殺人鬼、御園芽衣子 ⑦
- 2019/05/27 23:18
ちょっとコンビニに用事があった。
と言っても、夏休みは購買が休みなため、どうしてもコンビニに行かないと買い物が出来ない訳であって。
「あ、じゃ、いっくん、アイスココア買ってきて。後でお金は払うからさ」
……そういう訳で、買い物を頼まれてしまった。
いつかの何処かで、僕も頼んだのでこれでおあいこになる訳だけれど。
そんなことを思っていたら、コンビニの目の前にあるガードレールに一人の少女が腰掛けていた。
「あ、いっくん、やっほ」
見覚えのある人物だとは思っていたけれど。
「――御園、芽衣子」
まさかこうも早く再会するとは思いもしなかった。
「昨日、殺人事件があったんだけれど」
買い物を終えたら、未だ御園は残っていた。
御園の隣に腰掛けて、僕はお茶を飲みながら話を始める。
思春期の男女がするには、あまりにも血なまぐさい話になる訳だけれど。
「ああ、確かにあったね。新聞で見たよ」
新聞を見るのか。
「……一応言っておくけれど、殺人鬼にまともな家なんてないからね。簡単に言えば、コンビニにある新聞を流し見した程度ってこと」
「ああ、そういうことか」
それなら納得。
ってか、買えよ。
「で? その殺人事件がどうしたの?」
ぶうん、と車が通過する。
「……君が殺したんじゃないか、って僕は思っているんだ」
「あはは。俺が殺した、って? そりゃ、流石に冤罪だね。冤罪にも程がある」
予想外の台詞だった。
寧ろ「俺が殺した」ぐらい言ってくるかと思ったからだ。
しかし――冤罪、とはどういうことだ?
「冤罪ってどういうことだ?」
だから、僕はそのまま問いかけた。
気になったから。
疑問が生じたから。
気になってしまったから。
「……要するに、俺が殺した訳じゃないってこと。ただの冤罪だよ。マスコミや警察にとってみれば、殺人鬼による連続殺人事件とした方がエンタメ性に富んで良いのかもしれないけれどね。こちらからしてみれば商売あがったりだよ」
商売って何だよ。殺しの依頼か?
「そうだよ。よく分かったね、流石のいっくんだ。愛しのいっくんだ」
愛しとか言うな、愛しとか。
「とにかく、俺は殺しちゃいねえよ」
オレンジジュースの缶を最後まで飲み干して、それを缶のゴミ箱に投げ捨てる。
見事シュートが決まった缶は、そのままゴミ箱に入っていった。
「……というか、冤罪ということは、犯人が別に居るってことだよね?」
「うん? その通りだよ。当たり前じゃないか。だったら誰が殺したんだ、って話になるだろ」
「そりゃそうだけれどさ……」
「とにかく! 俺は殺しちゃいないよ。冤罪だ。寧ろその犯人を探してとっちめたいぐらいだ」
「とっちめるってどうするんだ?」
「殺すまではいかないかな。半殺し程度に済ましといてやるよ」
それって、どうなんだ?
僕はさらにお茶をぐいっと一飲みする。
「ま、要するに、俺をむやみやたらに疑うんじゃねえよ、って話だ」
そう言って、御園は立ち上がる。すたすたと歩いて何処かへと消えていきそうな感じだったので、声をかけた。
「何処へ行くんだっ」
「べっつにー。特に用事も見当たらないし、この辺をぶらぶら彷徨くだけだよ。でもまあ、あんまり彷徨くと、犯人に疑われかねないがね」
そりゃ、殺人鬼だもんな、お前。
そんなことを思いながら、僕達は別れるのだった。
……あ。
そういえば、頼まれていたアイスココアがすっかり温くなってしまっていることに気づくまで、そう時間はかからなかった。