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逃避行のはじまり ⑫

  • 2019/06/13 14:37

 横浜駅の駅前に、崎陽軒の本店は存在している。シウマイ弁当で有名な、あの崎陽軒だ。余談だが、僕はシウマイ弁当は完璧な弁当だと思っている。メインディッシュのシウマイ(さらに余談だが、シュウマイではなく、『シウマイ』)に、タケノコの煮物、焼き豚に厚焼き卵、マグロの付け焼きにかまぼこ、鶏唐揚げに切り昆布、さらに千切りのショウガに杏の甘煮というデザートまでついている。ご飯は俵型になっており、一口で食べやすいものになっている。それもまた有難いものだ。実はシウマイ弁当だけなら藤沢駅にも販売しているのだが、シウマイとなると崎陽軒本店や、分店に行かないと売っていないケースが多い。だから、ここに来られるのはある意味夢のようだった。これだけは流石にあずさにありがとうと言っておかなくてはいけないだろう。僕はそんなことを思いながら、崎陽軒本店へと足を踏み入れる。
「何を買いに来たの?」
「勿論、崎陽軒といえばシウマイだろう! シウマイ弁当も購入して、電車で食べるのもありだな。シウマイ弁当は完璧な駅弁だと思っているからね」
「……そ、そうなんだ」
 若干引かれているような気がするのだけれど、気のせいだろうか?
 僕はそんなことを思いながら、カウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ」
「すいません、シウマイの十六個入り一つとシウマイ弁当を三つ」
「はい。少々お待ちください」
「ちょっと。私達の分は自分で払うわよ?」
「良いよ、別に。わざわざ僕が買うんだ。これぐらい好きにさせてくれ」
 そう言って、僕は会計を済ませる。
 少々余計な出費をしてしまったような気がするが、実家に帰ればお金はかからない。それを考えれば、これくらいはしょうがない出費だと思う。
 そう思いながら、僕は崎陽軒を後にした。
「さて、と。買い物も済ませたし、今度こそ家に向かおうか」
「横浜から一気に行けるの?」
「えーと、小山で乗り換えが必要だけれど、殆ど一発で行けるよ」
「それなら、問題ないね」
「そういうこと」
 僕はそう言って、横浜駅へと向かうのだった。

 ※

 横浜駅。
『まもなく、宇都宮行きが参ります』
「宇都宮行きって珍しいな……。でもまあ、一回で行けるから良いか」
「いっくんは何でも知っているね。だから『いっくん』なのかもしれないけれど」
 そんなことを言われても……な。
 僕は呟きながら、電車が来るのを待った。
 電車は平日の昼間ということもあり、空いていた。ボックスシートに座り込み、僕達はちょっと遅めの昼ご飯ということにする。
「そういえばさっき弁当を買ったんだっけ?」
「そうそう。そのために買ったんだよ」
 シウマイ弁当を一人一人に手渡して、僕は蓋を開ける。
 あずさとアリスも、それを見て、僕と同じように蓋を開けた。
 蓋を開けると、手拭きと箸が入っている。そのうち手拭きを手に取り、手を綺麗に拭き取った。そうして箸を割って竹で出来た内蓋を開ける。
 シウマイに醤油を注いで、僕はシウマイを一口。といってもシウマイ自体一口で食べられるサイズになっているから、一口で食べきってしまうのだけれど。
「うん、やっぱり美味い」
「ほんとうだ、美味しい! いっくんは何でも知っているね?」
「何でもってことはないよ。知っていることだけさ」
 僕はちょっと昔に出た本のキャラクターの台詞を真似てみた。
 真似るだけで、信条はそうではないのだけれど。
「……美味しい」
 アリスの口にもどうやら合ったらしい。僕はそう思って少しほっとする。
 電車は動き出し、次の駅へと向かう。
 目的地である実家までは――あと三時間あまり。

 

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