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クスノキ祭 ①

  • 2019/06/06 19:04

「新聞のネタはどうなった?」
 新聞のネタって何のことだろう――なんて僕は思ったけれど、少ししてそれが文化祭――クスノキ祭――で展示するはずの新聞であるということに気づくまで、そう時間はかからなかった。
「新聞のネタなら、未だ考えついていないですけれど」
「印刷するの、いつだと思っているんだ」
「いつでしたっけ?」
「……えーと、クスノキ祭が二十四日と二十五日だから、二十三日の昼までに印刷機を借りられれば問題ないな」
「借りるんですか? 印刷機を」
「そりゃ学校の新聞部と同じ規模の新聞を印刷するんだぞ。印刷機を借りないと、自分で印刷する羽目になってしまう。それは嫌だろう?」
 確かに。
 それは出来ることならしたくない――そう思った。
「そうだろう、そうだろう。だったらそれまでに書き上げることだな。……と言っても、今日が五日だからあと二週間以上はあるけれどな」
「そういう部長はどうなんですか?」
「……ネタなら出来ている」
 つまり原稿は書けていない、と。
 僕はそんなことを思いながら、原稿のネタを考え始めるのだった。……それにしても、どんなネタを考えれば良いのだろうか? この前あずさには『もう出来ている』なんて強情を張ってしまったけれど、そんなのは嘘であって、実際には未だ一文字も出来上がっていない。というか、そういうものを書くのが初めてなこともあるので、どのように書けばいいのか分からないというのが実情である。誰かに聞いても良いんだけれど、全員が全員忙しいだろうしなあ。だったら、宇宙研究部以外の誰かに聞くしかないのだろうか。
「……あ、」
 そう言えば、居たじゃないか。
 同じクラスの新聞部の部員が居るじゃないか。

   ※

「記事の書き方が知りたい? そりゃまた唐突な言葉だね」
 栄一輝。
 覚えている人も覚えていない人もこの際思い出して貰いたい。かの生徒会選挙の時に、宇宙研究部にわざわざ部長の写真を撮りに来たカメラ小僧である。実は彼と僕は同じクラスな訳であって、だからこんな風に話をすることも出来る訳である。
「……頼む! 宇宙研究部で新聞を作ることになったんだけれど、どう書けば良いのか、さっぱり分からないんだよ」
「そういうのって、部長とか先輩に教えて貰うものじゃないの?」
「そうなんだけれど、部長や先輩も忙しそうでさ。未だ出来上がっていなさそうだし」
「それで、新聞部である僕に聞きたい、と?」
 こくり、と僕は頷く。
「うし、いっくんの頼みだ。断る訳にゃいかないね」
 立ち上がると、彼は僕の方を向いた。
「教えてあげるよ、新聞部直伝の記事の書き方だ。報酬ははずませて貰うぜ?」
「ああ、分かっているよ」
 ……そうして。
 僕は栄くんに、新聞の書き方を教えて貰うことにするのであった。
「新聞の記事ってのは、先ず見出しが七割を占めているって言われているよ」
 歩きながら、僕と栄くんは話を始める。
 ほうほう、見出しが七割を占めている、と。つまり、残りの三割が内容である――ということなのだろうか。
「となると残りの三割は何だ、って話になるけれど、答えは単純明快。内容について、だよ。内容がどういう内容になるのか分からないけれど、見出し程重要ではないけれど、見出しで目を惹きつけておいても内容がゴミだったら話にならない。言っている意味が分かるかな?」
「……ああ、充分分かるよ」
 現に、新聞って見出しで惹きつけていて中身が伴っていないケースが多かったりするしな。僕も新聞を良く読むけれど、それぐらい良く分かる。
「分かるなら、後は充分さ。書いていくには、七割話が分かったと言って貰って良い」
「そんな簡単なのか? 新聞の記事を書くこと、って」
「まさか。一月の記事を書くのに一月以上かかることなんて良くあることだよ。だから、そんな簡単に『記事が書ける』なんて言わない方が良いよ。たとえ、学校新聞の記事だろうとね」
 そんなものだろうか。僕は考える。しかしながら、やっぱり理解出来ない。それがどうであろうと、それが間違っていようと、それが正しいことであろうと、結局は僕の価値観が尺として成り立っているのだから。僕が『簡単そうだ』と言えば、簡単なのだ。未だ一文字も書いたことはないけれど。きっとそれは、初心者特有の『やりやすさ』みたいなものなのかもしれないけれど。

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