孤島の名探偵 ①
- 2019/05/25 14:14
始まりは至ってシンプルなことだった。
「我が宇宙研究部は夏休みに合宿を行う!」
夏休み一日目。
特に目的もなく、学校にやって来ていた僕達を待ち構えていた部長はそんなことを言い出したのだ。
そもそも、何故学校にやって来ていたのか、ということについてだけれど、前日に「明日は学校に来るように」などと言われていたためで、こんな部活動にも夏休みの登校義務があるのかなどとうだつの上がらない表情を浮かべていたところだった訳だが。
「……合宿と言っても具体的にどのようなことをするんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! 部活動の合宿といえば、強化合宿のようなものを思い浮かべているかもしれないが、そのようなものを思い浮かべてくれると大変有難い!」
いや、意味が分からないのだが。
そもそも、宇宙研究部の強化合宿って、何を強化するんだ?
「我々の目的は何だね、いっくん?」
「ゆ、UFOを見つけること、でしたっけ……?」
「違う! UFOの正体を突き止めること、だ!」
そういえばそうだった。
それにしても、UFOに関係すると思われる二人の目の前でそんなこと大々的に宣言して良いものだろうか。僕には分からない。
「……それと、合宿と、どんな関係性が?」
「三日月島という島を聞いたことがあるかね? まあ、聞いたことがなくて当然なのだけれど」
だったら質問するなよ。
僕は突っ込みたくなったけれど、それ以上言わないでおいた。
「三日月島には、僕の親戚が持っている別荘があってね、そこを借りることが出来たんだ。そこからなら、なんと星々が綺麗に見ることが出来るという! もしかしたら、UFOも見ることが出来るかもしれない。そう思って、そこに向かうプランを組んだ訳だが……」
「誰も行く人が居ないから、私達を誘うって魂胆?」
言ってきたのは、すっかりこの部活動の正規メンバーとなった金山さんだった。
「なっ!? そ、そんな訳が……ない訳ではない」
ないのかよ。
「……とにかく! 行くのは無料だ。そして行くのも君達のスケジュール次第だ。出発は七月二十八日から三日間! それなら君達のスケジュールにも余裕のあるように、ということで組んだつもりだ。もし行けるという人が居るなら、明後日辺りまでに僕に連絡するように。以上、解散!」
※
解散、と言われても。
それだけで帰る訳にもいかないので、図書室の本でも読んで時間を潰すことにした。
弁当も貰っているから簡単に帰る訳にもいかない、というのが本音だけれど。
そういう訳で今日も読書タイム。今日は『虐殺器官』だ。それにしても新しいSFの本も置いてあるとは(刊行は十年以上昔だけれど)思いもしなかった。この図書館、ラインナップが侮れない。
「ね、ねえ。いっくん」
そんな僕に遠慮してか、若干声のトーンを落として語りかけてきたのは、あずさだった。
「何だい、あずさ。いったい全体、どうしたっていうのさ」
「い、いや! いっくんはこの旅に出るのかなあ、って思って」
「旅? ……ああ、強化合宿のことか。僕は行くよ。親の許可を貰わないとだけれど……生憎我が家はそういうことには寛容だし」
寛容というか、貧乏暇なし。
とどのつまり、休みがないといったところか。
だったら何日かでも僕が家を空けておいた方が都合が良い、って訳。
「そ、そうなんだあ……。私も親の許可を貰えると思うから行くつもりなんだけれどね」
「そうなんだ?」
あずさの親。
興味があるけれど、会ってみたことはなかった。
というか、会う機会すら与えられなかったような。
「強化合宿って何するんだろうね? 何だか気になって夜しか眠れなくなれそうだよ」
それは充分眠れている、っていうんじゃないか?
僕はそんなことを思ったけれど、それ以上は何も言わないでおいた。