殺人鬼、御園芽衣子 ⑫
- 2019/05/28 06:12
結局、他のメンバーがやって来るまで、アリスは帰ってこなかった。
だから僕はあれの続きを聞くことは出来なかった。
何だろう、このむず痒さは。
犯人は分かっているのに、警察に突き出すことは出来ない。
どうせ突き出したところで、『任務』と命じたところが揉み消すに違いないということ。
そもそも『任務』を命じたところはいったい何処になるんだ?
UFOが来た次の日に彼女はやって来た。……ということは、彼女はやっぱり、『宇宙人』なのか? だとしたら所属は何処になる? 自衛隊? そもそも僕達の法律で裁ける人間だというのだろうか?
分からない。全くもって分からない。
僕は、ちっぽけな人間だ。
僕は、小さい人間だ。
何も出来ない、何もすることが出来ない、何も逃れる事が出来ない。
ちっぽけで、臆病で、どうしようもない人間だ。
でも、それでも。
やれることはきっと――あるんじゃないか?
僕はそんなことを思うようになるのだった。
※
その夜も、天体観測は失敗だった。
UFOが見えることはなかったのだ。
いつも通り片付けは部長達とあずさに済ませて、僕とアリスはさっさと帰ることになった。
アリスはというと、僕の予想の五倍ぐらいのスピードでさっさと帰ってしまったため、続きを聞くことは出来なかった。
そうそう、強いて言うならば。
今日も彼女に出会うことが出来た――ってことぐらいかな。
※
後日談。
というよりもただのエピローグ。
相浜公園のブランコに、今日もあいつはやって来ていた。
「……御園芽衣子」
「やっほ、いっくん。どうしたの、そんな暗い顔して」
ブランコの隣に腰掛ける僕は、そんなに暗い顔をしていただろうか。
「犯人は、やっぱり俺だったか?」
その言葉に、首を横に振る。
「そりゃ、とんだ冤罪だったな。そして、その態度からしてどうやら犯人も見つけているようだが」
「ああ。見つけているよ。けれど、そいつを警察に突き出すことはきっと出来ない」
「どうして? このまま俺の冤罪が適用されたまま、って言うのかよ? まあ、きっと過去にやった殺人をでっち上げてくるんだろうけれどよ」
「……あいつは、殺人を『任務』と言った。だから、あいつには上が居るんだ。命令系統上の上の存在が。その存在をどうにかしない限り、何も始まらないし、何も終わらない」
「そいつをどうにかすることは?」
「出来ないだろうね。今の僕じゃ」
「ふうん。お前らしくもない」
ブランコから立ち上がると、僕の前に立つ御園。
御園は言った。
「……それでもお前は俺と同じ存在なのかよ? いっくん」
そう言い残して、御園はそのまま公園から出て行ってしまった。
僕はそれを、見えなくなるまでずっと見送ることしか出来ないのだった。
※
最後に、もう一つ。
三日前の殺人を最後に、殺人事件は収まった。ワイドショーも殺人事件をあまり取り上げなくなってきたので、このまま殺人事件は闇に葬られることになるのだろう。
結局、アリスが犯人だったのか。
結局、御園が犯人だったのか。
それは分からない。
それが分からない。
けれど――これだけは分かる。
中学生一人で何とかなるようなものじゃない――何か大きな流れがあるということを。