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ユーザー「master」の検索結果は以下のとおりです。

クスノキ祭 ⑦

  • 2019/06/08 01:10

「暑いねえ」
「うん……」
 ミーン、ミーン、と。
 蝉が鳴いていた。
 蝉が鳴いている、その音だけをBGMにして、僕達は店主が出す車をただひたすらに待っていた。
 持っていたのは、メイド服が大量に入った五つの袋のみ。
「……何か、飲む?」
 藤岡さんは僕にそんなことを言ってきた。
 見ると、豊橋制服店の目の前には自動販売機が置かれていた。
「え、でも」
「良いから。ここまでついてきてくれた、お礼」
 そう言われてしまったら、従うしかないだろう。
 そう思った僕は――こくり、と頷くことばかりしか出来なかった。
「何が良い? お茶とか、ジュースとか、コーラとか」
「コーラは苦手かな。……炭酸飲めないし」
「えー、いっくん、意外ー。いっくんなら強炭酸もお茶の子さいさいだと思っていたよ」
「お茶の子さいさいって今日日聞かないワードだな……」
 僕はそんなことを呟きながら、何を飲もうかなんてことを考えていた。
「じゃあ、お茶にしようかな」
「りょーかいっ。いっくんの好きなお茶を購入してくるねっ」
「何かそう言われると腹立たしいな……」
 たったった、と。
 彼女は走って、自動販売機に駆け寄った。
 ガゴン、と何かが落ちる音がして、無事に購入出来たのだと理解する。
 そうして戻ってきた彼女が持っていたのは、麦茶だった。
 ミネラルたくさん、美味しい麦茶。
 そんなキャッチコピーだったような気がする。
 麦茶のペットボトルを受け取ると、それはキンキンに冷えていた。
 冷たかった、というレベルを通り越して、凍っているんじゃないか、なんて思ってしまうぐらいに。
 いや、それは言い過ぎだったかもしれない。
「……いっくんってさ」
「うん?」
 麦茶を一口飲みながら、僕は質問に答える。
 彼女はカルピスウォーターを飲んでから、質問を再開する。
「伏見さんと高畑さんと仲が良いよね」
「ぶはっ!」
「うわーっ! いっくん、大丈夫? どうして吐き出したりした訳?」
「そりゃ、そんな質問を急にされたら驚かない方が驚きだと思うけれどね……」
「そういうもの?」
「そういうものだよ」
 ところで、何の話だったかな。
「そうそう。伏見さんと高畑さんと仲が良いよね。見ていて羨ましいな、って羨望の眼差しを送っちゃうぐらいに」
「……羨ましいと、羨望の眼差しで言葉が被っていないか?」
「何の話?」
「いや、君が気にしないなら別に良いんだけれどさ……」
「どうしてそんなに仲が良いのかな、って思っちゃって」
「どうして、って言われても……。部活動が一緒だから、かな。それに、言っておくけれど、あずさとは仲が良いかもしれないけれど、アリスとはあんまり口も聞かないよ。喋ること自体、彼女はしないからね」
「ほら、そうやって。下の名前で呼ぶのが珍しいじゃない、いっくんって」
「そうかな?」
「だって、私の名前分かる?」
「え……、藤岡……何だっけ?」
「めぐみ!」
 そんな名前だったかな。
 僕は思いながら、再び麦茶を一口。
「ああ、藤岡めぐみさんね。覚えた、覚えた。これでも僕は記憶力は良い方なんだ」
「でも、いっくんはいっくんって呼んだ方が呼びやすいよねっ。本名よりも」
「……そりゃどうも」
 出来ることなら、本名で呼んで欲しいんだけれどな。
 それはそれとして。
「遅いな、店主」
「みーちゃんのこと?」
「みーちゃんって呼ぶのか?」
「豊橋みずきさん。だからみーちゃんって呼ぶの」
 まるで猫だな。
 僕はそんなことを思いながら、炎天下の空を眺める。
「で、その……みーちゃん? とは仲が良いのか?」
「仲が良い訳じゃないけれど、時折ガールズトークをするぐらい」
 それを仲が良いって言うんじゃないのか?
 僕は思ったけれど、言わないでおいた。
「伏見さんと高畑さんって、水と油みたいな関係性になると思っていたけれど、意外と馴染んでくれて助かっているよ」
「水と油? そうか?」
「だって、あの二人って接点が皆無でしょう? けれど、同じ部活動に入ってくれて、どうやら仲も良さそうだし……。いっくんも居るしね!」
 そこでグッドと出すのはどういう意図があってのものなのだろうか。
 僕には分からない。
「おーい」
 そこで僕達の前に軽トラが止まる。
 運転しているのは――店主ことみーちゃんだった。
 そこで僕達の会話は終わり。
 強制的に終わってしまった、といった方が正しいのかもしれないけれど。

 

