殺人鬼、御園芽衣子 ②
- 2019/05/27 09:43
天体観測は空振りに終わった。
いつも通り片付けを終えると時刻は午後八時。夕食として用意しておいた弁当はすっかり食べきっていたが、未だ若干お腹が空いていた。だからファミレスで談笑しながら、軽く食事を取っていたのだった。
「そういえば、最近、殺人鬼が出るらしいのだが……」
「ああ。それ、聞いたことあります。何でも江ノ島を中心に何人も人を殺しているんだとか」
少なくとも食事中にする会話ではない。
そんなことは百も承知だった。
「……具体的にはどういうやり方で人を殺すんだろうな?」
「うわ、それ話広げる必要あります?」
ハンバーグを切りながら呟くあずさ。
「あるかないかと言われたら、ないのかもしれないけれど。だが、興味はあるだろ?」
「確かに興味はありますけれど……。でも、今の報道体制じゃ、まともな報道はされやしませんよ? 何せプライバシーの保護だとか、苦情への配慮だとか、そういう理由で」
「だろうなあ。今はちょっとグロい画像を載せただけで苦情が来るレベルなんだから、それについては致し方ないと言えばそれまでなのかもしれない。でも、やっぱり気になるものは気になるものだぜ? いったい全体、どういう風に殺されたのか、って」
「かなり昔だけれど、そういうのを参考にして殺人事件が起きたって言われているから、その配慮もあるんじゃないですか?」
「そりゃいつの話だ?」
「分かりませんけれど……」
「ほれ見たことか。分からないと来た。だったら分からないなら分からないなりに話を聞いていれば良いんだよ。変な風に話を盛り上げようとしなくたって良い。今やるべきことは何だ? 挙げてみろ」
「天体観測をして、序でにUFOを見つけること、ですよね」
「そうだ。だが、その殺人鬼にも興味が湧いた」
「まさか殺人鬼と邂逅しようとでも言うんじゃないでしょうね!? 駄目よ、絶対に駄目!! 貴方達普通の人間とは絶対に違う頭の仕組みをしているんだから、会話が通用するかどうかも分かったものじゃないし、それに、そうだからこそ何人もの人間が死んでいる! だったら、貴方達に会わせる理由がある訳がないじゃない!」
「まあまあ、桜山さん。そこで大声を出しても困るものがあるぜ?」
「大声を出したくなる気持ちも分かってください! こちとら学校に居る間は、貴方達の保護者として活動しなくちゃいけないんですよ!」
まあ、桜山さんが慌てているのも致し方ないことか。
出来ることなら危険には巡り合わせたくないだろうし。
そんなことを考えていると、ハンバーグはすっかり腹の中に収まってしまった。
「うう、お腹いっぱい」
言い終わったのは、アリスだった。
アリスがそういう感情を示すのは珍しい。
そんなことを思いながら、僕はドリンクバーから注いだオレンジジュースを飲み干した。