこと、とは?」
「最低だな、と言った意味だよ。全てを教えてくれ、とまでは言わない。だが、どうして『最低だな』と言ったのか、それを教えてくれればそれだけで構わない」
「……回りくどい言い方だな。それは嫌いじゃない」
 嫌いじゃないと言って貰えて、先ずは一安心。
 いやいや、そういう場合じゃない。
 そういう問題じゃない、と言ってしまいたいところだが、それをそうだと理解してくれるかどうかはまた別の話。僕が僕たりえる由縁であり、彼女が彼女たりえる由縁なのかもしれない。
「……何を考えているのか分からないけれど、お前が最低であることには変わりねえよ」
「どういうことだよ? 意味が分からねえよ」
 ちょっと言葉を崩して言ってみることにした。
 けれど、それでも変わることはなくて。
「ほんとうならお前はさっきの一撃でやられるはずだった。今までの人間はみんなそうだった。けれど、お前は違う。お前はまるで『未来が見えていたかのように』攻撃を避けた。なぜだ? なぜ攻撃を避けることが出来た?」
「それは……」
 分からないけれど。
 たぶん。
「僕と君が……似ているからじゃないかな」
「似ている?」
「僕と君は、空っぽな人間なんだと思うよ」
 僕と君は、空っぽ。
 僕と君は、がらんどう。
 僕と君は、空っぽ同士だから、繋がっている。
「だから、分かるっていうのかよ? 空っぽな人間同士だから、空っぽな気持ちが分かるって?」
「そうだと思うよ。それがどうかは分からないけれど」
「はっ! 馬鹿馬鹿しい。はっきり言って、阿呆らしいことだよ。お前みたいな人間と一緒なんて反吐が出る」
「その言い回し、止めた方が良いよ。女の子らしくない」
「今更、俺が女の子ぶっていったところで、何も変わりやしねえよ!」
 絶叫していた。
 嬌笑していた。
 ちょっとだけ、その笑顔に色っぽさを感じさせてきた。
 何というか、それはわざとじゃないのかもしれないけれど。
 何というか、それは偶然じゃないのかもしれないけれど。
 いずれにせよ、僕がどう生きていくかなんて、君に決められるもんじゃない。
 同時に、それは君も同じだ。君の価値観なんて僕なんかに決めて貰う必要もないんだ。
 自由だ。
 自由だ。
 自由だ。
 僕と、君も。
 いいや、それ以外の人間も。
「……さっきからその目線を止めろよ!」
 彼女が言ったその言葉で、僕は彼女に不快感を示させているのだと気づかされる。
「気づいているのか気づいていないのか分からねえけれどよ、お前の顔を見ていると何というかムカムカするんだよ! 分かるか、だから」
「だから、殺すって?」
「そうだよ! だから、お前は殺す! そう決めたんだ!」
「殺せなかったのに?」
「巫山戯るな! 殺せない訳がない。俺のことを、知っているだろう?」
 知っている。
 君は、連続殺人鬼だ。
 この周辺を賑わせている、巷の人物だ。
 それぐらい理解している。
 それぐらい分かっている。
 それぐらい承知している。
 けれど。
 けれど。
 けれど、だ。
 君にそれを言われる筋合いは――何一つとして存在しないんだ。
 

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