孤島の名探偵 ⑩
- 2019/05/26 14:59
その日の夕食は、備蓄食料を使って調理された。
というか正確には昼食からそうだったのだけれど、料理が出来る金山さんとアリスが(アリス、料理が出来るのが意外である)料理をしてくれた。缶詰主体の料理だったが、案外楽しめるものだった。
しかし、会話はゼロだった。
当然と言えば当然だろう。殺人犯がこの中に隠れていると分かっていれば、会話が弾む訳もない。
会話はゼロのまま食事は終わり、そのまま部屋に戻っていった。
部屋に入ると、寝るしかなかった。
けれど、寝付けなかったから、何とか頼んで入れて貰った『ハーモニー』を読み進めることにした。
途中まで読み進めた辺りで、漸く眠気がやって来た。
ああ、やっと眠ることが出来る。
そう思って、僕は眠りに就いた。
出来ることなら、明日は何も起きませんように。
※
しかし、僕のそんな願いは、無残にも打ち砕かれることになるのだった。
「うわああああああっ!!」
部長の叫び声を聞いて、僕は部屋を出る。
見ると、部長があずさの部屋の前でひっくり返っている。
「どうしたんですか、部長!」
「ふっ……、ふっ……、ふっ……、伏見……さんが……!」
部屋の中を見ると、あずさが部屋の中で血の海の中に倒れていた。
背中にナイフを突き刺された状態になっている彼女は、もはや血の気がないように見受けられた。
そして、同時に。
それが連続殺人事件であることを象徴付けられてしまうのだった。
※
「まさか、あずささんまでも死んでしまうなんて……」
食堂。
集められたメンバーを見て、僕は深々と溜息を吐く。
溜息を吐くのも致し方ない、と言ったところであろう。今や全員は意気消沈としている様子だ。しかもその被害者が犯人と疑われていたうちの一人であり、さらにそのうちのもう一人は完全に監視下にあったということで、殺人が不可能ということが立証されてしまっているのだから。
「……また、アリバイを確認させてください。良いですか?」
僕の言葉に、全員は頷くことしか出来なかった。
頷くことばかりしか、出来ないのだった。
※
部長は落ち込んだ様子で僕の受け答えに応じていた。
「部長。今は落ち込んでいる場合じゃありません。アリバイについて、そして彼女の死体を見つけたときの様子について教えて貰えないでしょうか?」
「……夜は、ずっと蔵書室に居た。自分の監視時間が午前六時以降だったからだ」
「それより前に監視していたのは?」
「池下だ」
「蔵書室には他に誰か居ましたか?」
「高畑と……金山も居たはずだ。会話もした。だからそこに居たのは間違いない」
「そうですか。ということは、その時間犯行が可能だった人間は、自ずと一人に絞られますね」
「待て、待ってくれ! 何かの間違いだ! 池下が……あいつが、そんなことをするとは考え難い! きっと、きっと何かの間違いなんだ!」
「それは池下さんに直接聞いてみることにします。ですから、貴方はもう話を聞くことはないでしょう。ありがとうございました。お帰りください」
「待て、待ってくれ、待ってくれよお!!」
部長の叫びも、僕には届かない。
今は、犯人候補である池下さんとの会話に臨まなくてはならない。