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ユーザー「master」の検索結果は以下のとおりです。

孤島の名探偵 ⑨

  • 2019/05/26 14:44

「…………という訳で、最後はアリスな訳だけれど」
「…………そう」
「アリバイを教えて欲しいんだけれど」
「…………アリバイ?」
「アリバイ。いわゆる、存在証明という。何処で何をしていたか、ってことを教えて欲しい訳なんだけれど」
「…………だったら、蔵書室に居たけれど」
「蔵書室か。だったら金山さんも居たんじゃないか?」
「…………居たかもしれない」
 しれない、って。
「ずっと本を読んでいた、ってらしいけれど」
「…………うん」
「何を読んでいたんだい?」
「…………『方法序説』」
 デカルトのかよ。
 何でそんなもの置かれているんだ。
 別荘の持ち主の趣味なんだろうか。
「……他には、どんな本を読んでいたんだ?」
「…………何で、私の読書に興味を持っているの? アリバイとかどうこう言っているのはどうなったの?」
「アリバイのことはとにかく一回棚に上げることにしよう。今は、どんな本を読んでいたのかということについて興味が湧いているんでね」
「…………『ドグラ・マグラ』」
 それ、日本探偵小説三大奇書の一つだよな?
「あと『黒死舘殺人事件』」
 それを二冊も!?
「『虚無への供物』も読もうと思ったんだけれど、時間がなかった」
 なんてこった、三冊全部揃っていやがったのか!
 それにしてもますますこの別荘の持ち主の趣味が分からない。部長の親戚とか言っていたけれど……どういう人間なんだろう?
 いやいや、今はそういう問題じゃない。
 アリバイについて、確認せねば。
「……アリバイについて話を戻そうか。結局、君は本を読んでいた。それで悲鳴を聞いてあの場所に向かった。それで相違ないかい?」
 こくり、と頷くアリス。
 だったら答えは見えてくる。
 信じたくないけれど、信じるしかない。
 何せ――今アリバイが証明出来ないのはただ一人、あずさだけだった。

   ※

「……ありがとうございました、皆さん。おかげでアリバイを確認することが出来ました」
「それで、分かったのかね、犯人は」
 部長は急かすように、僕に問いかける。
「まあまあ、結論は待ってください。先ずは僕が話をしてから、ということで」
「ふむぅ」
「先ず、あずさは自分の部屋に居た、と証言しました。しかし、誰とも一緒に居なかったため、証言は無効になります。何せ証人が居ませんから」
「そんな……」
「続いて、部長ですが、池下さんと一緒にカメラ談義をしていた、と言っていました。池下さんも言っていたのでお互いがお互いに証人になります」
「成程」
「そして金山さんですが、アリスと一緒に蔵書室に居たと言っていました。そして、アリスも同じように言っていました。なのでこちらもお互いがお互いに証人になります」
「では……残されたのは」
「そして最後に、この僕」
 自分を指さして、さらに話を続ける僕。
「僕もまた自分の部屋で眠っていました。悲鳴を聞いて起き上がって食堂に向かったので、こちらも証人は居ません」
 いくら探偵役とはいえ、アリバイを明白にしておかねばならない。
 これは推理物のセオリーだ。
「ならば、証人が居ないのは伏見くんといっくんということになるのか……?」
「そうなります。ですが、僕はやっていない。しかしながら、そう証明出来る証拠がない。続いて、あずさについても証明出来る証拠がない」
「確かに」
「そこで提案なのですが、僕の部屋に僕とあずさを閉じ込めて、残りの全員が部屋の外に出ないように監視するのはどうでしょうか?」
「……いやよ、私は。一緒の部屋に居るなんて。別々の部屋に行くなら良いけれど」
「だったら部屋を交換しませんか? 部長の部屋に僕を、池下さんの部屋にあずさを。ちょうどこのように」
 持っていたノートに、すらすらと書き連ねていく。

 僕 あずさ 金山さん 池下さん アリス 部長 階段

「これなら、監視出来るのではありませんか?」
 僕の言葉に、全員はゆっくりと頷いた。
 こうして。
 僕とあずさを監視するシステムが構築されていくのだった。

 

