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第三種接近遭遇 ⑫

  • 2019/05/22 19:44

「仮入部期間が終わった訳だけれど、どう? 引き続き入ってみたいと思う?」
「うーん、悪くない場所だと思うし、このまま引き続き入っていくのも悪くないかな……とは思っているけれど」
「やたっ! 新しい部員が増えるのは良いことよ。何せ部費が増えるからね!」
 放課後。僕とあずさは廊下を歩いていた。目的地は図書室。既に鍵は借りているようなので、誰かがもう部室(という名前の、図書室副室)に入っているのだろう。
 そんなことを思いながら、僕は廊下を歩いていた訳なのだが――気になったのは、昨日、あずさが言ったあの言葉だった。

 ――逃げるなら、今のうちだから。

「なあ、あずさ。昨日言ったあの言葉、って――」
「ねえ、お二人さん」
 僕達の会話に割り込んできたのは、誰だったのか。後ろを振り返ると、そこに立っていたのは、アリスだった。
 アリスは未だ転校一日目だったはずだが、どうしてこの場所が分かったのだろうか?
「だって、二人が仲良く歩いていたら気になるじゃない。だから私もついてきたのよ」
「いや、その理屈はおかしい」
 そもそも、彼女の行動は最初から謎だった。
「……一応聞いておきたいんだけれど、どうして今朝僕の顔をじっと見ていたんだい?」
「それは、君がずっと私の顔を見ていたからだよ。にらめっこ、にらめっこ!」
「にらめっこという問題じゃないような気がするけれど……」
「とにかく! 私は貴方達についていくことに決めたから。そのつもりで!」
「いやいや、貴方いったい何者なの? そもそも慣れ慣れ……」
 僕はあずさの言葉に割り込むように、彼女に耳打ちする。
「もしかして、彼女は宇宙人なんじゃないか?」
「何ですって?」
「昨日、UFOが僕たちの目の前に現れただろ? あれってもしかして『警告』だったんじゃないか、って思うんだよ」
「警告? 何のために?」
「分からないけれど……、でも、一度野並さん……部長達がUFOを目撃したのは確かだろ?」
「それはそうだけれど……」
「そこで、基地の人間は僕達に目をつけたんじゃないか? 基地の正体を突き止められないように」
「じゃあ、私達、殺されるかもしれないってこと?」
「分からないけれど……」
「ねえ、何の話しているの?」
 アリスが僕達に声をかけてきた。
 一先ずは、この状況を打開しなければならない。
「……ええと、今から私達は部活動に行く訳なんだけれど?」
「どんな部活動?」
「宇宙研究部という部活動なのだけれど」
「宇宙研究部!?」
「そ、そんなに驚くことかしら」
「いや、驚くことじゃないかもしれないけれど……、私が居た中学校じゃ、そんな部活動はなかったから」
「だろうね。僕が居た中学校でもそんな部活動は見当たらなかったはずだ。と言っても二ヶ月程度しか居なかった訳だけれど」
「ちょっとその部活動に興味があるのだけれど、私もついていっていい?」
「え?」
「駄目?」
「駄目……じゃないと思うけれど」
「おい、どうするんだよ」
 再び耳打ちする僕。
「どうするったって、ここで断ったら怪しまれるに決まっているじゃない。だったら、ここはすんなり受け入れるしか道はない。そうじゃない?」
「そりゃそうかもしれないけれどさ……」
「ねえ、さっきから何こそこそしているの? そんなに私に聞かれたくないことでもあるの?」
「そ、そういう訳じゃないよ。な、なあ?」
「え、ええ。そうよ! 貴方に聞かれて困る話なんてある訳ないじゃない」
 ……はっきり言って言い訳がましい。
 出来ることならこのことは忘れてしまって欲しい。
 そんなことを思っていたのだが、アリスは、ふうん、と一言だけ言って。
 僕達の前をすたすたと歩いて行ったのだ。
「……あ、あの、アリス?」
「ねえ。私もその宇宙研究部に興味が湧いたの。場所を教えてくれないかな?」
「別に問題ないけれど……」
「良かった!」
 アリスは笑みを浮かべて、ぴょんぴょんと跳ねながら、あずさの腕を取った。あずさの腕がぶんぶんと振り回される形になるが、それは彼女はどうでも良いといった漢字に捉えられていた。
「もし、駄目と言われていたらどうしようかと思っていたのよ。だから、それについてはほんとうに嬉しいことばかりだわ。だから、嬉しくて仕方ないの!」
「そ、そう。良かったわね」
 ちょっとついていけてないような様子が見えるけれど、それは仕方ないのかもしれない。
 それよりも今はこの変わった部員について、部長達に紹介しなければならない。
 そんなことを思いながら、僕は窓から空を眺める。
 外では、蝉が鳴いていた。
 UFOと僕たちの夏が、始まろうとしていた。

 

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