殺人鬼、御園芽衣子 ①
- 2019/05/27 09:25
殺人鬼。
文字通り、人を殺す鬼。
そういう人間の価値観など、どのように分かるのだろうか。
いいや、分かるはずがない。
一般市民の価値観と、殺人鬼の価値観はそれぞれ違うものだから。
それだけではなく、一般市民だけでも一人一人価値観が違うというのに、特殊な人間の中でも価値観が違わないという証拠が何処にあるのだろうか。
ないと言えば嘘になる。あると言っても嘘になる。
答えは誰にも分からない。
きっと出会ったところで、分かり合えるはずがない。
きっと出会ったところで、思い合えるはずがない。
きっと出会ったところで、理解し合えるはずがない。
それが当然であり、それが十全であり、それが当たり前だった。
だけれど、出会うまでは気づかなかった。
殺人鬼も僕達も――結局ただの人間だっていうことに。
※
「殺人鬼が出る?」
八月中旬。
桜山さんと天体観測の準備をしていると、そんな話を聞くのだった。
「そうそう。何でも、この江ノ島周辺を狙っている、殺人鬼が居るらしいんだよ。……結構残虐な手段で殺すらしいんだよ? しかも狙っているのは、男女問わず! 年齢も問わず! バイトならなんて好待遇だって思うけれど、残念ながらバイトではないからね……」
バイト感覚で殺人鬼のことを語るのもどうかと思いますが。
僕はそう思ったけれど、それ以上は言わないことにしておいた。
「それにしても、今日は部長や池下さんが手伝ってはくれないんですね……!」
「二年生はそろそろ進路を考える時期だからねえ。……未だ早い方だとは思うけれど」
「早い方なんですか?」
「高校ならまだしも、中学だったら三年生になってからでも決められるしね。……大方、進学校に進むのかもしれないけれどね。彼らの実力ならそれも充分に可能な実力さ」
「そうなんですね……。でも、実際問題、夏休みの宿題も未だ終わっていないような状況なのに、僕達部活動ばかり続けていて良いんでしょうか……」
「八月中旬でしょう? なら未だ間に合うわよ」
先生が言って良い台詞か? それ。
「ま、とにかく準備を進めておきましょう。今日も彼らは来るって言っているんでしょう? だったら何の問題もないわよ。慌てる心配もなし。だったらいつも通りの部活動を送ってあげましょう。それが一番彼らにとってベストな選択になり得るのだから」
「そんなものでしょうか……」
「そんなものよ」
そう言って、僕と桜山さん(本来ならば、桜山先生と呼ぶべきところではあるのだけれど、何だろう、この前の『事件』があったからか、先生と呼ぶのはちょっと固い考えに至ってしまう節がある)は天体観測の準備へと取りかかるのだった。