クスノキ祭 ㉙
- 2019/06/11 11:42
二日目も午前八時から始まった。
もっとも片付けは最低限のことしかやっていないので、準備は直ぐに終わる。あずさもアリスもメイド服に着替え終えて、外に出てきた。
「やっとメイド服に慣れてきたけれど、今日で最後なのよね……」
「いっそメイド喫茶に勤務してみたら?」
「この年齢で勤められる訳がないでしょう。それに、メイド喫茶なんてこの辺りにないし」
「それもそうか。だったら仕方ないけれど……」
「だったら高校生になってから働けば良い。東京に出ればメイド喫茶なんていくらでもあるだろうし」
でも、良く考えれば、どうして豊橋制服店の店長はメイド服を大量に持ち合わせていたのだろう?
「ビラもたくさん貰ったし。今日も大量に配りましょう!」
配る前提で話を進められても困る。
「今日は何処で配るつもりだい?」
午前九時になるまでは、作戦会議の時間。
昨日はステージ付近と体育館の二回に分けて配布した記憶がある。今日は、午前中だけビラ配りをして、午後はビラ配りをしない――だって、人が集まらないだろうから――ということになっているため、一回のビラ配りで充分なのだ。そして、ビラ配りについては僕が助言しても良いのだけれど、実際にビラを配るあずさとアリスに任せている。僕はただの保護者役だ。保護者と言える程、保護しているかどうかは別だけれど。
「今日はステージを中心に配ろうかな、と思っているのよ」
「へえ? そいつはまたどうして?」
「ステージでは今日大会が盛り上がるからね! それに、アリスが参加するものもあるし……」
「アリスが参加? いったい何に?」
「これよ!」
そう言って、あずさはあるものを出してきた。それはチラシだった。チラシを良く見てみると、『コスプレ大会参加者募集中! 優勝賞品はディズニーランドペアチケットをプレゼント!』と書かれていた。
こ、コスプレ大会?
「コスプレって……誰がするんだ? まさかアリスが?」
「そうに決まっているじゃない!」
あずさは開口一番そう言い放った。
「……まさか賞品目当てに、参加するんじゃないだろうな?」
優勝賞品はディズニーランドペアチケット。
ディズニーランドといえば、二人で行くには一万円はしてしまう。交通費を考えれば、その負担はさらに重なっていくだろう。
それを考慮すれば、ディズニーランドペアチケットはかなり嬉しい賞品だといえるだろう。
「……アリス。ほんとうに参加するのか? 嫌なら今でも断っても良いんだぞ?」
「……良い、大丈夫」
ほんとうに?
僕はそんなことを思ったけれど、本人が決めたことなら仕方ないことだろう。僕が口を出す必要もない、って訳だ。
そう思って、僕達はイベントステージへと向かうのだった。
開始時刻は午前十時から。その三十分前には集合するように、と言われていたらしい。
だったら早く言えよ、って話なのだが。