孤島の名探偵 ⑧

  • 2019/05/26 10:02

 二人目は池下さんだった。
「それじゃ、貴方のアリバイを聞かせて頂けますか?」
「野並に話を聞いたんだろ? だったら、あいつも言ったと思うけれど、カメラ談義をしていたんだよ。朝まで」
「証人は、お互いがお互いを証人としている、といった感じでしょうか」
「ああ、そういうことになるな。……ああ、それと、朝方に桜山さんに会っているよ。掃除をしている、彼女にね」
「……何ですって?」
 そいつは初耳だ。
 部長のアリバイを確認したときには、そんな情報入ってこなかったはずだ。
 確かに、この部屋同士の壁が薄いという訳ではない。だから廊下の声は聞こえなかった、と言われればそれまでだ。
 しかし。
 しかし、だ。
「彼女の様子はどうでしたか?」
 先ずは話を聞かねば話にならない。
 僕は、桜山さんを殺してしまった犯人を突き止めなくてはならない。
「彼女の様子? ……うーん、普通だったような気がするけれど。変な様子は特に見られなかったよ」
「それじゃ、彼女が死んでしまった理由には結びつきそうにないですね……」
「だと思うよ。……実際問題、彼女は普通に過ごしていたと思う。まるで数時間後に殺されるとは思ってもいなかったかのように、気丈に振る舞っていたよ」
「成程……ね。だったら、その話はなかったことにしましょう。あまり関係性のなさそうなことでしょうから。……だとすれば、やっぱり貴方も関係性はないということでしょうね」
「そもそもの問題だが」
 池下さんは僕に質問を投げかける。
「僕が彼女を殺す動機があるのかね?」
「動機?」
「普通に考えてみろ。僕は昨日出会ったばかりなんだぞ。昨日出会ったばかりの人間を殺そうという動機が見えてくる訳があるまい。……そういうことだ。だから、僕は決して人を殺そうなんてことはしない。それは分かっていることだと思うけれどね。まあ、数ヶ月の付き合いだからそれぐらい分からないかもしれないけれど」

   ※

 三人目はあずさだった。
「あずさ、教えてくれ。お前のアリバイを」
「アリバイ、なんて言われるとまるで犯人みたいな言いがかりをつけられているような気分だけれど」
「それは申し訳ないんですけれど、全員に聞いている訳なので。だから、それについては、仕方ないと思ってください」
「全員に? ……まあ、そうでしょうね。誰が殺したか分からない以上、全員に話を聞いた方が都合が良いでしょうね。……ところで、金山さんには話を聞いたの?」
「ああ、未だ聞いてないですね。次に話を聞くことにします。……何せ、一度犯人と疑ったものですから。もしかしたら、犯人じゃないのかもしれない」
「だから除外したって? 探偵役にしちゃあ、頭が悪いんじゃないかな?」
「……そう言われると何も言い様がないですね。だったら、話を続けましょうか。……アリバイを教えてください」
「私は、自分の部屋で眠っていたよ。多分いっくんと同じように、悲鳴で目を覚ましたんじゃないかな。残念ながら、証人は誰一人として居ないよ」
「……だったら、犯人として疑われても仕方ないですよね」
「ちょっと、いっくん」
「うん?」
「私を疑うのは良いけれど、真実だけはきちんと見極めてよね」
 その言葉は、僕の胸にじんと響いた。

   ※

 四人目は、金山さんだった。
「順番を変えたことに、理由はあるの?」
「いや、特にないんですけれどね」
 忘れていた、なんて言ったらなんてことを言われてしまうだろうか。
 あまり言わない方が身のためだろう。
「で? アリバイを教えて欲しい、って話だったよね」
「そうなんですよ。アリバイを教えてください」
「と言ってもなあ、私は朝からずっと蔵書室に居たよ。高畑さんも一緒に居たかな」
「アリスも?」
「そう。だからあの子もそう証言してくれると思うよ。それでコーヒーでも飲みたくなったから、食堂に向かったら……あの様だったって訳さ」
「成る程」
「だから分かりきった話なんじゃないのかな?」
「え?」
「私を犯人に仕立て上げようったって、全ては無駄だって話さ。……まあ、誰がそれを仕立て上げようとしているのかは分からないけれど」
「そんなこと! ……あのときはほんとうに申し訳ないと思っています」
「何。誰だって間違いはあるよ。私も特に怒っちゃいない。……後は誰が残っている?」
「後はアリスだけですね。と言っても彼女とまともに会話をしたことがないのでなんとも大変なことではありますけれど」
「分かるよ。彼女、無口だもんね。ずっと難しい本を読んでいたよ」
「……そうですか」
 僕は、これで四人の証言を聞き回ることが出来た。
 最後の一人、アリスの証言を聞けば、全てが纏まる。
 それで全てがお終いだ。それで全てが終わりだ。
 だから、僕は探偵役に徹するしか道がない。
 そして、僕達から出てくる犯人を出していくしか道はない。
 残り二日、僕達が生き抜くために。

 

孤島の名探偵 ⑦

  • 2019/05/26 09:20

 最初に疑うべしは、第一発見者。
 それが推理物のセオリーとなっている。
「金山さん、先ずは貴方から話を聞かせてください。貴方が見つけた時の状態と、今の状態は一致していますか?」
「あ、ああ。一致している。背中からナイフを突き立てられている状態だ。そして辺りは既に血の海だった。……それ以上でも、それ以下でもない」
 もしその証言が嘘ならば、全てが否定されることとなる。
「嘘ではありませんね?」
「嘘を吐くつもりはない」
 ならば、それに従おうと思った。
 ならば、それが正しいと誓った。
 ならば、それが有り得ると願った。
「ならば、それが正しいのでしょうね」
 僕は言った。
 いわば、名探偵シャーロックホームズの如く。
 いわば、名探偵エルキュールポアロの如く。
 いわば、名探偵明智小五郎の如く。
 それが明晰な回答かどうかは分からない。
 それが正確な回答かどうかは分からない。
 それが確立した回答かどうかは分からない。
 けれども。
 僕の中では、それが正しいと思っていた。
 ならば、それが正しいと認識しているのだというのであれば。
 それが、正しいと思わせているのであれば。
「僕は、信じますよ。貴方の言葉を」
「……そう言って貰えると、大変助かる」
 金山さんはほっとした表情を浮かべて、僕に感謝の気持ちを伝える。
 しかしながら、唯一の手がかりを失った気分だ。
 第一発見者が疑うべき存在でなくなったというのであれば、全員のアリバイを聞かなくてはならない。
 僕を含む、全員の。