クスノキ祭 ⑥

  • 2019/06/08 00:41

 豊橋制服店は七里ヶ浜駅の直ぐ傍にあった。寧ろこんなところにあって今まで気づかないのが驚きだったと言えるだろう。まあ、僕にとってこの界隈でのことは殆ど知らないことだと言ってもおかしくないので、ある種仕方ないといえばそれまでのところになってしまうのだけれど。
 それはそれとして。
 豊橋制服店には一度入ったことがある。理由は単純明快。制服を買い揃えるためだった。前の学校は学ランだったのだが、それも数ヶ月で着用しなくなってしまい、ブレザーであるこの学校の制服を買う羽目になってしまった――という訳である。買う羽目になってしまった、というのもどうかと思うけれど、しかしながら、それは間違っている情報ではないので、何ら不思議ではない。実のところたった一つだけ『理解できないこと』があるのだけれど、それは口に出さない方が良いだろう、ということで勝手に結論付けている。それ以上でもそれ以下でもない、何か別の考えがあるとでも言えば良いだろうか。いずれにせよ、この豊橋制服店には一度来たことがあるが、それっきりでそれ以外には来たことがない。上履きとか体操着とかの替えが必要な生徒は購入しに訪れるらしいけれど、僕はそのときに何枚か購入しておいた(流石に上履きまでは複数個購入しなかったけれど)ので、ここに立ち寄ることは滅多にないと思っていた。そう、滅多に――。
「でも、こんな早く訪れることになるなんてな……」
「何か言った? いっくん」
「いいや、何も」
 別段言ったかどうかを口にしたところで何かが変わるだとかそんなことはないし、別に話すことでもないと思っていた。僕の思っていることを他人に思わせることぐらい、簡単に出来たら良いのに――なんて思うのだけれど、それはそれで窮屈な生き方になってしまうな、と僕は思った。ただ、それだけのことだった。
 豊橋制服店に入ると、直ぐ目に入るのは、何と言っても店員の姿だろう。
 アフロ姿に、似つかわしくないエプロンを身に纏っている。
 その姿で女性だというのだから、はっきり言って疑問符が幾つ浮かぶか分かったものではない。
「いらっしゃいませー。あら、どうかしたの?」
「メイド服を貸して欲しいんですけれど。二十着ぐらい」
「……ああ、予約していた子ね。荷物大量にあるけれど、持って行ける?」
「大丈夫、大丈夫。そのために一人連れてきたので!」
 荷物持ちかよ!
 まあ、大体想像はついていたけれど。
 そんなことを思いながら、僕は袋の中にびっしりとメイド服が敷き詰められた袋を四つ手に取るのだった。
「あと一つは私が持つわね。流石に全部持って貰うのも悪いし」
「いや、だったら最初から増員を考えておいてくれよ……。四つは流石に持ち運びづらいって」
「車、出しましょうか?」
 言ったのは店主だった。
 何と、恵みの雨が降ってきたような感覚だった。
 僕達二人はそれを聞いて即座に了承。少し店の前で待っていてね、と言われて僕達は荷物を持って豊橋制服店の前に待つのだった。

 

クスノキ祭 ⑤

  • 2019/06/07 20:37

 そして、次の週末。
 僕はクラス委員の藤岡と一緒に街を歩いていた。
 何でこんなことになっているのかというと――話は少し前に遡る。
 放課後。僕はいつも通り部室に向かおうとしたところで、クラス委員の藤岡に足止めを喰らった。いったい全体何があったのだろうかなんてことを考えていたのだけれど――。
「いっくん、ちょっと良いかしら?」
 クラス委員にもいっくん呼ばわりかよ。
 僕はそんなことを思いながら、シニカルな笑みを浮かべる。
「君は確か、クラス委員の藤岡さんだったよね……」
「そう! 覚えていてくれて何よりです。……それで、あなたに頼みたいことがあるんですけれど」
「頼みたいこと?」
 何か頼めるようなことが出来るスキルでも持ち合わせていたっけな。
「と言っても難しい話じゃないのよ。洋服店にメイド服を取りに行く用事があるんだけれど、私一人じゃとてもじゃないけれど持って行くことが出来ないから」
 メイド服?
 はて、何かそんなことを使う用事ってあったかな?
「もう、とぼけないでよ! クスノキ祭の出店でメイド喫茶にするって決めたじゃない!」
 そういえばそうだった。
 あまり興味がなかったのですっかり忘れてしまっていたのです。申し訳ない。
「興味がなかったから忘れていた……みたいな表情を浮かべているけれど、残念。あなたたち男子にも手伝って貰うんだからね!」
「ええっ? 男子に手伝えることなんて何も見当たらないような気がするんだけれど……」
「何を言っているの! メイド喫茶で出す食べ物を作って貰うんだからね!」
 ……何てこった。
 まさかそんなことをやる羽目になるとは思いもしなかったのである。
 別段、気にしなくて良いだろうと思っていたから猶更だ。
「……料理って何をすれば良いの? 具体的には? もう紙パックのジュースを手渡しでも充分なんじゃない?」
「何を言っているの! それじゃ、『喫茶店』にならないじゃない」
「意地でも喫茶店にしたいんだね……」
 どうやら、藤岡さんは意地でも喫茶店にしたいらしい。
 そこまでやるこだわりって何処から生み出されるんだろうか……。
 というか、メイド服着るのは女子なんだよな。僕達男子は着なくて良いだろうし。というかそんな需要は何処にもない訳だけれど。
「いっくん、細身だし、メイド服着ても似合うんじゃないの?」
 嘘だろ?
「嘘、嘘! 流石に男子にメイド服を着させる程、馬鹿じゃないって!」
 馬鹿じゃないのか。
 いや、馬鹿なのか?
「……で? メイド服を取りに行くって言ったけれど、その場所は遠いのか?」
「全然! 学校から歩いて五分ぐらいの距離だよ」
 だったらお前一人でやれば良いじゃないか。
 言ったところで薄情者呼ばわりされてしまうのだろうけれど。
 ……まあ、仕方ない。少しはクラスの活動を手伝わないといけないのだ。そしてそれがそのときなのだろう。そう思って僕はその言葉を了承するのだった。

