観測活動の再開 ⑬
- 2019/06/05 21:10
後日談。
というよりも今回のエピローグ。
「……あずさ、そのペンダント、何?」
「え? これ?」
あずさが首にかけていたペンダントに、僕は夢中になってしまっていた。
そのペンダントは、見たことのないペンダントだった。星を象った、至ってシンプルなものだったけれど、それがどうしても気になってしまうものだった。
「……昔、母さんから貰ったんだ」
あずさの家庭事情を、そういえば、僕は知らない。
おじさん、という話が出てくる限りでは、今は彼女の両親は別居しているのか、或いは死別してしまったのか――答えは見えてこないけれど、それは言わぬが花といったところだろう。
「綺麗なペンダントだね」
「そう? えへへ、ありがとう。いっくん」
「おーい、何話しているんだー。急いで江ノ電に乗るぞー!」
部長の言葉を聞いて。
僕達は大急ぎで江ノ島駅へと入っていく。
ただ、それだけのことだった。
特に何もない、ただそれだけのことだった。
※
結局。
休日を無駄遣いしてしまった結果に終わってしまったUFO観察だったけれど、その後あっさりと終わってしまった。そういうことで夕食の時間には間に合って、家族団らんの時間を得ることが出来た、という訳なのだけれど――。
「来年になったら、お前も高校入学のことを考えなくてはならないんだぞ。いや、もっと言えば今から考えなくてはならないんだ。だのに、お前というやつは宇宙研究部という部活に興じて……」
「何だよ、今の部活動が悪いって言いたいのかよ」
「そういうことじゃない。ただ、宇宙研究部が何をしている部活動なのかさっぱり分からないと言いたい訳だ」
「……UFOの観測とか?」
ぴくり、と。
父さんの眉が動いたような気がした。
それに僕はちょっとだけ驚いてしまった訳だけれど。
「……父さん?」
「ああ、いや、何でもない。UFOの観測か。面白いことをやっているじゃないか。UFOは見えるのか?」
「一度見たよ。瑞浪基地から飛来してくるらしいんだけれど。そのUFOが見えるんだよ。学校か、もしくは江ノ島で」
「……そうか」
父さんは、それ以上何も言わなかった。
何も言いたくなかったのかもしれない。僕にとって、その部活動に居る意味が分からなかったのかもしれない。だとするならば、それがそういう立ち位置になるならば、それもしょうがないことなのかもしれない。けれど、僕にとって、今の部活動に居ることは――。
「……なあ、」
「うん?」
「UFOを見ることが、そんなに楽しいことなのか?」
「……え?」
「UFOを観測することが、そんなに楽しいことなのか、と言っているんだ」
父さんの言葉は、胸にひどく突き刺さった。
何故いきなり父さんがそんなことを言い出したのか、僕には分からない。
けれど、父さんが言いたいことも少しだけ分かるような気がする。
遊べるのは、今だけだ――父さんはそう言いたいのだろう。
二年生になれば具体的に進路のことを考えなくてはならない。そうなったら、僕はどの道に進めば良いのか、具体的に考えなくてはならない。
それについて。
僕は、考えられるのだろうか。
僕は――未来を考えられるのだろうか。
その答えに辿り着くまでは――未だ相当な時間がかかりそうだったけれど。