   ※

 僕の部屋。
 そこが簡易の取調室となった。
「先ずは、貴方のアリバイを聞かせて貰えますか?」
「……僕のアリバイ、ねえ」
 第一被疑者、部長。正式名称、野並シンジ。
「僕は、蔵書室で本を読んでいたよ。コナン・ドイルの『緋色の研究』。名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないか?」
「……シャーロックホームズの初登場作品でしたね。あまりにも偶然が良すぎるチョイスだとは思いますけれど」
「そうかい?」
「ちなみにその時間は?」
「午後九時ぐらいじゃないかな。君たちと別れて直ぐのことだよ」
「それじゃ、死亡推定時刻とは乖離がありますね。……とは言っても、素人目に見た死亡推定時刻ですけれど。桜山さんが死んだのは、血の量からして恐らく今朝方。では、その時間に部長はいったい何をしていたのですか?」
「カメラ談義をしていたよ。池下と一緒に」
「それは何処で?」
「僕の部屋で、だよ。それを証明出来るのは、池下くんだけだと思うけれどね」
「ならば、池下さんに聞けばそのアリバイを証明出来るということですね?」
「まあ、そういうことになるかな」
「ちなみにカメラ談義をしていたという時間は?」
「午後十一時ぐらいから朝方までだったと思うよ。朝になったから、お互い少しは仮眠程度に眠っておこうという話をしていたところだったのは覚えている」
「それが正しいなら、二人のアリバイは証明出来ますね……。それじゃ、一先ず、部長は退場してください」
「良いのかい?」
「これ以上、聞く必要がありませんから」
「それじゃ、僕から質問させてくれないかな?」
「何でしょう?」
「どうして、君が探偵役に徹しているんだい?」
「……それは、何故でしょうね。『神のみぞ知る』と言ったところじゃないですか? 主人公の特権かもしれませんけれど」
 そう言って、部長は納得したかのように頷くと、そのまま外へ出て行った。

 

孤島の名探偵 ⑥

  • 2019/05/25 23:02

 意外というか、当然というか。
 結局のところ、UFOのゆの字も見えやしなかった。
 僕はずっと望遠鏡で星空を眺めていた。
 時折見やると、部長とあずさが会話をしている。しかし、遠くで話をしているためか、どんな話をしているのかまでは聞こえてこなかった。
 まあ、気にする話でもないだろう、と僕は思った。
「……UFO、結局見つからなかったですね」
「まあ、あと二日ある! その二日で成果があれば良いのだ! あっはっは!」
 いや、笑っている場合ですか?
 UFOの観察、最終的にUFOとはなんたるかを見つけるのが役目だったはずなのに、それが何も成果がないなんてことになったら部費が減少する原因になりかねないだろうか。
 ……なんてことを思ったところで、そういえばこの部活動には生徒会会長と副会長が居るということに気づいて、それは考えるまでもないことだったということに気づかされるのだった。

   ※

「どうして貴方もこの合宿に参加したの?」
「参加しちゃ悪かったかしら。私はこの部活動が危険かどうかを見定めるためにやって来たのだから。貴方だって、いつ戻っても良いように、あちらにも『籍』は残しているはずでしょう?」
「それは、言わない約束だったはずよ。ベータ」
「そうだったわね、アルファ。……でも、貴方、この部活動に気を許しすぎなのではなくて?」
「というと?」
「所詮、我々と彼らは相容れることのない存在であるということ。それを理解しておかねばならないということ。それは貴方だって重々承知のはず」
「分かっている。分かっているわよ……」
「いいや、分かっていない」
 ベータは即座にアルファの行動を否定する。
「貴方は分かっていない。だからあの部活動に馴染んでいる」
「馴染むことも重要な行動の一つよ。そうでなければ、怪しまれることもない」
「だったら良いのだけれど」
「?」
「貴方達がやろうとしていること、それこそが愚問と言っているのよ、アルファ」
 こうして、アルファとベータの会話は終了した。

   ※

 今日はいろんなことがあった気がする。
 ベッドに潜り込みながら、そんなことを考えていた。
 部屋にテレビがなければ、インターネット環境がある訳でもない。だから本でも読もうかと考えていて、持ってきていた『ハーモニー』を読もうと思っていた訳だけれど、それよりも先に睡眠欲がやって来てしまって、結局のところ、眠るしかないという結論に至るのだった。
「この本を読むのは明日以降にすることにしよう……」
 けれど、団体行動で、個人行動である読書に勤しむのもどうかと思う。
 まあ、でも明日だったら結局休まることが出来るはずだ。僕はそんなことを思いながら、目を瞑るのだった。

