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ブラックボックス ⑨

  • 2019/06/18 19:25

 瑞浪基地にある飛行場。
 そこに僕と、池下さんと、兵長は立っていた。
「何処に、彼女達は居るんですか」
 僕は手錠をかけられていた。
 これじゃまるで犯罪者だ――と思ってしまう程だったけれど、それも致し方ないことなのだと、受け入れるしか道はなかった。少なくとも、僕に残された道は、目の前の道を真っ直ぐ進むしかなかったのだ。
「そこに居るだろう。今、ちょうど『映像』を見ているところだ」
「映像?」
「……聞こえてこないか? 映像の断片が」
『……頑張れよ!』
『お前達は、俺達の希望なんだよ!』
 そんな声が、耳を澄ますと、聞こえてくるような気がした。
 そして、あずさとアリスの姿を捉える。彼女達はパイプ椅子に腰掛けて、何かビデオを見せられているようだった。
「ちょうど良い。君も見ていきたまえ。彼女達がどういう精神状況だったか判断出来るはずだ」
 そう言われて、僕はテレビの画面を見つめる。
 そこには大量の自衛隊員が映っており、一人一人何かの挨拶をしているように見受けられた。
『貴方達は、私達自衛隊の誇りです。だからどうかその誇りを捨てないで』
『貴方達は、未来そのもの。貴方達は、この国の希望そのもの。だから、頑張って』
「何だよ……何だよ、これって」
「これが、彼女達に見せていた『映像』の正体だ」
「……何だって?」
「彼女達に、精神を鼓舞させるような映像を見せる。それによって、彼女達は、自分達しか残されていないのだということを自覚させる。それが、この計画の全てだ」
「あんた……、自分が何を言っているのか分かっているんですか!?」
「……分かっているよ。分かっていて、これを続けている」
「じゃあ!!」
「なら、どうやって代替案を用意するつもりかね?」
 池下さんの言葉は、ひどく冷たかった。
「分からないか? 俺が言いたいことを。分かりきっていない、とでも言いたげな感じだな。どちらにせよ、この世界はもう彼女達に任せるしか道がないんだよ。神様から与えられた知恵の木の実……『ブラックボックス』を使役出来る唯一の人材である彼女達にね」
「それは、変えることは出来ない、ということですよね」
「変えることは出来ないね。簡単に考えてみろ? この世界と、彼女達二人。君はどちらを秤にかけて守り抜くつもりかね? この世界がどうなろうったって良い、というのなら、今すぐ彼女達を解放しても良いじゃないか」
「ちょっと、池下くん! 君は何を言っているのか分かっているのかね!?」
「分かっていますよ、兵長。俺は彼を試しているんです」
「試す?」
「試してみたいとは思いませんか。彼がどちらを選択するのか」
「……勝手にしろ。だが、解放は認めんからな。私の許可がない以上、それは出来ないことだけは分かって貰おう」
「それは……仕方ないことだね。じゃあ、どっちを選ぶ?」
 どっちを選ぶ、って。
 そんなこと、分かりきっていることじゃないか。
 僕は――選べない。
「選べない」
「何だと?」
「僕はどちらも選べない! 僕は、この世界も、彼女達も守りたい」
「傲慢だな、それは」
「傲慢……ですか。僕が」
「そうだ。傲慢だ。それ以上の何物でもない。君は傲慢この上ない発言をした。分かりきっていることだとは思っていたくせに、君は、どちらも守りたいと言った。そんなこと出来ると思っているのか? 出来る、と彼女達に言えるのか?」
 映像は気づけば終わっていて、彼女達は僕を見つめていた。
 あずさとアリスは、僕を見つめていた。
 やめろ、やめろ、やめろ。
 見るな、見るな、見るな。
 僕を――見ないでくれ。
 

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