ブラックボックス ⑧
- 2019/06/18 07:05
「しかしだね。あれは機密情報だ」
「良いでしょう、ここまで機密を話したんだ。あれぐらい見せても何も変わりゃしない」
「……君がそう言うならば、そうしよう」
そう言って、PDFをクローズする兵長。
デスクトップにある散乱されたフォルダの中から一つを選び、クリックする。
そして、一つの映像ファイルを選択して、クリックする。
やがて動画が表示され、再生される。
そこに映し出されていたのは――。
「空飛ぶ円盤……。これが、これが『ブラックボックス』……」
「そう。これこそが『ブラックボックス』だ。そして、良く見ていたまえ。これから起きる出来事を」
『では、今から「ブラックボックス」に銃弾を発射します。パイロット、問題ありませんね?』
チカチカ、と円盤の正面から何かが光った。
それを見て確認したのか、白衣の科学者は頷くと、銃を持ち、それを『ブラックボックス』に向けて――撃ち放つ。
パン、パン、パン、と。
乾いた銃声が鳴り響いた。
それだけのことだった。
刹那、銃弾が三つパラパラとこぼれ落ちた。
『実験は成功です。無事、「ブラックボックス」周囲の物理法則を書き替え、兵器を無力化することに成功しました。これが、大きな兵器でも成功するかは未知数ですが、可能性は高いものと思われます。以上、報告を終わります』
映像はそこまでだった。
「分かってくれたかね?」
「……これが、『ブラックボックス』に秘められた機能、だと言うんですか」
「そういうことだ。君ならば、機密を漏らすことはないだろう。そう判断した。だから、私の命令で今見せたことになる。……それ程気になるなら、実物を見るかね? ちょうど今から、パイロットが出撃するところだ」
「……パイロット……。あずさが……アリスが……出撃するんですか? でも、未だ、『北』からの攻撃は来ていないんじゃ……」
「それは君達が思っているだけのことだよ。実際には、既に『北』からの攻撃は日々やって来ている。ほら、テレビのニュースで言っているだろう? 弾道ミサイルが日本海に落下しただの言っている、あれだ」
確かに、それなら聞いたことがある。
でも、それって――。
「それも、『ブラックボックス』が物理法則を書き替えているから、出来ていることだと……?」
「そういうことになるね。……いやあ、最近の若者は物わかりが良くて助かるよ。こんな感じの部下が欲しかった」
「……それは俺に対する文句と受け取って良いですかね?」
池下さんは兵長を睨み付ける。
……なんだかんだ、この二人は良いコンビなのかもしれない。
しれない、と思っているだけに過ぎないけれど。
「さて、君の回答を聞こう。……今から、『ブラックボックス』が出撃する。その前に、パイロットに挨拶したいことがあるなら、時間を与えようではないか。どうだ? 挨拶していくか?」
まるで、転校する生徒に挨拶していくか、と言わんばかりの軽さだった。
でも、二度とあずさとアリスに会えない――そんな気がして。
僕はそれに、頷くことしか出来なかった。