クスノキ祭 ④

  • 2019/06/07 07:50

「母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけれど」
「何だい、いっちゃん。珍しいこともあるもんだね」
「……父さんの仕事って、いったい何?」
 ぴくり、と。
 母の眉が少しだけ動いたような気がした。
 母は話を続ける。
「……父さんは、瑞浪基地に勤務しているんだよ。そういえば、言っていなかったっけ?」
「聞いていないよ。瑞浪基地って、UFOが飛来するって言われている場所だろ。どうして教えてくれなかったのさ」
「……教えたら面倒なことになるって分かっていたんだろうねえ」
「面倒なこと?」
「ほら。例えば、UFOが見えるなんて言ったら、普通の人はどうすると思う?」
「……見に行きたい、って思うだろうね」
「でしょう?」
 でしょう、って。
 だから僕に何も言わなかった、っていうのか。
 それって何処かおかしすぎる。
「……ま、詳しい話は父さんに聞いてみなさい。父さんが何処まで話をしてくれるかどうかは分からないけれどね」
「……確かに」
 今は困っている問題ではない。
 だったら別段今気にしている問題ではない、ということだ。
 ならば、気にする必要もないし、気にされる心配もない、ということだ。それが『分からない』ことであったとしても、それが『分かりづらい』ことであったとしても、答えが見えてこないことであったとしても。
「……取り敢えず、父さんのことを知っているのは母さんだけ?」
「そうだよ。母さんは昔同じ職場に勤めていたからね」
「ああ」
 そういえば、そうだった。
 今はパートをしているけれど、昔は同じ職場に勤めていた、って話を聞いたことがある。
 要するに職場結婚である。
 職場結婚をして、早々に会社を辞めて、僕を産んだ。それが母の経歴。けれど、ずっと専業主婦を続けられる程、うちも豊かじゃない。だから母はパートで生計を立てることにしたのだ。それがどれ程大変なことかは分からない。けれど、共働きしているということは家計に余裕がないのだ、ということだけは伝わってくる。だからかもしれない。昔から、欲がない人間だった。それが良いのか悪いのか分からないけれど、両親にとっては随分有難い存在として育っていったのかもしれない。
「……父さんが帰ってくるのって、いつだっけ?」
「次の土曜日だから、十一日じゃない?」
 だったら、そのときに聞いてみよう。
 UFOのことについて? いいや、違う。あのメールのことについて? いいや、それでもない。
 なら、何について聞くのか?
 その質問の内容は――少し先に取っておくことにしよう。そう思って僕は父の部屋に残していた本を取りにまた部屋へ戻っていくのだった。

   ※

 コラムの内容はそう大変なものではない。
 UFOの事件について纏めれば良い、と。そう考えていたからだ。
 先ず有名なものと言えば、ロズウェル事件だろうか。アメリカのロズウェル付近で墜落したとされるUFOが米軍に回収された、として有名になった事件だ。数多くの目撃談がある中、未だにその事件は謎が多いままで解決してはいない。その事件を取り上げようと思うのだ。別段珍しいことでもない。UFOを知っている人間ならば、ロズウェル事件に触れることは早々珍しい話でもないからだ。それぐらいに、ロズウェル事件が有名だということだろう。僕はそう思いながら、プロット――文章を書く上で重要な導き手のようなもの――を書き始める。
 書くこと自体は苦痛ではない。原稿用紙数枚でエコについて執筆しろと言われたとき、連綿とした内容のエコに関する論文めいた何かを書いたことがあるぐらいだ。寧ろ得意と言ってもいいかもしれない。
 ならば、そのプロットを使えば簡単に文章が書けるのかと言われると――案外そうでもない。「まあ、そんな簡単に書けたら苦労しないわなあ……」
 僕はそんなことを思いながらボールペンをくるくると回していく。
 回したところで何か生み出されるものがあるのか、と言われるとそれはまた話が別。
 人間って時折意味のない行動を取りたがる生き物なのだ。だからそれぐらいは仕方ない、と思って受け入れて貰うしかない訳だ。
 そんなこんなで――書かないことには何も始まらない。
 そう思った僕は、うんうん唸りながら文章を書き始めるのだった。