 だけれど、僕は気づかなかった。
 だけれど、僕は知らなかった。
 だけれど、僕は分からなかった。

 明日起きる、宇宙研究部最大の悲劇に――。
 明日起きてしまう、宇宙研究部と袂を分かつことになりかねない悲劇に――。

 


   ※

 次の日。
「きゃあああああああああああ!!」
 あずさの悲鳴を聞いて目を覚ました僕は、慌てて階下へと降りていく。
 すると、食堂には僕以外の全員が既に集まっており、僕はその違和感に漸く気づくことが出来るのだった。
「……いったい何があったんですか?」
 僕の言葉に、部長が代表して答える。
「……殺されたんだ、桜山さんが」
「……え?」
「だから! 桜山さんが殺されたんだ、と言っているだろう!」
「桜山さんが……? 殺された、ですって……?」
 僕は、漸くその状態を見ることが出来た。
 辺りは血の海になっていた。
 そして、その真ん中にナイフを突き刺された状態の桜山さんが居た。
 既に血の気はない。動かない様子を見て、漸く僕はそれが『死』であると実感した。
「ほんとうに、ほんとうに、死んでいるんですか……?」
「見て分かるだろう。……僕だって、慌てたいところだが、代表者として慌てることは出来ない。それは僕が一番理解している」
「じゃあ、どうするんですか」
「どうするって、どうするんだ」
「犯人は、この中に居るんですよね?」
 僕は、冷静に。
 冷静に、そう問いかけた。
 冷静に出来ているかどうか、分からないけれど。
「……いっくん。流石に冷静過ぎやしない? まるで、一度経験しているかのような」
「そんなことはないよ。……僕だって、足が震えている。動けない。けれど、やるべきことはやるしかない。だって、クルーザーを運転出来る唯一の人間が死んでしまった。つまりそれは、この場所が絶海の孤島であることを意味しているんだから」
 絶海の孤島。
 インターネット環境もなければ、電話環境もない。
 その場所であるからこそ、その場所であるからこそ。
 僕達は、いつかは犯人を捕らえなくてはならないのかもしれない。
 危険性を排除しなければならない。
 こうして始まった、僕達の犯人当てゲーム。
 いや、ゲームというより、現実的なことなのだけれど。
 それが僕達にとってどのようなことを意味しているのかは、今は未だ分からない。
 分かるはずがない。
 分かり合えるはずがない。
 それが、犯人と僕達の価値観の違いなのだから。

 

孤島の名探偵 ⑤

  • 2019/05/25 22:40

 食後にはアイスクリームとアイスコーヒーのサービス付きだった。
 アイスクリームの甘い食感と、アイスコーヒーの苦味が妙にマッチしてなかなかに美味しい。
 というか、ここって、普段使っていない別荘みたいな説明を受けたような気がするんだけれど……。
「ここって、別荘なんですよね。食料ってどうなっているんですか?」
「食料なら、貴方達と一緒に持ち込んだじゃないですか」
 ああ、言われてみれば。大量の段ボールを運ぶように言われたような指示を受けた気がする。それが大量の食料だった、ということか。
「……いやはや美味かった。良かったら、メイドさんもこれから天体観測と洒落込まないかね?」
 言ったのは、部長だった。
 それって場合によってはデートの誘いになるんじゃないか、なんてことを思ったけれど、そんなことを思っているのは僕ぐらいのものだったようで、桜山さんは、
「すいません、明日の仕込みと今日の掃除があるものですから。失礼致します」
 そんなことを言ってさっさと奥に引っ込んでしまった。
 部長は本気でそれを捉えていたらしく、少し落ち込んでいる様子が見て取れるが、そんなことはどうだって良い。
「まあまあ、部長。僕達が居るじゃないですか」
 僕は慰めのつもりで声をかける。
「いっくん……?」
「僕は天体観測、楽しみにしていますよ。UFOが見えるかもしれないですしね」
「いっくん、君はなんてやつだ……!」
 思わず部長が抱きついてきそうになったが、それをすんでのところで避ける。
 いや、そっちの口はないものですから。
「とにかく、天体観測に勤しむことにしましょうよ。元から、僕達はその為にここにやって来たんでしょう?」
 それもそうだな、と部長は言った。
 こうして僕達は、天体観測を始めるに至るのだった。

