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クスノキ祭 ⑬

  • 2019/06/09 13:35

「諸君、原稿の進捗はどうかね!?」
 久しぶりの部活動。部長は開口一番、僕達に向かってそう言い放った。
「そんなこと言われても、というのが正直なところですけれど」
 僕は言い放った。実際の所、未だ原稿は半分も書き上がっていない。納期まではあと一週間近く――いや、正確には二週間あまり――残されているのにもかかわらず、だ。五月蠅い、僕は後からブーストがかかるタイプの人間なんだ。別に締め切りまでに書き上げれば何の問題もない訳であって、それ以上の意味はないはずだ。それ以上の意味など、関係ないはずだ。
「とは言ってもだねえ。新聞部との兼ね合いもあるし、出来る限り誤字脱字はなくしておきたいところだし、印刷のかすれとかあったら困るし……。だから出来ることならもちっと早くして貰いたいものなんだよねえ」
「そんなこと言って、部長は出来ているんですか、原稿」
「全然!」
 いや、そんな笑顔で言われても……。
「実際問題、どれくらいの人間が書き上げているのか、というのが気になってな! いや、悪い話でもないだろう。それが難しい話になっている訳でもあるまいて。……だがな、しかしながら、実際難しい話になっているなら早めに相談して欲しい。何せ紙幅は有り余っているのだ。本来ならば、金山、お前にも参加して欲しいところだが……」
「言ったでしょう!? 私は、部活動よりも生徒会の仕事が忙しいって! 何処かの誰かさんが仕事をすっぽかさない限り、私は仕事が二倍になって降り積もってきているんだって! だから誰かが仕事をやってくれれば良いんだけれどねえ……?」
「……分かった。僕が仕事をやろう」
「お?」
 金山さんはまさかそんな展開に発展するとは思っていなかったのか、首を傾げてしまっていた。
「どうした、金山? 僕がわざわざ仕事をやってやろうと言うのだ。だったらお前も余裕が生まれるだろう? そしたら、こちらの原稿も手伝うことが出来る。違うか?」
「それは、違わないけれど……」
「決まりだ。諸君、僕は今日から生徒会の仕事も手伝う。だから、金山に原稿を書かせる。これで紙幅はちょうど良い塩梅になるだろう。もし何かあったら生徒会室へ足を運ぶように。それじゃ、行くぞ、金山」
「あ、あ、ちょっと。手を引っ張るなーっ!」
 そう言って。
 半ば強引な形で、部長と金山さんは部室を出て行ってしまった。
「良いんですか?」
 深々と溜息を吐く池下さんを見て、僕は言った。
「良い訳ないだろ。それってつまり俺に全ての原稿を任せるって言っているようなもんだぞ。……まあ、そうなるんじゃないかな、って思ってはいたけれどな。実際問題、スペースが有り余っていたのは事実だ。誰かの原稿を増分して何とかしようか、なんてことも考えていたぐらいだ。或いは文字の大きさをでかくして、そうすればスペースが埋まるだろうなんてことも考えていた。だが、それじゃ、内容のスカスカぶりが目立っちまう。だったら誰か、最悪ゲストライターでも呼んで紙面を埋めるしかない、という結論に至っていたところだった訳だが……。まあ、あれで良いなら良いんじゃないか?」
 良いのか。
 それで良いのか。
 僕はそんなことを思いながら――原稿を書き進めていく。
 残りのページ数を確認しながら、僕もまた深々と溜息を吐くのだった。

 

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