 

クスノキ祭 ③

  • 2019/06/07 06:21

「……しかしながら、これでは足りないのもまた事実」
 ならばどうすれば良いのか。
 答えは単純明快。
「失礼しますよっと」
 父の部屋。一週間に一度しか帰ってこないから最早書庫と化しているその部屋に、僕は立ち入る。許可? そんなもの、必要ない。家族なんだから。
 中に入ると、大量の本が入っている本棚が目に入ってくる。……何というか、相変わらずこの部屋は入るのが億劫になる。何でだろう? 良く理由は分からないけれど、しかしながら、実際入ってみれば分かるものだ。この部屋の雰囲気は、何かやばいってことに。何がやばいって? さあ、何がやばいんだろうか? そんな具体的なことにまで言及するのもどうかと思うので言わないでおくけれど。
「……やっぱり、相変わらず良質な文献が揃っていること」
 父はUFO、ひいては宇宙が好きだ。だから宇宙に関する文献は数多く残してある。それこそ、お金に糸目をかけずに手に入れたものばかりだ。そんな父の残した(残した、って言うと死んでしまったように聞こえてしまうけれど、知っている方には知っている当然のこととして、未だ健在である)文献を利用させて貰おうという魂胆だ。別に悪いことでも何でもない。一応母には許可は貰っている。「使って良い?」って。母は二つ返事で良いよ、と言ってくれたから、感謝の気持ちで一杯だ。
「……こんなもんで、良いかな」
 何冊か見繕ったところで、僕はふうと溜息を吐く。文献だけでも探すのに時間がかかるっていうのに、実際に書くとなったらどれぐらい時間がかかるのだろう。考えただけで眩暈を起こしそうだ。こんなところで眩暈を起こしたらそれはそれで問題なので、起こさないけれど。
「ん? 何だろう、これ……」
 父のパソコンの、電源が点けっぱなしであることに気づいた。
 パソコンは常にコンセントに繋がっているから、勝手に電源が落ちることはない。とはいえ、電源を入れっぱなしというのは少々プライバシーの問題に関わることだと思う。別に家族の間だからプライバシーなんて関係ない、とでも思っているのかもしれないけれど。
 そんなことを思っていたのだが――宛先を見ると、僕は身震いしてしまった。
「……瑞浪、基地?」
 瑞浪基地第三部隊。
 どうして父のパソコンから、瑞浪基地から送られたメールが出てくるんだ?
 答えは見えてこない。けれど、確実な点は一つ。父が瑞浪基地と関わっている――ということ。しかし、どうして? 父の仕事は住み込みの調理人ということで、それ以上のことは知らない。だから、瑞浪基地に勤めていることも、充分に可能性としては考えられることなのだけれど――。
「メール……未読が一件……」
 気がつけば。
 僕は父のパソコンからそのメールを見てしまっていた。
「九月一日……、対象は問題なく帰宅。このままでも問題ないため、文化祭まで様子を見ることにする……だって? いったい、どういうことなんだ? 対象ってもしかして……」
 僕は、そこでこの前聞いてしまった桜山先生と今池先生の話を思い出していた。
 あずさとアリスのことを……意味しているのだろうか?
 いやいや、一端の料理人がどうしてあずさとアリスの監視のことを知っているんだ? 全然納得いかない。もしかしたら、父はとんでもない任務に巻き込まれてしまっているのではないのか――?
 僕は、恐ろしくなった。
 僕は、怖くなった。
 僕は――怯えてしまった。
 父が何をしているのか知らないまま、ずっとここまでやって来てしまっていたからだ。
 父の仕事を一切知らないまま、ここまでやって来てしまっていることだ。
 僕は、真実を知りたくなった。
 僕は、全てを知りたくなった。
 だから――僕は母の居る部屋へと大急ぎで向かうことにするのだった。

 

