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ブラックボックス ⑤

  • 2019/06/18 00:22

「ロズウェル事件が起きた後、空飛ぶ円盤型の飛行物体、その開発が進められた。しかしながら、現代に至るまで有人の飛行物体を開発することが出来なかった。……何故だか分かるか?」
「さっき言った、『ブラックボックス』に存在するブラックボックス、が何か関係するんですか?」
 ややこしいな。
「そうだ。そのブラックボックスは解明することが出来なかった。結果的に解明出来たのは十五年前のことになる。結果的に思いついたのさ。宇宙人がやってこないなら、宇宙人を使役出来ないなら、宇宙人に似た遺伝子情報を持つ存在を作ってしまえば良い、と」
「疑似的に宇宙人を作り出した……ってことですか」
 何だよそれ。
 何なんだよ、それ。
 日本の科学力は何処までぶっ飛んでいるんだよ。
「そうだな、そうとも言えば良いだろう。……でもね、宇宙人の科学力は我々を遥かに凌駕していた。例えば、『周囲の物理法則を書き替える』ようなことだって出来たと言われている。まあ、それが実際に出来ているかどうかと言われると話は別だがね」
 何だよ、それ。
 それって最早、神の所業じゃないか。
「なあ、いっくん。俺は思うんだよ。宇宙人なんてほんとうは居なくて、ほんとうは神様が人間に齎した知恵の木の実なんじゃないか、って。例えば、もしそれがほんとうだとしたら、人間はそれを実現出来るだけの力を持ちうるのに、何十年もかかってしまった訳なのだけれど」
「……神様が齎した、知恵の木の実?」
 何かそういう宗教があったような気がする。
 何だろう、確か名前は……ゾハル?
 詳しいことは歴史の教科書にしか書いていないからさっぱり分からないけれど――僕が分かるのは、その宗教が新興宗教ではなくれっきとした宗教に数えられているということ、キリスト教以上の歴史を持っているということ、キリスト教に次ぐ人気を持っているということ。人気というのはどういうことだ、って話になるのだけれど、まあ、要するに国境を越えるのが宗教と言えば良いのかな?
「確か、知恵の木の実をモチーフにした宗教があったね。それを信じるつもりは毛頭ないけれど……、彼らの神が存在するのは明らかだと俺は実感しているのだよ! だってそうだろう? そうじゃなければ、この世界は科学力を一段階上に進めることは出来なかった!」
 つまり、この世界の科学力を上げるために、神様が無理矢理人間に与えてくれた、と?
 何を言っているのかさっぱり分からない。ここまで来たら、最早それは演説に近い。
「神様が与えたもうたものは、最早奇跡に近い。それが、あの空飛ぶ円盤であり、『ブラックボックス』なんだよ」
 さっぱり分からない。
 さっぱり分からないよ。
 何だって言うんだよ、それが。
 それが現実であるとして――科学力がどれ程進歩するのか分からないけれど――少なくとも今は僕達には関係のないようなことに思えてきて――。
「もっとも、これが実用化出来るようになるのは、あと五年はかかるだろうね。これから軍用の機械を開発しているメーカーが卸を開始する。そうすれば、この世界の科学力は一段階向上するだろう。まあ、何処まで進むかは分からないけれどね」
「分からない、というのは?」
「言わずもがな。……俺達の世界がどれだけ先に進むかは、お偉いさんが決めることだよ。俺達が決めることでも、科学者が決めることでもない」
 はっきり言った。
 その通りだった。
 確かに、そうだった。
 この世界は、既に一部の強者によって支配されている。それを変えるならば、世界の仕組みががらっと変わってしまうような何かを使ってしまうしかない。
 例えば……核爆弾とか。
 考えが、アバウト。それでいて危険過ぎるか。
「この世界の仕組みを変えようと思っている人間は、君が思っている以上に多い。そして、それでいて間違いではない、と思う。それが正しいかどうかは別として」
「別として……?」
「世界は、さらに先へ進もうとしている。そしてそれは瞬間的であり、ゆっくりとしたものではない。……分かるかね? 世界は先に進むためには、さらにもうワンポイント必要なんだよ」
「ワン……ポイント?」
「それが、世界の支配者が実行するか否か、ということ。この技術を軍用のみにするのか、民間にも適用するのか。その差分だね。まあ、俺達には窺い知れないところがある訳だけれど」
「それを……なんとかすることは出来ないんですか」
「何を? 神の所業を? それとも『ブラックボックス』を?」
「『ブラックボックス』を……です。彼女達をなんとかすることは出来ないんですか。解放してあげることは」
「いっくん、分からないかなあ?」
 池下さんはくすくすと笑みを浮かべて、言った。
 僕の目の前で、まるで食べ物をお預けしているペットに言うかの如く、言った。
「……その『日常』を破壊したのは、いっくん、君じゃないか」

 

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