エントリー

孤島の名探偵 ⑫

  • 2019/05/26 18:56

 昔から、僕の周りでは不思議なことが良く起こると言われていた。
 小学校の頃は、常に行楽のときは雨が降っていた。
 小学校の頃は、運動会は常に雨が降っていた。
 僕が関係する行事になると、結局何らかの影響で中止になった。
 それが、僕のせいなのか、僕にまつわる何かのせいなのかは分からない。
 分からないけれど、子供というのは無慈悲に傷つけることが出来る存在である。
 気づけば、僕という存在は、傷つけられて当然みたいな感じに収まっていた。
 先生もそれを止めなかった。
 家族もそれを止められなかった。
 だから僕は不登校になった。
 それが何のためなのかは分からない。
 それがどうして起きるのかは分からない。
 けれど――だけれど、僕は、悪いことを呼び寄せるんだって。そういう星の下に生まれたんだって、言われてしまえば、それまでのことなのかもしれないけれど。
 けれど――、不思議なことが起こるのは、ずっと昔からのことだった。
 中学に入って、転校が決まった。
 父は料理人だった。料理人ということは寮とか、食堂とかに専属で入ることになる。
 そして、父の所属先は――瑞浪基地だった。
 瑞浪基地。
 UFOの噂が絶えない、謎の自衛隊基地。
 その自衛隊基地と縁があるというのは、やはり僕の課せられた運命なのだろうか。
 それは分からない。
 語り手が、信頼できない語り手になってしまうのは、セオリーとして失敗だ。
 だとしたら、物語が変な方向に進んでしまう。
 それだけは避けなくてはならないと思った。
 それだけは避けるべきであると思った。
 それだけは避けていかねばならないと思った。
 であるならば。
 僕は岐路に立つ。
 このまま、無視されて生きていくべきか。
 その星の下に生まれたことを受け入れるか。
 そんなことを考えている矢先に――あずさに出会った。
 彼女は宇宙研究部に入ろうと僕を呼んだ。
 僕の過去を知らない、唯一の人間が、僕のことを、受け入れてくれた。
 それが僕にとって、どれだけ嬉しかったか。
 それが僕にとって、どれだけ喜ばしかったか。
 それが僕にとって、どれほどの喜劇だったか。
「……ふうん、成程ね」
 僕の空間は破壊される。
 ヒビが入り、破滅していく。
 その先に広がっているのは――無。
 紛れもない――無。
 落ちていく。永遠に落ちていく。
 その先に何が広がっているのかは――誰にも分からない。

   ※

 気づけば。
 僕は池下さんに今までのことを吐露していた。
 僕は池下さんに心を許してしまっていた。
 探偵が犯人に心を許すなんて、ミステリーの中では御法度と言ってもいいぐらいだったのに。
「でも、それはきっと偶然だよ。君が、そう『思い込みが過ぎる』だけに過ぎない。相手もそうだ。そういう風に『思い込んだ』だけだ。俺達がUFOを見つけたのも、偶然だ。君が居たからじゃない。そもそも、あの瑞浪基地は昔からUFOの飛び交う噂が絶えなかった。ただそれだけの話だ。UFOについて、君が考えるべき話題ではない。UFOについて、君が考えるべき話ではない。一は全、全は一。全ては巡り巡ってくるものなのだから」
「……そうでしょうか」
「そうだよ」
 池下さんは立ち上がる。
「…………話を聞けて良かったよ、探偵役としては随分と立派なことだったんじゃないかな。俺達もこの『名演技』を見られて良かったと思っているよ。なあ、そうだろう? みんな」
「……は?」
 そう言って。
 入ってきた人間の顔を見て、僕は面食らった。
 だって入ってきた人間は部長、金山さん、アリスに――あずさと桜山さんまで居たのだから。
「な、なんで……。二人は死んだはずじゃ……」
 まるで殺し損なった犯人のような台詞を吐いてしまう僕。
「どういうことなんだ? 僕は、僕達は、確かに彼女達が死んだのを目の当たりにしたはずだ! だのに、どうして! どうして、君達は生きているんだ? いや、生きていて悪い訳じゃないけれど……。全然理解できない! 理解できるはずがない! ちょっと待ってくれ、頭を整理させてくれ……」
「いいよ、整理する時間はたくさん与えようじゃないか」
 言ったのは部長だった。部長は優しい表情で僕を見つめていた。
 全然理解できない。
 いったい全体、どういうことだって言うんだ?
 この事件――まさか。
「まさか――この事件は『狂言』だったっていうんですか?」
 その問いに、部長はゆっくりと頷いた。

 

ページ移動

ユーティリティ

2024年05月

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

カテゴリー

  • カテゴリーが登録されていません。

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ページ

  • ページが登録されていません。

ユーザー

新着エントリー

過去ログ

Feed