クスノキ祭 ②

  • 2019/06/06 20:31

「でも、これだけは忘れないで。新聞の記事を書く上で、大事なこと。どんなに誇張して書いても良いけれど、嘘だけは書いちゃいけない。それは信用問題に発展する重要な問題だからね」
「何で?」
「だって普通に考えてみろよ。例えば、『瑞浪基地にあるUFOは戦争のためにあるものだ』と書くとするだろ? でもそれって、憶測の域を出ない問題になる訳だよ。そんなことをまるで真実であるかのように書いてしまうこと自体が問題なんだ。信用されてしまう、ということは信用するに値する記事を書かなくてはならない。意味が分かるかい?」
「……うーん、分かるような、分からないような」
「とどのつまり、何事もやり過ぎは良くないって話さ」
「何だ、そういうことか。最初からそう言ってくれれば良いのに」
「それで分かって貰えるとは思っていなかったからね」
「……それ、単純に僕のことを馬鹿にしているよね?」
「馬鹿になんてしていないよ。……ただ、こう言わないと分からないだろうな、と思っていたぐらいで」
「それを『馬鹿にしている』って言うんだろうが!」
「あはは。そうかもしれないね」
 そうかもしれないね、って。さっきからこいつの言っていることにはトゲがあるような気がする。トゲがない発言をしろ、とは言わないけれど、トゲのある発言をしろ、とも言いたくはない。トゲのある発言をする、ということはそれなりに信頼されている、ということの裏返しなのかもしれないけれど。
 話はさらに続く。
「でもまあ、結局は『真実』しか書かないこと、というのが大原則かな。憶測の域を出ない場合は、その旨記載すれば問題ないけれど。でも信用問題というのが出てくるからね。そこだけは注意しないと」
「信用問題、ねえ……。やっぱり、新聞部に聞いたのは正解だったのかもしれないな」
「どうして?」
「宇宙研究部の先輩に聞いたら、途轍もなく変なことを言われるだろうな、と思ったからだよ」

   ※

 ルールは分かった。
 後は記事を書くだけだ。書くだけ、と言っても簡単に出来る話じゃない。先ずはネタを揃えなくてはならない。そのためにも、宇宙研究部のみんながやっている内容に被りがないようにしなければならない。みんなはいったいどんなネタを書くんだろう?
「秘密だよ」
 とあずさ。
「……決めていないけれど」
 とアリス。
「UFOに関する記事に決まっているだろう! 何せ初めて撮影が成功出来たのだからな!」
 と部長。
「……野並と同じ。ってか共同執筆」
 と池下さん。
「私はあんまり宇宙研究部に出入りしていないから今回はパス。それに生徒会の仕事が忙しいし」
 と金山さん。
 そういえば生徒会はクスノキ祭の運営も行っている。だから簡単に部活動に注力することが出来ないのだろう。現にこの間の鎌倉旅行にも彼女一人だけ参戦しなかった訳だし。
 話を戻すと、結局未だ内容が決まっていないのは、僕とアリスだけのようだった。もっとも、アリスは何か記事を書くのだろうか? 分からない。もしかしたら何も書かないまま、空白が生まれてしまうのかもしれない。そうしたらどうなるのかさっぱりと答えは見えてこないのだけれど。
「じゃ、僕はUFOに関する評論でも書くことにするか……」
 至極、まともな記事にするつもりだった。
 というか、それ以外の選択肢が残されていないような気がした。目玉となる記事は当然部長が書くことになるだろうし、となると僕達に残されたのは残滓のみ。残滓をどう取り扱うかは本人の自由になるのだろうけれど、しかしながら、それが正しい使い道であるかどうかもはっきりとしない今、僕達に残された道は暗く狭い道ばかりだった。もしかしたら、あずさも案外それで悩んでいるかもしれないしな。
 そうなれば、答えは明白だった。図書室でUFO関連の書物をいくつか借りて、今日はさっさと退散することにした。一人で書いている方がやる気が出る。僕はそんなことを思っていたのである。それが何処まで正しいのか実際にやってみないとさっぱり分からないけれど。
「とはいえ、」
 僕は家に帰り溜息を吐く。家に帰って先ずやることは書物の整理だった。持ち帰ってきた書物は実に十冊程度。そのどれもがUFOに関する書物ばかりだ。もし仮に僕が今何らかの事件で逮捕されたら、『家には大量のUFOに関する書物がありました』等と言われるのだろう。
 

クスノキ祭 ①

  • 2019/06/06 19:04

「新聞のネタはどうなった?」
 新聞のネタって何のことだろう――なんて僕は思ったけれど、少ししてそれが文化祭――クスノキ祭――で展示するはずの新聞であるということに気づくまで、そう時間はかからなかった。
「新聞のネタなら、未だ考えついていないですけれど」
「印刷するの、いつだと思っているんだ」
「いつでしたっけ?」
「……えーと、クスノキ祭が二十四日と二十五日だから、二十三日の昼までに印刷機を借りられれば問題ないな」
「借りるんですか? 印刷機を」
「そりゃ学校の新聞部と同じ規模の新聞を印刷するんだぞ。印刷機を借りないと、自分で印刷する羽目になってしまう。それは嫌だろう?」
 確かに。
 それは出来ることならしたくない――そう思った。
「そうだろう、そうだろう。だったらそれまでに書き上げることだな。……と言っても、今日が五日だからあと二週間以上はあるけれどな」
「そういう部長はどうなんですか?」
「……ネタなら出来ている」
 つまり原稿は書けていない、と。
 僕はそんなことを思いながら、原稿のネタを考え始めるのだった。……それにしても、どんなネタを考えれば良いのだろうか? この前あずさには『もう出来ている』なんて強情を張ってしまったけれど、そんなのは嘘であって、実際には未だ一文字も出来上がっていない。というか、そういうものを書くのが初めてなこともあるので、どのように書けばいいのか分からないというのが実情である。誰かに聞いても良いんだけれど、全員が全員忙しいだろうしなあ。だったら、宇宙研究部以外の誰かに聞くしかないのだろうか。
「……あ、」
 そう言えば、居たじゃないか。
 同じクラスの新聞部の部員が居るじゃないか。

