生徒会選挙 ③
- 2019/05/23 17:39
次の日。
部長は一枚の紙切れを持って部室にやってきていた。既に部室には池下さんと僕が待機しており(待機、といっても何かする訳でもなかったんだが)、その光景を見て僕はいったい全体何があったのかと思っていたのだが――。
「昨日、一日考えてな。あいつの言うとおりにすることにするよ」
「ということは、受けるんですか。生徒会選挙立候補を……」
「受けるしか、この部活動を存続させる道はあるまい」
確かにそうかもしれない。
そうかもしれない、のだが――それは僕達の強制できることではない、と思っていた。
いくら部活動を存続させることが出来ないからって、それを部長に求めるのは筋違いだ。
だから最悪、部活動は終わってしまうかもしれないなあ、なんてことを考えていたばかりだった。
え? 何だか終わってしまった方が楽しそうな表情を浮かべている、って?
それは剣呑剣呑。
剣呑、という使い方を間違えているような気がするけれど。
「でも、良いんですか? もし、会長になったら」
「そのときはあいつを副会長にして仕事をすべて押しつけてやる。『会長選挙に出ろ』とは言われたが、『会長の仕事をしろ』とは一言も言っていないからな」
「それは確かに言っていないような気がしますけれど……」
でも、それってインチキって言うんじゃないか?
僕はそんなことを思ったけれど、それ以上言うことは出来なかった。
「さて、問題はそれで片付いた。……後は広報活動をどうするか、だが」
「広報活動?」
「一応、会長選挙に立候補するのだ。手を抜いたら相手にフェアじゃないだろ? だからこちらもちゃんとした対策を練らなくてはならないということだよ。分かるか?」
「そりゃ、そうかもしれませんけれど……」
言いたいことは分かった。
でも、問題が山積みということは依然変わりないはずだ。
どうやって会長選挙を攻略していくのか。それは、部長の頭の中に何らかのルートが構築されているのだろうか。
僕はそんなことを考えながら、部長の顔をただ見つめることしか出来なかった。
※
「へえ、結局、部長は立候補することに決めたんだ」
帰り道。あずさはそういえば部長の立候補話を聞いていないことを思い出したので、そんなことを話してみたら案外食いついてきた。
あずさもそういう話には興味があるんだな――と思いながら僕はさらに話を続ける。
「で、結局、どういう風に選挙戦を攻略していくかは次回以降の会議に回すことになって」
「え。じゃあ、私達も何らかの選挙戦に参加しなくちゃいけないって訳?」
「そういうことになるだろうね」
「うわー、面倒臭い……。そういうものがないと思ったから、この部活動に入ったのに。何だか、残念だなあ……」
「残念、だって?」
「だってそうでしょう? 宇宙研究部なんて枠外も良いところ。そんな部活動にとってみれば、選挙なんて夢のまた夢、なんて思うのが当然の一言じゃない?」
そもそも、部活動と選挙なんてどう結びつくんだろうか。
「例えば、部活動で選挙なんてやるとしたら部長選かしら? 人数が多い部活動はそれゆえに優秀な人間が多い。だから、部長についても選挙を行う形を取る、なんて話を聞いたことがあるけれど」
「そんなことがあるのか」
「あるんじゃない? 何処まで本当なのか分からないけれど」
「分からないけれど、って……。適当なことだな」
「だって、そういう部活動に入ったことがないもの。実際に入ってみれば分かりそうなものだけれどさ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんじゃない?」
お互いに、お互いが、疑問符を浮かべる。
結局はそれでお終いになってしまうのだった。