   ※

 二階のベランダ。
 改めて天体観測が出来る時間になってきた。
 今日は晴天。雲一つない星空が広がっている。
「これならUFOを見つけても直ぐに写真を撮ることが出来るな!」
 部長は腰に手を当ててそう言った。
 さっきの落ち込んだ様子は何処へやら。至っていつもの部長に元通りといった感じだ。
 望遠鏡と望遠カメラ。二台態勢で星空を観察する。
 星空を観察するのは二の次で、第一目標はUFOを観測すること。
 それが出来れば、僕達宇宙研究部としても鼻が高い。
 だから僕達は空を眺めた。
「あれはオリオン座かしら?」
 言ったのはあずさだった。
 望遠鏡を眺めると、真ん中に三つの星が並んでいる星座――オリオン座が目の前に見えていた。
「そうだね、確かにあれはオリオン座だ」
「へえ。やっぱり」
「やっぱり、って何だよ。分かっていたのかよ、オリオン座って」
「そりゃ、それぐらい分かるわよ。理科の授業を受けていれば、それぐらいは」
「……理科の授業で星座って習ったっけ?」
「あれ? 習わない? 私の小学校では習ったけれど」
 僕の小学校では習った記憶がない。
 もしかしたら、先生独自のカリキュラムでも組んでいたのかもしれない。

孤島の名探偵 ④

  • 2019/05/25 19:09

 説明から解放されたから、好きなことをして良いって?
 そんなこと、誰が決めたんだい?
 部長はそんなことを言い出しそうなオーラを放ちながら、僕達を食堂に集めるのだった。
「一応言っておくけれど、今回の合宿はただの遊びじゃないことは君たちも理解していることだろう」
「はあ? ただの遊びじゃないなら、何だというの。私、生徒会の仕事溜め込んでわざわざここまでやって来たんだけれど。だったら私帰るわよ」
「それは出来ません。三日後に貴方達を届けるという約束になっていますから」
「そういう訳だ。……だから、僕達がやることをここで発表しておこうと思う」
「何をするのよ?」
「答えは単純明快。……UFOを観測すること、だっ!!」
「……あんた、まだそんなこと考えていたの?」
「考えていたの? ではない! 実際に我々はUFOを目撃しているのだ、それも二度! そうだな、いっくん!」
 そこで僕に振るか!?
 僕は突っ込みを入れたくなったけれど、でもUFOを見たのは事実だし、うんと頷くことしか出来なかった。
「あっきれた……。あんた、ほんとう昔から変わっていないわよね。UFO関連の番組がやっていたら毎日釘付けになっていたレベルだったし」
「今でも釘付けになっているぞ? 放送回数が減って若干悲しいけれどな!」
 いや、どや顔で言われても困るよ。
 それに対して不満な表情を浮かべている金山さんも金山さんで困るよ。
 というか、何をするのか結局はっきりと見えてこないのだけれど……。
「あ、あの、結局僕達は何をすれば良いんですか……?」
「それは良い質問だな! 僕達がやること、それは天体観測だっ!!」
「……見えない物を見ようとして?」
「望遠鏡を担ぎ込んだ……じゃなくてだな! 冗談抜きで、僕達が行うのは、天体観測だ」
「……ええっ。UFOはどうなるんですか?」
「焦るな、諸君。UFOもちゃんと観測出来るカメラを用意している。天体観測はいわば二の次。この三日月島は名前の通り、三日月が良く見える島として有名な無人島なのだよ。僕の親戚が買い取るまでは観光スポットとしても有名だったらしいがね」
 それって、とどのつまり、金に物を言わせて観光スポットを買いあさったってことか?
 それって何というか、残念な結果しか生み出さないような気がするけれど……。
「という訳で、だ。天体観測をしながら、ついでにUFOも目撃してしまおう! というのが今回の目的だ。二泊三日だから観測出来る機会は二回しかない。その二回でUFOをうまく観測出来るかどうか、それは君たちの運に関わってきているっ!!」
 という訳で。
 天体観測WithUFO観測。
 その火蓋が切って落とされるのだった。

   ※

 二階は、ベランダのようになっている。
 どういう風になっているかというと、説明するのが大変なので、簡単に言ってしまうと、二階の窓側は全て引き戸になっており、そこから外に出ることが出来るようになっているのだ。
 そこに三脚と望遠鏡を持ち込んで、天体観測に浸っている。
 ……と行きたいところだが、この日程では午後六時では未だ夕日が沈みきっていない。
 だから星空を見るなんてことは難しいのだ。
 だから先ずは、食事を取ることになった。
 夕食に集められた面々は、既に配膳されている夕食を見る。
「本日は、給食のようで申し訳ございませんが、皆様の舌に合わせてメニューを選ばせて頂きました」
 ハンバーグに付け合わせの野菜、ポテトサラダにバターライス、コーンスープといった感じだ。確かにファミレスに行けば八百円ぐらいで食べられそうなレシピのような気がするけれど、味はどうなのだろう?
 ハンバーグを一口分切り分けて、口に入れる。
 直ぐに肉汁がしみ出してきて、とても美味い。
 さらにハンバーグにかかっているグレービーソースが食欲をそそっている。これはバターライスも進むって訳だ。
「バターライスはおかわりも出来ますから、事前に言ってくださいね」
 それは助かる。
 何せ中学生という食べ盛りの人間にとって、おかわりが出来る環境というのは大変有難いものなのだ。
 そんなことを思いながら、僕はポテトサラダを食べ始めていく。

 