   ※

「記事の書き方が知りたい? そりゃまた唐突な言葉だね」
 栄一輝。
 覚えている人も覚えていない人もこの際思い出して貰いたい。かの生徒会選挙の時に、宇宙研究部にわざわざ部長の写真を撮りに来たカメラ小僧である。実は彼と僕は同じクラスな訳であって、だからこんな風に話をすることも出来る訳である。
「……頼む! 宇宙研究部で新聞を作ることになったんだけれど、どう書けば良いのか、さっぱり分からないんだよ」
「そういうのって、部長とか先輩に教えて貰うものじゃないの?」
「そうなんだけれど、部長や先輩も忙しそうでさ。未だ出来上がっていなさそうだし」
「それで、新聞部である僕に聞きたい、と?」
 こくり、と僕は頷く。
「うし、いっくんの頼みだ。断る訳にゃいかないね」
 立ち上がると、彼は僕の方を向いた。
「教えてあげるよ、新聞部直伝の記事の書き方だ。報酬ははずませて貰うぜ?」
「ああ、分かっているよ」
 ……そうして。
 僕は栄くんに、新聞の書き方を教えて貰うことにするのであった。
「新聞の記事ってのは、先ず見出しが七割を占めているって言われているよ」
 歩きながら、僕と栄くんは話を始める。
 ほうほう、見出しが七割を占めている、と。つまり、残りの三割が内容である――ということなのだろうか。
「となると残りの三割は何だ、って話になるけれど、答えは単純明快。内容について、だよ。内容がどういう内容になるのか分からないけれど、見出し程重要ではないけれど、見出しで目を惹きつけておいても内容がゴミだったら話にならない。言っている意味が分かるかな?」
「……ああ、充分分かるよ」
 現に、新聞って見出しで惹きつけていて中身が伴っていないケースが多かったりするしな。僕も新聞を良く読むけれど、それぐらい良く分かる。
「分かるなら、後は充分さ。書いていくには、七割話が分かったと言って貰って良い」
「そんな簡単なのか? 新聞の記事を書くこと、って」
「まさか。一月の記事を書くのに一月以上かかることなんて良くあることだよ。だから、そんな簡単に『記事が書ける』なんて言わない方が良いよ。たとえ、学校新聞の記事だろうとね」
 そんなものだろうか。僕は考える。しかしながら、やっぱり理解出来ない。それがどうであろうと、それが間違っていようと、それが正しいことであろうと、結局は僕の価値観が尺として成り立っているのだから。僕が『簡単そうだ』と言えば、簡単なのだ。未だ一文字も書いたことはないけれど。きっとそれは、初心者特有の『やりやすさ』みたいなものなのかもしれないけれど。

観測活動の再開 ⑭

  • 2019/06/05 21:35

 もう一つ後日談。
 というよりもこれからのことについて。
 いつも通り部活動に専念するために、図書室へと向かっていたその矢先での出来事。
「…………ええ、そうなるわね」
「なら、仕方ないわね」
 声が聞こえた。
 盗み聞きするつもりはなかった。
 ただ、声が聞こえてしまっただけなのだ。
 僕は壁沿いに視線をやる。するとそこに居たのは、桜山先生と……確か、保険教諭の今池先生だった。
「二人、何の話をしているんだろう……?」
 僕は耳を傾ける。
「……そろそろ、彼女の『記憶』を元に戻してあげなくてはならない頃合いだと思うのよ」
「しかしね、そう簡単に記憶を戻すことなんて出来やしない。それこそ非合法といえるような薬を投与しない限り……」
「それでも構わない。上はそう選択しているわ。何せ、今やパイロットは一人しか居ない。パイロットの人手不足は死活問題なのよ。この国にとってはね」
「あの子達を……子供達を何だと思っているの」
「あの子達を利用しない限り、この国に未来はないわ。残念ながら、それが結論よ」
「しかし……」
(二人とも、何の話をしているんだろう?)
 話を聞いている限りだと、今池先生が桜山先生の部下のように見えた。
 部下、というよりかは地位的に上の存在、か。
「ともかく、伏見あずさと高畑アリスの状態は問題ないんでしょうね?」
「……ええ。健康状態は問題ないわ。いつでも出動させることが出来る。強いて言うなら、彼女には記憶が戻っていないということが挙げられるけれど」
「だから。それをどうにかするのがあなたの仕事ではなくて?」
 あずさと、アリス。
 二人ははっきりとその名前を口にした。
 二人がどう関わってくるというんだ?
「『北』の状況はどうなっている?」
「ひどい有様よ。何せ、この国は自衛の手段は持ち合わせていても、自ら攻撃する手段を持ち合わせていない。だから相手は言いたい放題、って訳。はっきり言って、さっさと潰れて貰いたいところだけれど。アメリカに頼りきりというのも出来ない状態になっている訳だしね」
 北? アメリカ? 自衛?
 どうして学校でそんな話が出てくるんだ?
 どうしてこんなところで――そんな話題が出てくるんだ?
「総理は何と?」
「出来ることなら戦争を回避したい方向で各国と調整を進めている。だけれど、無理でしょうね。疲弊しきった世界経済に、活力を与えることが出来る唯一の産業と化してしまった戦争ビジネス。それに介入して、『やりたくない』なんて言える訳がない。既に世界はそこまで来てしまっている」
「ならば、戦争は避けられない……と。未来は、暗いわね」
「でもその未来を守らなくてはならないのが私達の役目。そうじゃないかしら?」
「そうね。そのためにも彼女達を、戦争の道具に使わなくてはならないということ。それだけは受け入れなくてはならないのよね……」
「いずれにせよ、夏が終わったら?」
「そうね。文化祭の終わりが、彼女達の日常の終わり、と言って良いでしょうね」
 僕は、思わず走ってしまった。
 それ以上のことは聞きたくなかった。
 戦争の道具って何だよ。
 未来は暗いって何だよ。
 僕達の世界はそこまで荒んでしまっているってことなのかよ。
 信じたくない。信じたくない。信じたくない。
 そんな世界、許せるはずがない。
 僕は――彼女達を救いたい。
 僕はただ、そのために走り続けた。

