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ブラックボックス ⑥

  • 2019/06/18 00:41

 ……何だって?
「言っただろう? 彼女は『記憶』を解放した、と。ということはだね、彼女は『記憶』を封印したんだよ、自らの手で。何の記憶を? そんなこと、言わずとも分かる話じゃないか。『ブラックボックスの搭乗員だった』という記憶を、だね」
 どういう、ことだ?
「分かっていないようだから、ゆっくりと説明してあげようか。……先ず、『ブラックボックス』の搭乗員であるナンバーワン、メンバー名伏見あずさは五月下旬のある日に自殺未遂を起こした。首吊りだ。奇跡的に一命は取り留めたが、脳に記憶障害が残ってしまった。それが、『ブラックボックスの搭乗員』だったという記憶、そして自衛隊の一員として存在していた、という記憶だ。彼女にはその記憶がすっぽりと……そう、すっぽりと抜け落ちてしまったんだよ。だから、第一段階として、彼女を中学校に送り込んだ。それが、第一段階」
 第一段階。
「次に、自衛隊の手下になり得る存在を中学校に派遣する。それが、俺、桜山兵長代理、そして、今池監査官の三名だ。そこまでは理解できているかな?」
 こくり、と。
 頷くしか出来なかった。
「剣呑剣呑。……あれ? 剣呑ってこんなタイミングで使う単語だったっけ? まあ、それはいいや。続いて第三段階、自衛隊の自由になりそうな人間を派遣した。それがいっくん、君だよ」
「どうして、僕が……」
「お父さんが瑞浪基地に務めていることは知っているかな?」
「……メールを見たから、知っています」
「なら、話は早い。彼も『協力者』だよ。瑞浪基地に所属させた段階で、計画は既にスタートしていた」
「つまり僕は最初から、踊らされていたということですか……」
「次に、第四段階」
 池下さんは僕の話を無視して、話を続けた。
「対象と、自由になりそうな人間Aの接触を図る。これは一日目に既に完了している」
「宇宙研究部に誘ったのも……」
「それは、彼女の意思だ。『ブラックボックスの搭乗員だったことを知らない』彼女の、意思」
 怖くなってきた。
 聞きたくなくなってきた。
 その真実に――もう気づきたくなかった。
 でも、気づかされるのだ。気づくしか道がないのだ。
 僕には――それしかもう道が残されていなかったのだ。
「そして、第五段階。宇宙研究部の存在だ。あれは俺が野並に持ちかけた。もともとUFOだの何だのが好きだった奴を使うつもりだったからな。……ああ、安心して貰って構わないよ、野並は全く無関係の人間だ。とどのつまりが、関係者じゃないって話」
「宇宙研究部も最初から、彼女の記憶を取り戻すための……デコイだった?」
「ご明察」
 そこまで言ってパチンと指を弾く池下さん。
 もう答えは分かりきっていた。
 答えはもう見えきっていた。
「となれば、君にももう答えは見えてくるんじゃないかな? 第六段階、ナンバーツーとの邂逅。これは予めUFOの実験を見せることでUFOが居ると感じ取らせた。思えば分からなかったのかい? UFOを見つけたのは『僕達』だと言っていただろう?」
 あ。そういえば、そうだった。
「だから……ナンバーツーの邂逅は簡単だった。簡単に宇宙研究部に潜り込ませることが出来た。ちなみにあのクラスの徳重、あいつは無関係だからね。それも一応言っておこう」
 無関係だったのか。
 僕的には、最早関係者であって欲しかったけれど。
 さらに、池下さんの話は続く。
「そして、第七段階。彼女達を交えて宇宙研究部は『一夏』の思い出を作らせる。それが脳の記憶障害を軽減する唯一の方法だと考えられていた。はっきり言ってしまえば……彼女達の精神状態は、既に鬱状態にあった。見ていて分からなかったか? アリスが常に暗かったのを」
 ああ、確かに……。
 今思えば、暗かったのってそういう理由があったのか。
「そして、第八段階。これは賭けだった。けれど、俺達は賭けに勝った」
「……僕が、彼女達を連れ出すこと」
「ご明察」
 パチンと指を弾く池下さん。
 正直ムカついていて殴りたかったぐらいだったけれど、話を聞き続けることにした。
 そうしないと、何も始まらないような気がして。
 

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