クスノキ祭 ⑨
- 2019/06/08 17:13
週明けから、クラスの出し物の活動は本格的になってきた。とは言っても、そんな大々的に出来ることは多くない。メニューをどうするだとか、メイド服をどう着こなすだとか、そういう話ぐらいになってしまうのが普通だった。え? メイド服が何だって? メイド服の話は、今はどうだって良いじゃないか。取り敢えず、話としてはあんまり進んでいないというのが実情。僕にとってみれば、原稿が進むからどうでも良いのだけれど。
「ちょっと、いっくん、何でも良いけれど、少しはクラスの出し物を手伝ったらどうかな?」
言ったのはあずさだった。ちなみにあずさは、今メイド服を身に纏っている。……というか、クラスの女子全員がメイド服を身に纏っているのだ。別の空き教室で着替えてきたみんなが続々とやって来た、と言えば良いだろうか。何というか、どうしてこのタイミングで着替えてくるのかさっぱり分からない。
あずさのメイド服は、はっきり言って似合っていた。似合っていたけれど、別に今話をする必要はなくない? と思うぐらいだった。
「……別に良いだろ、メニューを決めることぐらい他の人間だって出来ることだ。僕がいちいち首を突っ込む話じゃない」
「でも、そうしたら後で首を突っ込む権利を失っちゃうよ?」
「僕はそういうの気にしないの。……あずさの方こそ、部活動に注力していると、後で変なシフト組まされるかもしれないよ?」
「私のシフトはもう組み込まれたから大丈夫! 部活動は新聞配るだけだから、特に問題ないしね!」
それもそうか。
寧ろ完成させるまでが問題、と言えるところだろう。
「……原稿は完成したの?」
「全然!」
全然、って。
そんな肯定されても困るんだけれど。
「あと二週間切っているんだけれど、出来るの? 僕は未だ全然だけれど」
「それ、つまり私と同じってことよね? なら、全然自慢出来る段階にないと思うのだけれど」
「でも僕よりはマシだろ。あずさは何を書くのか知らないけれど、僕は未だテーマすら明確に決まっちゃいないんだからさ」
「そういえばアリスはどういうテーマのものを書くつもりなの?」
そういえば。
確かに聞いたことがなかった。
いや、正確に言えば聞いたことはあったけれど、そのときは……何て答えていたっけ?
「私は、未だ」
つまり、三人とも出来上がっちゃいないってことか。
この様子でクラスの出し物に全力を注ぐ訳にもいかない。やっぱりある程度力を抜いて部活動の方に力を注がなくては……。
「おや、何をしているのですか。いっくん」
そう言ってきたのは、栄くんだった。
「栄くん、いったいどうして……」
メイド服なんて着ているんだ?
僕の言おうとした言葉を読み取ったのか、栄くんは話を続けた。
「いや、僕が着たくて着ている訳じゃないんだけれどね? クラスの女性陣が是非とも着て欲しい、って言ってくるから。着ないと気が済まないと思ったんだよ。だから一度着ておかないと困った訳であって。決して僕が着たいと思った訳では……」
「分かった、分かった。言わずとも分かるよ」
「それ、分かっていない口ぶりだよね……?」
おや、分かってらっしゃったか。
てっきり僕は分かっていないと思っていたのだけれど。
「……で? メイド服なんだけれど」
アリスとあずさが僕の方にずい、と近づいてきた。
「ん? 何かあったっけ?」
「似合う? 似合わない?」
「……ああ、そういうこと?」
似合うか似合わないかと言われたら、似合うの一択でしかない訳であって。
「似合うよ、それがどうかした?」
「その適当ぶりは相変わらずね……」