クスノキ祭 ⑯
- 2019/06/09 16:38
九月二十三日。
「今日は新聞が終わるまで帰さないからな!」
「それってどうなんですか、何かやばい法律に引っかかったりしませんか……?」
「まあまあ……。遅くなったら私が家まで送ってあげるから」
という訳で。
未だ完成していない『宇宙研究部新聞』の最後の追い込みに取りかかっていた。
黒板には、最早普通の精神ではないメンバーの寄せ書きが書かれている。
誰かが書いた『Tme waits for no one.』の文字列――それがかなり秀逸になっている現状。
「時は誰も待ってくれない、か……。言い得て妙だな」
「何か言ったか、いっくん?」
「何も言っていません! 急いで原稿を終わらせます!」
「よしよし。とはいえ僕も未だ全然原稿が終わっていないのだがね……。やれやれ、これだったら金山の仕事を手伝うんじゃなかった」
「元はといえば、あなたの仕事なのだから手伝う以前の問題ではなくて? それと、私はもう書き上げているのだからさっさと帰らせてくれても良い気がするんだけれど!」
金山さんはあれから一週間でコラムを一本書き上げてきた。
聞けば文章の類いは書くのは難しくないと思っているらしい。何だよ、それ。チートかよ。
「……書き上げても帰ることが出来ると思っていたのか、金山。お前には校正という仕事とレイアウト担当という仕事が残っている訳だが?」
「そんなの、後でやって来た人間がやれば済む話でしょうが! 私はさっさと終わらせているの! だったら早く帰しなさいよーっ!!」
「帰してやるからちょっとは待っていろ。こっちだって今忙しいんだから……さっ!」
原稿を書きながら話が出来るなんて何と羨ましい。
こちとら言語能力をフルにそちらに回さないと全然文章が出来上がらないというのに。
「いっくーん? 未だ出来上がらないのー?」
「何を見て言っているんだい? これを見てもなお、出来上がっていると言えるのかな?」
「それってただの言い訳じゃないのー。それより、早く書き上げちゃってよ。私、もう出来上がったんだけれど」
「馬鹿な……! 進捗は僕と同じだったはず……! タイムマシーンでも使ったのか?」
「そんな馬鹿なこと考えている暇があったら、ほら、手を動かす!」
お前が話を振ってきたんじゃないか。
そんなことを言いたかったけれど、流石にこれ以上言語能力を使っていると、文章に支障が出る――そう思って僕は必死に原稿を書き進めるのだった。
※
実際に新聞が完成したのは、それから数時間後。
正確には、九月二十四日に少し入ってしまったぐらいだろうか。
僕は――まさかここまで時間がかかるとは思わなかった、と思いながら新聞部にある印刷機の横でうつらうつらと眠りそうになっているのだった。
※
そして、九月二十四日。
この中学校の文化祭であり、地元からも数多くの人々がやってくる一大エンターテイメント。
クスノキ祭が、幕を開ける。