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生徒会選挙 ⑦

  • 2019/05/23 23:41

「……誰も居なくなったね」
 アリスとあずさ。二人が残された空間では、何も残されるはずがない。カメラもなければ、マイクもないのだ。とどのつまりが密室ということであり、それ以上でもそれ以下でもない。それが正しいかどうか間違っているかどうかと言われれば、正しいという選択肢を選ぶしか道がないのだろう。
 それはそれとして。
「貴方、いったい何者?」
 あずさは、単刀直入にアリスに問いかけた。
「へえ。分かっているんだ、自分が何者か」
 言ったのは、アリスだった。
「分かっているわよ。そのために、私はここに居るんだから」
「だったら」
 だったら。
「私が何者かも、当然説明がつくんじゃなくて?」
 アリスの言葉は、あずさの胸に届いたのだろうか。
 いずれにせよ、彼女はただ頷くことしか出来なかった。
 それは、二人きりの会話。
 それは、二人きりの談笑。
 それは、二人きりの談話。
 何にも残されることはない。何にも記録されることはない。何にも録音されることはない。ただの談話だ。ただの講話だ。ただの会話だ。
 結局のところ。
 それで済ませてしまっているのは、人間の良いところなのかもしれないが。

   ※

「……なぜ二人きりで残らせたんだ?」
 言ったのは、部長だった。
「え。だって、二人が残るって言った中、僕も残りますなんて言える訳ないじゃないですか」
「言えよ、そこは。何らかのチャンスを掴む良い機会だっただろうが」
「何らかの機会、って何ですか、それ」
「……ここだけの秘密にしておけよ、いっくん」
 部長はひそひそ声で、僕に語りかける。
「伏見は、一年生で、謎が多いんだ。何処に住んでいるかも分からない。お前も途中までは見送ったことがあっても、あいつの家には行ったことがないんじゃないか? そして、僕達も彼女の家に行ったことはない。というか、年下の女の子の家に行ける訳がない。そりゃ、分かりきった話だろう? そして、ここからが重要な話なのだが――」
「何ですか?」
「伏見あずさ、あいつが現れたのは、僕達が最初にUFOを見た一ヶ月前からだ。そして、高畑アリス、あいつがやって来たのは二度目のUFO目撃である日の次の日から。……これって、あまりにも偶然ができすぎてやしないか?」

   ※

 確かにそうだった。
 あずさの来たタイミングは今初めて聞いたが、アリスの来たタイミングはあまりにも都合が良すぎる。UFOがやって来たタイミングに合わせて転校生がやって来た。それってつまり、UFOに乗って来たということじゃないか、と思わせてしまうような口ぶり。
 いや、それが確かなのだろう。
「……二人の関係性を探れ、いっくん。これは一年生であるお前にしか出来ないことだと、僕は考える。それに僕は生徒会選挙で忙しいしな」
「池下さんは?」
「俺もパス。ってか、多分こいつの推薦人になることだろうし」
「推薦人?」
「生徒会選挙では、一人推薦人を設ける必要があるんだ。要するに、『俺が推薦するから、みんな安心してこいつに票を投じてくれよな!』というスタンスだ」
「成程」
「とどのつまりが、これから俺達は忙しくなる、っていうこと。自由になるのはお前だけだ、いっくん。良いか? 二人の関係性を突き止めるんだ。そして、出来うることなら……」
「出来うることなら……?」
「二人と『UFO』の関係性も突き止めて欲しい。それが、我々の望みだ」

 

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