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殺人鬼、御園芽衣子 ⑩

  • 2019/05/28 02:24

 天体観測は今日も失敗に終わった。
 いや、天体観測自体は成功している。UFOの観測自体が出来ていないだけの話だ。
「今日も観測出来ませんでしたね……」
「まあ、明日なら観測出来るだろう! 明日は午後から部活動だからそこんところよろしく頼むぞ!」
 そう言って。
 部長と池下さん、それにあずさは片付けを任せてしまって、僕とアリスは帰るようにしてくれた。
 帰るようにしてくれた、と言っても帰ることが出来たという訳であって、それは、片付けするには人員が余るから余った人間はさっさと帰れよ危険だから、と言う桜山先生のお達しがあったためである。
 アリスと離れ、一人で歩くことになった僕だったが、あっさりと知り合いに会うことが出来るのだった。
 知り合いと言って良いのか分からないけれど。
「……御園芽衣子」
「お前は俺を呼ぶときはいつもフルネームで呼ぶのかい?」
 相浜公園のブランコに乗っていた。
 ちなみに警戒線は既に解除されているので、今は誰でも自由に入ることが出来る。
 だから問題はない――と言いたいところだが、警戒線が解除されたばかりの場所に入るのも何だか気が引ける。
 しかしずかずかと中に入っている彼女を見ると、自分も中には言って良いのだろうか、という思いが湧いてきてしまう。
 そう思いながら、結局僕は中に足を踏み入れた。
「……何を考えているんだか知らないけれどさ、時間かけて入ってきた割には何も考えていないよね? 恐らく」
「ごもっともです、はい」
「ところで、お前はいったい何をしていたのかな?」
「何をしていた……って、学校の帰り道だよ。そういう君は?」
「殺人の帰り道、かな」
 まるで学校の帰り道みたいに殺人を肯定するなよ!
 そんな突っ込みを入れたかったけれど、それよりも先に彼女が、
「まるで学校の帰り道みたいに言ってみたけれど、特に問題はないだろう?」
「問題あるよ! 学校の帰り道みたいに殺人を肯定するんじゃないよ!」
「殺人鬼にとって、殺人は学校みたいなものだからね。技術は見て盗め、と良く師匠に言われたものだよ」
 師匠なんて居るのかよ。
「師匠は二年前に捕まった。だから、俺が唯一の弟子みたいなもんだ。名前は藤岡達喜。もしかしたら名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないか? 世紀の殺人鬼、ついに逮捕される、なんて見出しが出ていたはずだろう」
「どうだろうね、僕、あんまり新聞とかニュースとか読まないから」
「へえ、珍しい。でもスマートフォンがあるだろう。それを使ってニュースとか」
「スマートフォンは学校には持ち歩かないことにしているんだ。だからいつも家に置いてある」
「それ、携帯電話って言うのか?」
「さあ? 携帯はしていないけれど、携帯出来る電話なんだから携帯電話で良いんじゃないの?」
「それならそれで良いけれど」
「ところで一つ聞きたいんだけれど」
「何?」
「昨日、人が死んだ」
「らしいね。警戒線が張られていた」
「その犯人って、君?」
「それは冤罪だ。それに昨日は人殺ししていないよ」
「でもあのとき、『人殺しは夜にする』って」
「あれはジョークみたいなものだよ、ジョーク。殺人鬼ジョーク」
 殺人鬼ジョークって何だよ。
「でもまあ、要するに君は人を殺していないんだね。ちょっと安心した」
「どうして?」
「もし殺していたら、僕も殺されるんじゃないかって思ったからさ」
「ははは。……そう思うのも当然か。ま、前にも言ったじゃないか、お前のことは殺さない。つまらない殺戮はしないって言っただろ?」
 言っていたような気がする。
「じゃ、今日はもう眠るから俺はさっさとバイバイするよ」
 そう言って。
 ブランコから立ち上がると、さっさと公園から出て行ってしまった。
 それを見た僕は、ただそれを見送ることしか出来なかった。
 殺人鬼を見送ることだけしか、出来ないのだった。

 

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