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夢と現実の狭間で ⑤

  • 2019/06/15 07:46

 その日の放課後。
 空き教室に呼び出された池下は、その人物の顔を見て溜息を吐いた。
「……何よ、私に呼び出されるのがそんなに嫌だった訳?」
「嫌ではない。だが、お前に呼び出されるということは、明らかに何か嫌な予感がする、と思っただけのことだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「……やっぱり嫌なんじゃない……。まあ、良いわ。さっき、『彼女』から電話があった。誰か、ということについては言わずとも分かるわよね?」
「高畑アリス、か」
「そう。彼女からの連絡だった。彼女は、伏見あずさの記憶が戻りつつある、と連絡してきたわ。……まったく、立派なことね。まさか彼女側からコンタクトを取ってくるとは思いもしなかったけれど」
「彼女はいったい何だと?」
「だから言ったじゃない。伏見あずさの記憶が戻りつつある、と……」
「違う。彼女自身について、だ。それについては何も言っていなかったのか?」
「……ああ、それについてなら、簡単なことよ。伏見あずさの記憶が元に戻ったら、自動的に元に戻るだろう、と。だから、そのときになったら私達を迎えに来てくれ、と言っていたわ」
「……くくく、ふはは! そうか。そんなことを言っていたのか。だったら、その通りにしてあげれば良いじゃないか。悩む必要性はない。ただそれに従えば良いだけのこと。……それにしても彼女も大変だね。自らスパイ役に打って出ようだなんて! いっくんも流石にそこまでは予想出来ていなかっただろうに」
「いっくん……ええ、そうね。彼も、とても悲しむでしょうね。高畑アリスが元から我々と繋がっていると気づけば」
「そうさ。そもそも、高畑アリスは俺達に仕えている存在。それをいっくんは理解しているはずなのに、彼女も助けようとした。それが彼の大きな失敗だった」
「……悲しむでしょうね」
「だろうね。けれど、俺達には関係ない」
「そうね。関係のないことね」
「そうとも。俺達には、関係のないことだ。……この国が救われるというのならば」
 そうして。
 笑いながら、池下は部屋を出て行った。
 残された『彼女』もまた、不敵な笑みを浮かべながら、その場に佇んでいた。
 

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