孤島の名探偵 ②
- 2019/05/25 14:50
七月二十八日。
横須賀のとある漁港に、僕達はやって来ていた。
「……ここから出発するの?」
あずさの言葉に、頷く部長。
部長はアロハシャツにスーツケースといういかにも旅行に旅立ちますといったスタイルの格好だった訳だが、それ以上に、そのスタイルが、あまりにも格好が悪い。無愛想な格好に、アロハシャツという温厚なスタイル。はっきり言って、似合わない。
「……今、僕の服のこと、似合わないと思っただろう?」
「い、いや! 何でもないですよ」
部長には超能力でも身についているのだろうか。
いやいや、そんな訳があるまい。科学技術の文明において、超能力や魔法なんてものが蔓延る訳があるまい。だから、そんなことは有り得ない。
「まあ、良い。とにかく、僕達はこれからチャーターされたクルーザーに乗り込んで、三日月島へ向かう。ルートは、問題ない。何せクルーザー運転免許を持つメイドがいるからな。名前は桜山杏奈。まあ、直ぐに出会うことが出来るからそこについては省略させて貰うとするか」
「私がぁ、桜山杏奈でぇす」
気の抜けた挨拶だった。
気づけば部長の隣に立っているのは、部長よりも頭二つ分小さいメイドだった。
メイドというよりかは、メイドのコスプレをした中学生みたいな風貌だったけれど。
「……ほんとうに、クルーザー免許を持っているの?」
「私ぃ、これでもぉ、二十歳なんですよぉ。この年齢で、クルーザーを運転出来る免許を持っていることってぇ、とっても珍しいことなんですけれどぉ、私にしてみればぁ、お茶の子さいさい的なぁ?」
「お茶の子さいさいって、今日日言わない台詞だよな……」
「あれぇ? そうですかぁ? まあ、良いじゃないですかぁ。私としては、今回のメイドとしての立ち回りを担当させて貰っているだけに過ぎないのでぇ。専属メイドと言って貰って全然問題ないですよぉ」
気の抜けた言葉遣いを、先ずはどうにかして欲しいと思ったが、それ以上言ったところで何か解決するとも思えなかった。
だから、結局のところ、問題と言えることと言うのは。
実際に、そのメイドがメイドとして使えるかどうかって話。
メイドがメイドたる由縁として、メイドがメイドである意味として。
メイドがメイドであるならば、メイドをメイドとして使うのが当然の意味を成してくる。
意味があるかないかと言われれば。
ないと言われればないと言われるかもしれない。
あると言われればあると言われるかもしれない。
結局は重ね合わせの理。
シュレーディンガーの猫といったところだ。
「……これからぁ、向かうことになるんですけれどぉ、ほんとうに良いですかぁ?」
「え?」
「何せ私達が向かう場所はぁ、電波が届かない場所であってぇ、携帯電話も通用しない場所なんですよぉ」
「そんな場所に連れて行くんですか!? 今から僕達を!?」
「監禁じゃないんだから、未だマシだろ? あはは!」
あはは! じゃないですよ!
笑っている場合じゃないですよ! って昔そんなテレビ番組があったような、なかったような?
「まあ、そういう訳で、結局、僕達は進む訳だ! 前に、前に、前に!」
「でもやっぱり心配なところがあるというか……」
「ポッと出のキャラクターに、操縦を任せるのがそれだけ大変なことですかぁ?」
「いや、そういう訳じゃないけれど!」
ポッと出って言うな、ポッと出って!
僕達はクルーザーに乗り込んでいく。荷物を安全な場所に仕舞い込んで、僕達は海の見える場所に移動した。
「全員乗り込みましたねぇ? それじゃ、出発しますよぉ」
そう言って。
彼女はクルーザーを動かし始める。
ってか、ほんとうにクルーザーを動かせる技術を持っているなんて。
はっきり言う。疑ってごめんなさい。
そうして僕達は――絶海の孤島、三日月島へと向かうのだった。