クスノキ祭 ⑰
- 2019/06/09 17:47
結局、眠ることは出来た。
けれど、いつもより一時間早く起きることもあってか、家に帰っての自由時間はほぼ存在しなかった。仕方ないと言えばそれまでなのだけれど、しかしながら、どうしてここまで全力を突き通さねばならないのだろうか、という疑問も浮かんでしまうのもまた事実。実際問題、僕達宇宙研究部は一年目の新参者だ。新参者が活躍する場も与えられているのが、この文化祭――だと思えば良いのかもしれない。こんな部活動で活躍できる場所なんて、ほぼないに等しい訳だし。
午前八時。校門を見る。すっかり赤やピンクの色紙で色とりどりに装飾された校門になってしまっている。これを見る機会も二日しかないんだな、と思うと少しだけ寂しい気分になる。
「あ、いっくん。おはよう」
声がしたので、そちらを振り向く。
そこにはあずさとアリスが立っていた。
「あずさ、それに、アリス……」
「どーしたの、いっくん? こんなところでぼーっとして、どうかしたの? 眠れなかった?」
「いや、何でもないけれど……。あずさ達は眠れたのかよ? 寝不足だったりしない?」
「私はばっちり六時間睡眠だから大丈夫だよ! いつもより二時間は眠っていないけれど、そこは昼寝でばっちりカバーするつもり!」
「……私も、大丈夫」
何が大丈夫なんだ、おい。うとうとしているじゃねえか、早速陥落しそうなんですけれど!?
とまあ、そんなことはおいといて。
校門を潜って、話を続けていく僕達。
「ところで、今日のシフトはどうなっているの?」
「僕は午後から二時間入っているよ。後は暇だから色々巡ろうかなあとは思っているけれど」
「やりいっ。私達もその時間なんだよ。だから後は空き時間! とは言っても、メイド喫茶のビラ配りとかあるけれどね」
「ビラ? そんなもの作っていたのか?」
いったいいつの間に。
「私も詳しいことは知らないんだけれどね。何でも、メイドにビラを配って貰った方が、受け取る方も受け取りやすいだろうって話らしいんだよっ。私は詳しい話は分からないけれど」
「……いったい、誰の入れ知恵だ?」
大方、担任の徳重先生の入れ知恵なんだろうけれど。あの人、体格に比べて趣味が可愛らしいものばかりって最近知ったしなあ……。
「徳重先生だよ。確か、めーちゃんがそんなことを言っていた気がするから」
「めーちゃん?」
「……藤岡さんのこと」
補足説明してくれたのはアリスだった。
ああ、そういえば彼女の名前って、藤岡めぐみだったっけ。だからめーちゃんか。成程成程。
「あっ、でもこの渾名使っちゃ駄目だからね。女子には呼ばれても良いって言ってたけれど、男子にはお断りだって言っていたから。きっといっくんも同じ目に遭うと思うんだ」
……あの女、どんだけ男女差別意識が高いんだ?
いいや、そんなことはどうだって良い。
取り敢えず、クラスに向かって最後の準備に取りかからねば。そのためにわざわざクラス全員が一時間前に集合――という悪魔のスケジュール構成になっているのだから。
そう思って、僕達はクラスへと急ぐのだった。