   ※

「……行ったわね」
「ええ。それにしても性格が悪いわね。わざと彼に計画の一部を聞かせるだなんて」
「あら? それを選択したのはあなたではなくて? それに、そうしないと『彼女』の記憶を取り戻すことが出来ない、と言ったのもあなたのはず。だったら私達はそれに従うしかない。そう決められているのよ」
「そうね……。後は彼がどう動くか、見せて貰おうじゃないの」

 ※
 
 夏が、終わりを迎える。
 それが誰にとっての終わりなのか、誰にとっての夏なのか。
 その結末は――そう遠くない未来にやって来ている。

 

観測活動の再開 ⑬

  • 2019/06/05 21:10

 後日談。
 というよりも今回のエピローグ。
「……あずさ、そのペンダント、何?」
「え? これ?」
 あずさが首にかけていたペンダントに、僕は夢中になってしまっていた。
 そのペンダントは、見たことのないペンダントだった。星を象った、至ってシンプルなものだったけれど、それがどうしても気になってしまうものだった。
「……昔、母さんから貰ったんだ」
 あずさの家庭事情を、そういえば、僕は知らない。
 おじさん、という話が出てくる限りでは、今は彼女の両親は別居しているのか、或いは死別してしまったのか――答えは見えてこないけれど、それは言わぬが花といったところだろう。
「綺麗なペンダントだね」
「そう? えへへ、ありがとう。いっくん」
「おーい、何話しているんだー。急いで江ノ電に乗るぞー!」
 部長の言葉を聞いて。
 僕達は大急ぎで江ノ島駅へと入っていく。
 ただ、それだけのことだった。
 特に何もない、ただそれだけのことだった。

   ※

 結局。
 休日を無駄遣いしてしまった結果に終わってしまったUFO観察だったけれど、その後あっさりと終わってしまった。そういうことで夕食の時間には間に合って、家族団らんの時間を得ることが出来た、という訳なのだけれど――。
「来年になったら、お前も高校入学のことを考えなくてはならないんだぞ。いや、もっと言えば今から考えなくてはならないんだ。だのに、お前というやつは宇宙研究部という部活に興じて……」
「何だよ、今の部活動が悪いって言いたいのかよ」
「そういうことじゃない。ただ、宇宙研究部が何をしている部活動なのかさっぱり分からないと言いたい訳だ」
「……UFOの観測とか?」
 ぴくり、と。
 父さんの眉が動いたような気がした。
 それに僕はちょっとだけ驚いてしまった訳だけれど。
「……父さん?」
「ああ、いや、何でもない。UFOの観測か。面白いことをやっているじゃないか。UFOは見えるのか?」
「一度見たよ。瑞浪基地から飛来してくるらしいんだけれど。そのUFOが見えるんだよ。学校か、もしくは江ノ島で」
「……そうか」
 父さんは、それ以上何も言わなかった。
 何も言いたくなかったのかもしれない。僕にとって、その部活動に居る意味が分からなかったのかもしれない。だとするならば、それがそういう立ち位置になるならば、それもしょうがないことなのかもしれない。けれど、僕にとって、今の部活動に居ることは――。
「……なあ、」
「うん?」
「UFOを見ることが、そんなに楽しいことなのか?」
「……え?」
「UFOを観測することが、そんなに楽しいことなのか、と言っているんだ」
 父さんの言葉は、胸にひどく突き刺さった。
 何故いきなり父さんがそんなことを言い出したのか、僕には分からない。
 けれど、父さんが言いたいことも少しだけ分かるような気がする。
 遊べるのは、今だけだ――父さんはそう言いたいのだろう。
 二年生になれば具体的に進路のことを考えなくてはならない。そうなったら、僕はどの道に進めば良いのか、具体的に考えなくてはならない。
 それについて。
 僕は、考えられるのだろうか。
 僕は――未来を考えられるのだろうか。
 その答えに辿り着くまでは――未だ相当な時間がかかりそうだったけれど。