孤島の名探偵 ③

  • 2019/05/25 16:55

 三日月島には小さな港があった。その港にクルーザーを到着させると、碇を下ろした。
「ここが三日月島か……。それにしても何もない島ですね」
 三日月島の大半を別荘が占めており、小さい公園がある程度だ。
 その三日月島で三日間共に過ごすとは言え、何をすれば良いのだろうか。僕達にはさっぱり分からない。
 それにしても、池下さんが持つ大量の荷物はいったい何だというのだろうか。あまりの量に僕と桜山さんも持つのを手伝わされている訳なのだが、彼はこれが何であるか一切教えてくれやしなかった。教えてくれても良いだろうに、どうして教えてくれないのだろう。
「何もない島だから、僕達の宇宙研究部の活動に最適な場所だって訳さ。貸してくれた親戚には感謝してもし尽くせないよ」
 そう言った部長は、扉を開ける。
 中に入ると、広いホールに僕達を待ち受けていた。
 ホールの右側に案内されると、そこには食堂がある。
「ここは食堂になります。毎日朝・昼・晩の食事はこちらで提供されます。時間になりましたらこちらにお集まりください。時間は、朝の場合は七時、昼の場合は十二時、晩の場合は十八時になります。よろしくお願い致します。それでは、それぞれの部屋についてご案内致します」
 そうして、そこから離れ、階段を登っていく桜山さん。
 僕達もそれを追いかけるように階段を登っていった。
 それからは、それぞれの部屋を案内していった。
 一番右奥が部長、次いで池下さん、金山さん、あずさ、アリス、そして僕。
 順番としては、こんな感じだっただろうか。

 部長 池下さん 金山さん あずさ アリス 僕 階段

 だから、階段に誰かが向かうときは、足音で気づくということだ。流石に誰が降りていくかどうかまでは、実際に目の当たりにしないと分からない訳だけれど。
「では、後は娯楽施設について説明致します。各自荷物を置きましたら、一階にお越しください」
 そう言って、桜山さんはすたすたと下に降りていった。
 僕達はそれぞれの部屋に入って、荷物を置いた。
 部屋の大きさはビジネスホテルのワンルーム程度の大きさ。トイレも風呂も部屋の中に完備されており、廊下を通ると、ベッドがあるというシステムだ。テレビは流石に用意されていなかったし、コンセントも必要最低限しか用意為れていなかった。これじゃスマートフォンは使わない方が良いだろう。そもそも電波が通らないって言うし。
 荷物を置いて、僕は一階に向かった。すると、既に全員が揃っていた。何というか、早い仕事っぷりだと思う。
「遅いぞ、いっくん。部屋で一眠りしていたんじゃないだろうな」
「まさか、そんなことがあるとでも?」
「まあ、いっくんの不祥事は別に良いじゃないですか。取り敢えず、娯楽施設について終えて貰って、ほんとうに解散してしまいましょうよ」
「それもそうだな」
 そういうことで。
 再び桜山さんによる三日月島別荘の説明の再開だ。
 食堂と逆の通路を歩くと、蔵書室に到着した。蔵書がたくさん用意為れており、埃も被っていない。常に掃除をしているのだろう。というか、誰が掃除しているのだろう、この部屋を?
「……蔵書室は自由に使って良いの?」
 言ったのは、アリスだった。
「ええ。大丈夫ですよ!」
 桜山さんは直ぐに頷いた。
 考えたら、アリスは良く参加してくれたものだと思う。
 だって、生徒会選挙すらボイコットした人間だぞ? そんな人間が、部活動の合宿に参加してくれるのか、と言われるとまた微妙なところだと思ったからだ。
 ほんとうに全員が集まるのか――なんてことを考えていたら、桜山さんが僕達の前に立った。
「さて! これで説明は以上になります。何か質問はありますか?」
「特になし」
 部長の言った言葉が総意になった。
 そうして僕達は、説明から漸く解放される形になるのだった。

 

