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夢と現実の狭間で ①

  • 2019/06/14 20:23

「来るなら来るって連絡してくれれば良いのに」
「ごめんごめん。急に行きたくなったんだ」
 僕は祖母にそう謝罪して、月餅を手渡した。
 ちなみに親戚には崎陽軒のシウマイを渡している。ほんとうはそちらを祖母に手渡したかったのだが、高い方をあちらに渡した方が良い、と言ってきたので月餅を渡すことに相成ったのである。相変わらずこの人は他人に対しての世間体を気にする立ち位置に立っている。
「……それで? 彼女達とはどういう関係なの?」
「それは……えーと、聞かないで貰えると助かるかな。あと、これから一週間ぐらい泊まるつもりだからさ」
 一週間。
 それが僕達に定められたタイムリミット。
 勿論、勝手に定めたタイムリミットであり、それ以上でもそれ以下でもないのだが。
「一週間? えーと、まあ、別に良いけれど……。着替えとか、あるかしら?」
「ないと思う。だから買い出しに行かないと」
「あらあら。それじゃあ、おじいさんに頼まないと行けないわねえ」
「そういうことか。……おーい、あずさ、アリス。今から服を買いに行くよ」
「どうして?」
「……どうして?」
 二人はほぼ同じ反応を示した。まあ、当然と言えば当然だろう。
「僕達はこれから一週間ばかりここに住むことになる。匿う、と言えば良いかな」
「どうして? ねえ、学校はどうなるの?」
「学校は休むことになると思う。でも、心配はしないでくれ。安心して過ごして欲しい」
「ねえ、どうして?」
 あずさが僕に語りかける。
 どうしてもこうしてもあるものか。
 僕達はこれから長い戦いを生き抜いていかないといけないんだ。
 双塔の覚悟を持って動かないと行けないことは分かっているけれど、今はただここに身を寄せるしかない。
「……なあ、あずさ。僕のことを信じてくれ。頼むよ。そうしないと君達が救われない」
「私達が救われないってどういうこと? 私と、アリスにいったい何があるというの?」
 言われたって、答えることが出来ない。
 かといって、冷たくあしらうことも出来る訳がない。
「分かっている。分かっているんだ。だが……、僕の言うことを聞いてくれ」
「だから、あなたの言うことってどういうことなの!?」
「頼むからっ!!」
 僕は気づけば、大声を出してしまっていた。
 部屋だけでなく、家全体に響いてしまうような、それぐらいの大声を。
「……頼むから、僕の言うことを聞いてくれよ。お願いだ」
 僕の言葉に、アリスは何も言わなかった。
 あずさは――それを聞いて俯いたまま、
「分かった」
 とだけ呟いていた。

   ※

 二日目。
 気のせいか分からないが、あずさの行動が徐々に過去に遡っている気がする。
 僕が昨日大声を出してしまったせいなのか、答えは見えてこない。
「いっくん、いっくん、今日はクスノキ祭だよ? 学校に行かないの?」
「違うんだよ、あずさ。今日はクスノキ祭じゃない。ただの平日だ」
「……いっくんの嘘吐き。今日はクスノキ祭だって」
「違うんだよ……違うんだよ、あずさ……」
「……、」
 アリスは僕とあずさの行動をただじっと眺めていた。
 自分には関係ない、とでも思っているのか?
 だとしたらそいつは大間違いだ。僕は、君達二人を助けたいと思っているからな。
「ねえねえ、いっくんは私のメイド服姿を見たくないの? だからクスノキ祭に行きたがらないの?」
「違う。違うんだよ、あずさ。クスノキ祭は終わったんだ。だから、行かなくて良いんだよ」
「……どういうこと? さっぱり分からないよ。いっくんの言っていることが」
 

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