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生徒会選挙 ④

  • 2019/05/23 18:17


 次の日。金山さんがやってきて開口一番こう言ったのだった。
「貴方が立候補してくれるなら充分に嬉しいニュースだわ! 対抗馬が居ない、つまらない選挙にならなくて済むから良かったのよ」
「……何だか、僕を踏み台にしているようだが?」
「いやいや! ……でも、あなたには勝てそうにないわね、はっきり言って。私なんかより抜群に知名度があるもの、貴方」
「現職で生徒会副会長を務めているお前よりもか? それはないだろ」
「それが案外そうなのよ。貴方、貴方が思っている以上に知名度抜群なの分かっていないでしょう? 目鼻立ちも整っているし、スポーツ万能だし、頭は良いし……。ほんと、こんな部活動を自分で作るなんて言い出さなきゃ、引く手あまたでしょうに」
「悪かったな、こんな部活動を作るなんて言い出して」
「あら? 別に良いのよ。でもこの部活動を作るのに尽力した人の気持ちも考えて欲しいものね」
「……それは分かっているよ」
「ともかく! 貴方が立候補してくれるということなら、私達はライバルということになるわね。もし貴方が落選しても、私は副会長のポストを貴方に譲るわ。だから、そのつもりで」
「それはこちらも同じ気持ちだよ、瑛里沙」
 そうして、二人は別れることになった。
 金山さんはそのまま部屋を出て行って。
 部長はホワイトボードに視線をやるばかりで。
「……あの、」
「うん? どうかしたかな、いっくん」
「ちょっと聞きたいんですけれど……。もしかして、金山さんと部長って、昔付き合っていたんですか?」
「ぶぼっ!? い、いったい何を言い出すかと思いきや……。な、なんでそんな結論に至ったのかな」
 飲みかけのペットボトルから口を外して咳き込む部長。
 その反応からしてみて、やっぱり何らかの関係にあったのは間違いなさそうだった。
「……あのね、一応言っておくけれど、付き合っていたからって、優しくするつもりはないんだ。これは勝負だからね。そしてそれはお互いに思っていることだろうさ」
「……そんなもんなんですか?」
「そんなもんなんだ! ……まあ、君には分からないかもしれないがね」
「確かにそうかもしれませんけれど! 何ですか、その発言。さっきの僕の発言に対する当てつけですか!」
「当てつけじゃなかったら、何だと言うんだ?」
「うわ、その発言どうかと思いますよ、部長!」
「……野並。そんなことを言っている暇があるということは、この選挙、勝つ見込みがあるということなんだろうな?」
 それを言ったのは池下さんだった。池下さんは今もなおカメラを磨き続けている。磨き続けてなくなってしまうんじゃないか、って思ってしまうレベルだった。
 そんなことを思いながら、僕は池下さんの行動を見つめていたが――池下さんが僕の視線に気づいたのか、こちらを向いてきた。
「何だ。面白いことをやっているつもりはないぞ?」
「いや、ずっとカメラを磨いているな、って思って……。大事にしているんですね、そのカメラ」
「当たり前だ。UFOを撮影するにはカメラが必要不可欠だからな。ということはカメラがなければ何も出来ないと言ってもいいだろう。そんな部活動にとって、カメラ管理の役目というのは必要不可欠だからな。……まあ、持っているカメラは全部俺のものだから、管理するのも仕方ない、と言えばそれまでになる訳だが」
「へえ、カメラは全部池下さんが所持しているものなんですか」
「……ああ。そうだ」
 それは知らなかった。というか聞かなかったら一生知らない事実になっていたことだろう。
 そんなことを思いながら、僕は再び視線を部長に移す。部長はホワイトボードに何かを描いていた。その文様は部長にしか分からないように描かれていて、それを読み解こうとしている僕とあずさにはすっかりさっぱり分からないようになっていた。
 作戦会議をするつもりはあるんだろうか、なんて思えてしまうけれど、やっぱり既にルートは構築されているのだろう。
 僕はそう思って、取り敢えずパイプ椅子に腰掛けることにした。

 

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