孤島の名探偵 ②

  • 2019/05/25 14:50


 七月二十八日。
 横須賀のとある漁港に、僕達はやって来ていた。
「……ここから出発するの?」
 あずさの言葉に、頷く部長。
 部長はアロハシャツにスーツケースといういかにも旅行に旅立ちますといったスタイルの格好だった訳だが、それ以上に、そのスタイルが、あまりにも格好が悪い。無愛想な格好に、アロハシャツという温厚なスタイル。はっきり言って、似合わない。
「……今、僕の服のこと、似合わないと思っただろう?」
「い、いや! 何でもないですよ」
 部長には超能力でも身についているのだろうか。
 いやいや、そんな訳があるまい。科学技術の文明において、超能力や魔法なんてものが蔓延る訳があるまい。だから、そんなことは有り得ない。
「まあ、良い。とにかく、僕達はこれからチャーターされたクルーザーに乗り込んで、三日月島へ向かう。ルートは、問題ない。何せクルーザー運転免許を持つメイドがいるからな。名前は桜山杏奈。まあ、直ぐに出会うことが出来るからそこについては省略させて貰うとするか」
「私がぁ、桜山杏奈でぇす」
 気の抜けた挨拶だった。
 気づけば部長の隣に立っているのは、部長よりも頭二つ分小さいメイドだった。
 メイドというよりかは、メイドのコスプレをした中学生みたいな風貌だったけれど。
「……ほんとうに、クルーザー免許を持っているの?」
「私ぃ、これでもぉ、二十歳なんですよぉ。この年齢で、クルーザーを運転出来る免許を持っていることってぇ、とっても珍しいことなんですけれどぉ、私にしてみればぁ、お茶の子さいさい的なぁ?」
「お茶の子さいさいって、今日日言わない台詞だよな……」
「あれぇ? そうですかぁ? まあ、良いじゃないですかぁ。私としては、今回のメイドとしての立ち回りを担当させて貰っているだけに過ぎないのでぇ。専属メイドと言って貰って全然問題ないですよぉ」
 気の抜けた言葉遣いを、先ずはどうにかして欲しいと思ったが、それ以上言ったところで何か解決するとも思えなかった。
 だから、結局のところ、問題と言えることと言うのは。
 実際に、そのメイドがメイドとして使えるかどうかって話。
 メイドがメイドたる由縁として、メイドがメイドである意味として。
 メイドがメイドであるならば、メイドをメイドとして使うのが当然の意味を成してくる。
 意味があるかないかと言われれば。
 ないと言われればないと言われるかもしれない。
 あると言われればあると言われるかもしれない。
 結局は重ね合わせの理。
 シュレーディンガーの猫といったところだ。
「……これからぁ、向かうことになるんですけれどぉ、ほんとうに良いですかぁ?」
「え?」
「何せ私達が向かう場所はぁ、電波が届かない場所であってぇ、携帯電話も通用しない場所なんですよぉ」
「そんな場所に連れて行くんですか!? 今から僕達を!?」
「監禁じゃないんだから、未だマシだろ? あはは!」
 あはは! じゃないですよ!
 笑っている場合じゃないですよ! って昔そんなテレビ番組があったような、なかったような?
「まあ、そういう訳で、結局、僕達は進む訳だ! 前に、前に、前に!」
「でもやっぱり心配なところがあるというか……」
「ポッと出のキャラクターに、操縦を任せるのがそれだけ大変なことですかぁ?」
「いや、そういう訳じゃないけれど!」
 ポッと出って言うな、ポッと出って!
 僕達はクルーザーに乗り込んでいく。荷物を安全な場所に仕舞い込んで、僕達は海の見える場所に移動した。
「全員乗り込みましたねぇ? それじゃ、出発しますよぉ」
 そう言って。
 彼女はクルーザーを動かし始める。
 ってか、ほんとうにクルーザーを動かせる技術を持っているなんて。
 はっきり言う。疑ってごめんなさい。
 そうして僕達は――絶海の孤島、三日月島へと向かうのだった。

 

孤島の名探偵 ①

  • 2019/05/25 14:14

 始まりは至ってシンプルなことだった。
「我が宇宙研究部は夏休みに合宿を行う!」
 夏休み一日目。
 特に目的もなく、学校にやって来ていた僕達を待ち構えていた部長はそんなことを言い出したのだ。
 そもそも、何故学校にやって来ていたのか、ということについてだけれど、前日に「明日は学校に来るように」などと言われていたためで、こんな部活動にも夏休みの登校義務があるのかなどとうだつの上がらない表情を浮かべていたところだった訳だが。
「……合宿と言っても具体的にどのようなことをするんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! 部活動の合宿といえば、強化合宿のようなものを思い浮かべているかもしれないが、そのようなものを思い浮かべてくれると大変有難い!」
 いや、意味が分からないのだが。
 そもそも、宇宙研究部の強化合宿って、何を強化するんだ?
「我々の目的は何だね、いっくん?」
「ゆ、UFOを見つけること、でしたっけ……?」
「違う! UFOの正体を突き止めること、だ!」
 そういえばそうだった。
 それにしても、UFOに関係すると思われる二人の目の前でそんなこと大々的に宣言して良いものだろうか。僕には分からない。
「……それと、合宿と、どんな関係性が?」
「三日月島という島を聞いたことがあるかね? まあ、聞いたことがなくて当然なのだけれど」
 だったら質問するなよ。
 僕は突っ込みたくなったけれど、それ以上言わないでおいた。
「三日月島には、僕の親戚が持っている別荘があってね、そこを借りることが出来たんだ。そこからなら、なんと星々が綺麗に見ることが出来るという! もしかしたら、UFOも見ることが出来るかもしれない。そう思って、そこに向かうプランを組んだ訳だが……」
「誰も行く人が居ないから、私達を誘うって魂胆?」
 言ってきたのは、すっかりこの部活動の正規メンバーとなった金山さんだった。
「なっ!? そ、そんな訳が……ない訳ではない」
 ないのかよ。
「……とにかく! 行くのは無料だ。そして行くのも君達のスケジュール次第だ。出発は七月二十八日から三日間! それなら君達のスケジュールにも余裕のあるように、ということで組んだつもりだ。もし行けるという人が居るなら、明後日辺りまでに僕に連絡するように。以上、解散!」

