クスノキ祭 ⑮
- 2019/06/09 16:07
「池下さんは部長と合同でコラムを書いているんでしたよね」
この間あったことは、お互いノータッチで進んでいく。
池下さんは読んでいた本に栞を挟んで閉じると、
「そうだね」
とだけ短く告げた。
「どんな内容になっているのか、見せて貰うことって出来ますか?」
「何故だい? 何故俺がそんなことをしなくちゃいけない」
「原稿が進まないんですよ。お願いします」
「そう言われてもなあ……。うん、分かった。見せてやろう。但し、内容のコピペは厳禁だぞ」
それぐらい承知していますよ。
僕はそんなことを言って、池下さんから原稿を受け取って、椅子に腰掛けた。
池下さんが書いた内容はかなりしっかりとした内容のコラムだった。コラムの内容を総評すると、瑞浪基地に飛来するUFOについて――ということだった。僕のコラムの内容と被る心配もあったけれど、僕はUFOの事件そのものを書いたものになっているので、そこは問題なし。もしそこで被っていたらどちらかが手を引くか、そのまま原稿を提出するかのいずれかになってしまうところだった。
池下さんの書いた文は、かなり明瞭ではっきりとした文章だった。物言いがしっかりしている、と言えば良いんだろうか。いずれにせよ、その考えが正しいのかどうかは分からない。僕はあまり小説を読まない人間だからな。読むと言っても、せいぜい流し読みが精一杯なところがある。あと時間つぶしに読んでいる節が多いし。
「……どうだったかな、俺の文章は」
気づけば、池下さんは立ち上がってこちらに向かってきていた。
これは何か感想を言わなくちゃいけない状況だろうか――なんてことを思いながら、
「良い文章だったと思いますよ。非の打ち所のない、と言えば良いんでしょうか」
僕は精一杯のお世辞を言ったつもりでいた。
池下さんはそれを聞くと、原稿を奪い取るように手に取って、
「そりゃ、どうも」
とだけ言って、また元の席に戻っていった。
「……いっくん、池下さんに何か悪いことでもしたの?」
あずさがそう言ってくるが、そんな問題ではない。
そんな問題では、ないんだ。
※
九月も二十日を過ぎると、各々クラスも準備を整えてきている。段ボールで作ったお手製のメニュー表や、検便の準備など手間がかかっているのだ。
ちなみに僕も検便を出す羽目になってしまった。理由は単純明快。メイド喫茶でジュースを出すことが決まったためである。パックのジュースではなく、パックから紙コップに出していくスタイルに決まったそうなのだ。だから、紙コップに注ぐ役目を担う男子には検便をして貰う必要がある――ということらしい。
何というか、してやられた、気分である。
「……いっくんも、勿論、検便して貰うからね?」
藤岡さんにそう言われたときは、逃げ場がないと思ってしまった。
いや、会議に参加しなかった僕が悪かったのだけれど。
それ以上は何も言えなかったし、何も言わなかった。それが一番だと思ったからである。