孤島の名探偵 ⑪
- 2019/05/26 18:38
これからは解決編。
至ってシンプルな物語であろうとも、推理物ならばいつか解決編はやらなくてはならない。解決編のない推理物など、セオリーに違反するからね。
だから、この物語はいずれ終わる。
やがて、この物語は終わりを迎える。
けれど、この物語の終わりを聞いたとき、心底悲しむかもしれないけれど、それはそれで、受け入れて貰うのがセオリーってものだと思う。
セオリーセオリー五月蠅いって?
仕方ないだろ。それも語り手のセオリーだ。
さあ、これからが解決編。
最後までこの物語を――見送って欲しい。
※
「池下さん」
池下さんは、意外にも素直に僕の言葉を受け入れてくれた。
というか、そんなことよりも、と言いたげな表情を浮かべていた。
何が言いたいのかさっぱり分からなかったけれど、何をしたかったのかさっぱりと分からなかったけれど、いずれにせよ、今回の事件の犯人と向かい合っているのだ。今は神経を研ぎ澄ませなくてはならない。人間と人間同士の戦いであり、犯人と探偵の戦いだ。
フーダニットは既に終わっている。
今は何故やったのか、ということについて質問する番だ。
「先輩。フーダニットは既に終わっているんですよ」
僕は、思っていることを、繰り返す。
ふふっと笑ったような気がした。
「今は、ワイダニットに関する時間だ、と言いたいのか?」
フーダニットとワイダニット。
どれもミステリーに関する用語であり、ミステリーに関する単語であり、ミステリーに使われる手法である。
「そうです。先輩」
「お前が俺のことを先輩と呼ぶのも、初めてのような気がするな」
そうだろうか。
言われてみれば、確かに普段はさん付けで呼んでいるような気がする。
それが僕のセオリー。
それが僕の考え。
それが僕の持論。
「……先輩と呼ぶことに抵抗でもあった、とか?」
「今は僕の過去を語る場面ではありませんよ、先輩。今は貴方が語る場面なんです」
「果たしてどうかな?」
先輩はこのような不利な状況においても、なおも自分目線で立とうとする。
それを、なんとかして僕の目線に持ち込んでいく。
そのためにも、先ずは話を進めていかねばなるまい。
「君の過去についても、少しは触れても良い機会じゃないかな、と思うんだよ。なぜこのタイミングで転校してきたのか。それはほんとうに転校なのか、果たして転校と言えるものなのか?」
「……何が言いたいんですか、先輩」
「とどのつまり、だよ」
先輩――ああ、もうややこしい――池下さんは話を続ける。
「君の存在は、UFOを呼び寄せるんじゃないか、ってこと。不思議なことを呼び寄せる中心にあるんじゃないか、ってこと。それを、俺は、君に問いたいんだ」