夢と現実の狭間で ③
- 2019/06/15 07:02
三日目。
さらに彼女の記憶退行は進んでいた。
クスノキ祭についてしつこく言わなくなったのは有難かったのだが……。
「ねえねえ、いっくん。どうして私達、学校に行かなくて良いの? 学校に行かないと、部活動が大変なことになるんじゃないかな?」
「……良いんだよ、別に」
僕はぶっきらぼうに彼女にそう語りかけた。
「良くないよ! 学校に行かないとね、えーとね、誰かがね、悲しむんだよ」
「誰が悲しむんだよ」
「えーと、誰だろう……。うーん、ここまで出かかっているんだけれど……」
もしかして、記憶を取り戻そうとしている?
記憶を取り戻したら――あずさはどうなってしまうのだろうか。
答えは見えてこない。ただの希望的観測に過ぎないのだけれど、僕は記憶を取り戻すことで、彼女の闇が見えてくるのではないか――そう思えてしまうのだった。
※
「……今日は三人とも登校していないようだ」
部室。
部長である野並がそう二人に語りかける。
「あの三人、休むような人間には見えなかったけれど……」
言ったのは金山だった。
「……そうだな」
それに続いたのは、池下だ。
「ちょっとトイレに行ってくる」
池下は席を外し、図書室を後にした。
「……計画は順調のようね」
通り過ぎようとしたところで、桜山が声をかけてきた。
桜山の話は続く。
「今、彼らは茨城にある実家に潜伏している。そして調査員の報告によれば、予定通り、彼女の記憶が退行を始めているとも言われている」
「……そうか。ならば、やはり実験は成功だと言うことだな?」
こくり、と桜山は頷く。
「難しいことかもしれない。けれど、今からでも計画を変更することは出来ないかしら」
そう言ったのは桜山だった。
「変更とは? 元々、この計画には賛同的だったじゃないか。それを今更……」
「難しいことは分かっている。けれど、これは彼らにとって、やり過ぎじゃないか、と言いたいのよ! 上も何を考えているのかさっぱり分からないし……」
「桜山。俺達の目的は何だ? 一般市民を戦争に巻き込まないためだ。そのためなら、どんな非人道的行為だってやってのける。それが俺達の目的ではなかったのか?」
「彼は一般市民ではないというの!?」
「……彼はこの計画に『不幸にも』巻き込まれた人間ということにしておけば良い。それ以上のことは求めない。だから、俺達は存在している」
「だからって……」
「嫌なら、辞めれば良い」
はっきりと。
池下はそう言い放った。
「辞めれば良い、ってそんなこと簡単に……」
「出来ないのか? だったら口出しするな。これは『上』が決められたことだ。俺達はただそれに従っていくしかない。ただそれだけのことだ」
そして、二人の会話は、半ば強引に終了するのだった。