   ※

 解散、と言われても。
 それだけで帰る訳にもいかないので、図書室の本でも読んで時間を潰すことにした。
 弁当も貰っているから簡単に帰る訳にもいかない、というのが本音だけれど。
 そういう訳で今日も読書タイム。今日は『虐殺器官』だ。それにしても新しいSFの本も置いてあるとは(刊行は十年以上昔だけれど)思いもしなかった。この図書館、ラインナップが侮れない。
「ね、ねえ。いっくん」
 そんな僕に遠慮してか、若干声のトーンを落として語りかけてきたのは、あずさだった。
「何だい、あずさ。いったい全体、どうしたっていうのさ」
「い、いや! いっくんはこの旅に出るのかなあ、って思って」
「旅? ……ああ、強化合宿のことか。僕は行くよ。親の許可を貰わないとだけれど……生憎我が家はそういうことには寛容だし」
 寛容というか、貧乏暇なし。
 とどのつまり、休みがないといったところか。
 だったら何日かでも僕が家を空けておいた方が都合が良い、って訳。
「そ、そうなんだあ……。私も親の許可を貰えると思うから行くつもりなんだけれどね」
「そうなんだ?」
 あずさの親。
 興味があるけれど、会ってみたことはなかった。
 というか、会う機会すら与えられなかったような。
「強化合宿って何するんだろうね? 何だか気になって夜しか眠れなくなれそうだよ」
 それは充分眠れている、っていうんじゃないか?
 僕はそんなことを思ったけれど、それ以上は何も言わないでおいた。

 

生徒会選挙 ⑫

  • 2019/05/24 23:04

「今の言葉を聞いて、笑った人間はどれだけ居るでしょうか。笑ってしまう人間がどれくらい居るでしょうか。答えは分かりません。けれど、彼らはその部活動の真意を分かっていないから、そういう風に笑えるのだと思います」
 さらに、深呼吸一つ。
「問題はそこです。部活動のことは知っていても、その深部まで知ることはない。それを僕はなくしたい。部活動によって生まれる垣根をできる限り小さいものにしたいと考えています。もし、このことに賛同出来る方は、是非野並シンジに投票をお願い致します」
 そう言って、頭を下げる部長。
 最後に、池下さんがマイクを取る。
「推薦人の池下です。こいつ……あー、いや、彼とは同じ部活動です。とても真面目な人間です。人柄だけは良い人間だと思っています。そして、今彼が言ったことは実際にやってくれると思っています。ですから、是非投票お願いします。以上です」
 至って真面目なことだった。
 真面目なことを真面目な人間がやって真面目に終わらせただけだった。
 そうして二人は壇上から降りる。拍手を受けて。喝采だった。

   ※

 それから。
 二人目である金山さんの演説が行われた。推薦人は会計を務める小田井さんだった。
 金山さんの演説は至ってシンプルなもので、生徒会のオープン化と、生徒の学習制度の充実を図るものだった。しかしながら、どちらかといえばその制度の充実とオープン化は、学校側に訴えなければ意味のないことであり、簡単には解決出来そうにないものだった。
 ただ、部長の言ったことも何もなしに実現出来るのかと言われるとそれはそれで困る話だけれど。
 要するに、二人の意見は、どちらも学校側の協力が必要。
 そしてそれを誰が行えるか、という問題に限ったことだった。
 投票は一週間後。
 定期試験が終わって、夏休みまであと少し、という期間でのことだった。

   ※

 これから先はエピローグ。
 というよりもただの後日談。
 結局、投票により勝者は部長となることが決まった。
 ……ややこしいので、ここは名前で言った方が良いだろう。勝者は、野並さんに決まった。
 そして、金山さんは再び副会長に就任。そして前々から言っていたとおり、部長は会長になったけれど、その仕事を殆ど全て押しつける(全て押しつけると、それはそれで会長の座が危ういらしいので、一部の業務は自分がやることにしたらしい)結果となった。
「ま、宇宙研究部の活動には差し障りのないようにするつもりだから、問題ないよ」
 そう言ってくれるなら、それはそれで有難い話だと思った。
 え? 話を流したけれど、試験の件はどうなったのか、って?
 それは言わぬが花、と言ったものだろう?
 僕はそう言って逃げることにするのだった。

   ※

 会長が野並さんになって、また変わったことがあった。
 それは、定期的に金山さんが宇宙研究部にやってくるようになったことだ。
 金山さんは部活動には入っておらず(生徒会に入っている場合は、部活動に入っていなくても問題ないらしい)、実質宇宙研究部に入部したことになるらしい。というか、そういう契約を交わしていたらしいのだ。いつの間に。部長も抜けがない性格の持ち主だと思う。
 そういう訳で、この部活動も部員が増えてきた。
 あっという間に、夏が始まり、夏休みがやって来る。
 僕がこの中学校で迎える、初めての夏休みがやって来る。

 

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