八月三十一日⑥
- 2019/05/29 00:06
海水浴をするというのは、要するに海で泳ぐということだ。それ以上でもそれ以下でもない。とどのつまりが、塩分濃度の高い水で泳ぐだけということ。それ以上でもそれ以下でもない。だとしても、僕が泳ぐということは間違ってもいなければ正しいことでもないと思っている。
要するに。
青春を繰り広げていく中で、一番のポイントとも言えることが、海水浴であるという乏しい知識しか持ち合わせていない人間にとって、正しい選択だと言えるのだ。間違っていないのかもしれない。正しいことであるのかもしれない。未来では、間違っていると思われてしまうのかもしれない。けれど、僕は今回これを選択した。エンドレスエイトでは、確か『やりたくてもやれなかったこと』について言及していた記憶がある。それを攻略することが出来れば、いつか結論が出てくるのではないか――なんてことを考えていたのだけれど。
海水浴はあっという間に終わり、夜のバーベキューに移った。
バーベキューなんて予定にあったか? なんて思ったけれど、部長がバーベキューの予約を入れてくれていたらしい。全くもっていつの間に、やってくれていたのだと思う。僕が適当に考えついたアイデアに、ここまで全力で乗っかってくれることについて、ほんとうに有難いと思う。ほんとうに嬉しいと思う。ほんとうに正しいと思う。間違っているなんてことは言いたくない。
肉の焼ける音を聞きながら、僕は海を眺める。天体観測はやっぱり今日も続けられており、勿論そのカメラはUFOの飛来する瑞浪基地にも向けられていた。瑞浪基地に何があるのか、なんてことは近所の人間にとってみれば、有名過ぎる事実なのだけれど、それは噂にしか過ぎない訳であって。なぜならば、わざわざTVのカメラでUFOを映し出したことがないからだ。当然と言えば当然と言えるだろう。瑞浪基地にとってみれば、UFOがある事実は隠したいに決まっている。瑞浪基地にとって、UFOという存在はタブーだという認識がある。だからこそ、瑞浪基地はUFOがないと言い張っている。言い張っているのだ――けれど、僕達は現に一回(部長達に至っては二回)UFOを観測している。
だからこそ――なのかもしれないけれど、僕達はもう一度UFOを見たいと思っている。もう一度UFOを観測したいと思っている。もう一度UFOを目撃したいと思っている。
けれど、それは出来ないことなのではないか、と思い始めている僕達も居る。
何せ夏休みの収穫はゼロだったのだ。ということはUFOが居ないと疑われても仕方がないレベル。唯一観測することが出来たあれ自体も『よく出来た玩具』なんて言われてしまえばそれまでだ。それ以上でもそれ以下でもない。
けれど、僕達はUFOを観測したという事実を忘れない。
ほんとうに、UFOを見たという事実を忘れない。
僕達は、UFOを撮影したという事実を忘れない。
だからこそ。
だからこそ。
だからこそ、だ。
問題は一つだけ残っている。
「……やっぱり、瑞浪基地ではもうUFOを飛ばさなくなったのかなあ?」
池下さんは、僕が思っていることを、代弁するかの如く言い放った。
そう。池下さんも、僕も、部長も、そしてきっとあずさもアリスも、思っているに違いなかった。
瑞浪基地にはもうUFOが飛来していないのではないか、ということについて。
それが僕達にとってもっとも重要な事実であった。
もしそうであるならば、宇宙研究部が存在している理由にならない。
もしそうであるならば、宇宙研究部は解散しなくてはならない。
僕達は、僕達としての繋がりを失ってしまうのだ。
僅か数ヶ月の出来事だったとはいえ、いろいろなことがあったと思うし、それを忘れたくないと思うのも当然の事実だと思う。きっとそれは青春の一ページであると同時に、僕達の価値観の一つとして位置づけられるのだろう。
そうでなければならない。
そうでなければいけないのだ。
僕と――宇宙研究部の繋がりは、それ程に希薄なものだったのかもしれない。