 

観測活動の再開 ⑫

  • 2019/06/04 22:14

「母さん、誕生日おめでとう」
 僕は鳩サブレーの袋を母さんに手渡した。
「あらあら、鎌倉に行ってくるとは言っていたけれど、こんな良いものを買ってきちゃって」
「……でもね、母さん。今日は夕食一緒に食べられないんだ」
「あら、どうして?」
「宇宙研究部の活動が急遽入っちゃって。ごめんね、母さん」
「今日は母さんの誕生日だろう。何とかならんのか」
 言ってきたのは父さんだった。
 大柄な肉体は、まるで何かスポーツをやってきたのかと疑ってしまう程だった。しかしながら本人の意見曰くスポーツをやって来たことはなく、寧ろそういうものから勧誘を受けてしまうレベルだったという。若い頃は、相撲取りが来ると厨房の奥に隠れるように偉い人から言われたぐらいがたいが良い。
「何とかしたいけれど……、でも」
「でも、何だ」
「いいじゃない、あなた。私の誕生日よりも大切なものがあるのよ。青春ってそういうものじゃない」
「そういうものなのか」
「そういうものです」
 母さんの言葉に、少しだけ救われた。
「ありがとう、母さん。ごめんね」
「良いのよ。子供は遊んでナンボのもんだから! さあさ、急がないと置いて行かれるんじゃないの? 急いで急いで」
「わわっ、分かったよ」
 押されてしまって、僕はそのまま外に出て行くのだった。

   ※

「いっくん、遅い遅ーい!」
 江ノ島の灯台付近にて。
 いつも通り、宇宙研究部は集まっていた。
 集まっていたところで、UFOの観測自体は未だ始まっていないようだったけれど。
「UFOの観測は夜になってからだな。……ところで、問題なかったのか?」
「何が、ですか?」
「ほら。お前のお母さん、今日誕生日だったんだろ」
「青春は大事にしろ、って言われました」
「ははは、何だそれ。でも良い母親だな」
 部長はそう言って、僕の頭を撫でた。
「それじゃ、観測を開始しようか。目的は、UFOの観測だ!」
「おー!」
 そう言って、僕達はUFOの観測を開始する。
 見つかるかどうか分からないけれど。
 僕達はUFOの観測を――開始する。

   ※

「……うーん、やっぱり見つからないなあ」
「見つからない?」
「というか、映像が映らない。あのじじい、修理してねえんじゃねえか?」
「修理というか、壊れていないって言っていなかったか?」
「言っていたよ。けれど、あれも嘘なんじゃねえか、って思えてしまうよ。ほら、見てみろよ」
 部長が見る。うわ、と声を上げる。
「何というか、これはひどいな」
「どうなっているんですか?」
「砂嵐だよ。砂嵐状態になっているんだ。ひどいったらありゃしない。これで壊れていないと言っている方がおかしな問題だよ。……何で壊れていないなんて言ったんだろうね?」
「知るかよ、俺が知りたいぐらいだ」
「そうだよな。……うーん、これはやっぱりあれじゃないか?」
「あれ、って?」
「もう確実だろ! UFOの電波が、デジタルカメラを破壊しているんだ!」
「…………え?」
 何を言っているのかさっぱり分からなかった。
 正確には、理解するのに時間がかかった、と言えば良いだろうか。
 いずれにせよ、部長が言っている言葉は、とてつもなく変な言葉だった。
「……部長、いったい何を言っているんですか?」
「瑞浪基地から出ている電波が、デジタルカメラを破壊している。或いは妨害している、と考えれば良いのではないか? そうであれば、鎌倉カメラ店で故障が見つからない理由も見えてくるはずだろう」
「いやいや、そんなことって……」
「有り得る! 絶対に、だ! 現に、例えばスマートフォンのカメラを当ててみろ!」
「どれどれ……。おっ、これは……」
 池下さんは持っていたスマートフォンでカメラを起動して瑞浪基地にカメラを向けてみた。
 まさか、部長の言った通り妨害電波が流れているのか……?
「何言っているんだ、野並。やっぱり妨害電波なんて出ちゃいねえよ。ほら、見てみろ」
 スマートフォンの画面を僕達に見せてくれた。
 すると確かにその通り、画面ははっきりと瑞浪基地の上空を捉えていた。
「……あれ? 何で?」
「だから、それはお前の妄想だろ」
 そう言って。
 結局、UFOは観測出来ないまま、今日の集会も終わってしまうのだった。

 

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