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殺人鬼、御園芽衣子 ⑨

  • 2019/05/28 01:57

 次の日。朝のニュース番組では、今日も連続殺人鬼の報道を伝えていた。
『昨晩、鎌倉市七里ヶ浜相浜公園にて死体が発見されました。死体は昨日午後九時以降に殺害されたものとみられています。身元は未だ確認出来ていませんが、二十代から三十代前後の男性と思われます――』
「うわっ、相浜公園ってあなたの通学路じゃない? 大丈夫? 学校中止になったりしない?」
「……たぶん、なったりしないと思う」
「何で中止にならないんだろうねえ」
「そんなこと、僕が知りたいよ」
 そんな会話を交わしながら、朝食を終える僕達。
 連続殺人鬼を話題にするには、少々へビィ過ぎる時間帯だったのだ。

   ※

 相浜公園を通ろうとすると、警戒線が張られていた。
 ここを通ると学校への近道になるのだけれど、警戒線を潜って抜けようと思う程、僕も馬鹿じゃない。そう思って、僕は公園を遠回りして歩いていった。
 ただ、それだけのことだった。

   ※

「明日は登校日だけれど、半ドンだろ?」
「半ドン?」
 部長と池下さんの会話を聞いて、分からない単語があったので思わず反芻してしまった。
「ああ、半ドンというのはね、昼までしか授業がないってことだよ。昔からある言葉なんだけれどね。何でも昔は土曜日にも学校があって、そのときは半ドンだったらしいけれど」
「へえ。そうなんですか」
「だから、昼休みで学校は終わりってこと。……だったら午後は部活動が出来るな」
「でも天体観測出来るのは夕方ですよね?」
「そういうことになる」
「だったら登校日以外は夕方からにして欲しいものですけれど」
「図書室はクーラーが効いているからいいじゃないか」
「副室は効いていないじゃないですか」
「だったら図書室に居ればいいだろ。ただそれだけの話だ」
「でも、図書室は……」
 図書室をちらりと見やる僕。
 図書室の座席は既に勉強したい生徒や、休憩したい生徒で一杯になっていて、とても我が宇宙研究部が使えるスペースなど有りやしなかった。
 だからこの副室に僕達が追いやられている訳だけれど……。
 副室には扇風機しかない。だから時折やって来るクーラーの風を、扇風機で室内に送り込む。そうやって何とか涼しい風を得ている訳だけれど。
「それでも暑いことには変わりないからなあ……」
 副室には窓がない。四方が通路と図書室で囲まれているからだ。だから僕達は涼しさを知らない。暑い部屋に閉じこもってただひたすらと本を読んでいることしか出来やしないのだ。
 ちなみに今日は何を読んでいるか、って? 今日読んでいるのは、『大進化どうぶつデスゲーム』という本。最近入ってきた本なのでどういう内容かは分からないけれど、このタイトルでSFらしい。SFか。SFはなかなか読んだことのないタイトルなので、興味が湧いている。
「というか、女子高生十八人が八百万年前の地球にタイムスリップってどういうことだよ……」
 帯を見ながら溜息を吐く僕。いや、別に悪いことでも何でもないんだけれどさ。噂によれば、『最後にして最初のアイドル』という作品でデビューしたらしい。そちらは読んだことがないのでこの作品でお初ということになる。群像劇というだけでポイントが高いのに、百合が付くというのがさらにポイントが高い。あ、ちなみに百合というのは女性同士の恋愛という意味だ。それだけ聞けば興味を持つ人間も居るかもしれない。何せ図書室に納品されるぐらいの書籍なのだ。よっぽど面白いに違いないだろう。
「……ほら、いっくんも手伝ってよ、天体観測の準備!」
 ……だが、今日はこれを読み進めることは出来ないだろう。
 借りる準備を進めておきながら、僕は天体観測の準備をするために席を立つのだった。

 

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