クスノキ祭 ㉘
- 2019/06/10 22:34
後夜祭はカラオケ大会だった。それも、誰もが参加可能な、ごった煮といったところの。
「これが面白いってことだったのか……?」
でもまあ、池下さんは恐らくこの学校に来て時期が浅いだろうから知識も浅いのだろう。
それを考慮したら、池下さんの知識を信用すること自体が間違っていたのかもしれない。
しかしながら、だとしたら。
「一番、『とおせんぼ』歌いまーす!」
明らかに酔っ払っている先生が、ボカロ曲を歌ったり。
「続いて『氷に閉じ込めて』歌います!」
同じ一年生の誰かがしんみりとした曲を歌ったり。
何だろ、悪くないな。こういうのも。
「いっくん、こういうのも悪くないね?」
「……ああ、そうだな」
そんなこんなで。
一日目は幕を下ろしていく。
二日目のために、英気を養うために、僕達は早く帰るのだった。
※
「お帰りなさい」
「……ただいま」
家に帰ると、父は居なかった。
「父さんは?」
「ごめんねえ、父さん。ご飯を食べる時間までは居ると思ったんだけれど、急に仕事が入っちゃったらしくて」
住み込みの料理人に『急な仕事』?
何だかきな臭くなってきたような気がするけれど――今は何も言えなかった。
「そうなんだ。じゃあ、僕と母さんだけで夕食にしようか」
「うん。いっちゃん、お腹空いているでしょう? 今日はカレーにしたからね」
カレー!
カレーは良いよ、カレーは。最高に素晴らしい食べ物だと思う。祖父だけカレーが嫌いだったのだけれど、それが全然理解できないレベルには僕はカレーが大好きだ。というかカレーが嫌いな人間の思考が理解できない!
「カレー! カレー!」
「はいはい、先ずは手を洗ってからね」
そうだった。
慌てちゃいけない。カレーは逃げないんだ。
そう思って、僕は洗面所へと足を運ぶのだった。
手を洗って、鞄を部屋に置いて、序でに着替えてきて、椅子に腰掛ける。
カレーがやって来る。カレーの良い香りが漂ってくる。母の作るカレーは絶品だ。父はいつも『お前の料理は味が濃い』などと言っているのだけれど、僕はそれがお袋の味って感じがして嫌いじゃない。次に好きな料理は肉じゃがだ。味が濃すぎて一個のおかずになってしまうレベルの肉じゃがが、僕は好きだ。
「文化祭、どうだった?」
母が言ってきたので、僕は笑顔で答える。
「楽しかったよ。あんなの初めてだったからちょっと興奮しちゃったかな」
けれど、表情には出さない。
僕はいつもクールだと言われるのだ。或いはポーカーフェイス?
「そう。それは良かったわね」
食事は進んでいく。
食事を終えて、皿をキッチンに運んで、風呂に入る。
風呂に入って、今日のことを思い返しながら、明日のことを期待していた。
明日はどんな出来事が待っているんだろう。
明日はどんなことが待ち受けているのだろう。
そんなことを思うと、僕は眠れなくて仕方ないのだった。