夢と現実の狭間で ④
- 2019/06/15 07:36
四日目。
彼女の記憶退行は止まらない。
とうとう僕と出会った日のことまで記憶が退行してしまっていた。
「……いっくん、はどういう人間なの? 私、初めてあなたに出会ったから分からないの。それに、ここは何処なの? 全然分からない。早く場所を教えてよ……」
「僕の名前はいっくん。そしてここは僕の実家。君は心配しなくて良い。だから、僕の言うことを聞いて……」
「嫌だ! 家に帰してよ。どうして、私はここに閉じ込められなくてはならないの? まったく理解できない。教えてよ。どうしてここに居なくちゃいけないのか、誰か教えてよ……」
「それは……、」
言えなかった。
言えるはずがなかった。
教えられるはずがなかった。
普通に考えてみろ? 僕が君達を助けるのは、自衛隊から君達を守るためだと、誰が言える?
言える訳がない。言えるはずがない。
「いっくん、だったよね」
そして、彼女は記憶の中から僕という記憶を抽出して、そうして、あるものを差し出してきた。
「それは……、昔君が着けていたペンダント……」
「今は、あなたが持っていた方が良いような気がして」
「良いの?」
「うん」
アリスはその光景をじっと眺めている。
アリスは、そういえば僕の行動に否定的ではなかった。彼女はずっと記憶があると思い込んでいたのだけれど、彼女もやはり逃げたかったのだろうか。
そんなことを思っていたら、すっくと彼女は立ち上がった。
何処へ向かうのだろうか? そんなことも僕は聞けずにいた。
それぐらい、僕の精神は疲弊していたのかもしれない。
※
トイレ。
誰にも聞こえないようにこっそりとスマートフォンを取り出し、高畑は誰かに電話をかけた。
「もしもし。私です。高畑です。高畑アリス。……コード、0439。……うん、そう。そうです。定期報告の連絡をしに来ました」
一息。
「連絡の内容は、伏見あずさの記憶について、です。はい、六月まで戻ってきました。あと少しで記憶が元に戻ると思います。そうすれば、彼女は自動的に元に戻るだろうと、そう推測出来ます。はい。はい。だから、そのときになれば、私達を迎えに来てください。そうすれば、問題なく、進行出来ると思います。彼? 彼については、そちらにお任せします。消す以外の手段を執って貰えれば、それで充分かと。はい。はい。分かりました。お願いします」
そう言って。
彼女は電話を切った。