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観測活動の再開 ⑩

  • 2019/06/04 16:48

「結局、」
 僕が話を切り出した。
「――『北』がどうしてこようと、アメリカが介入しないと戦争なんて出来やしないんじゃないの?」
「そうなのかもしれないけれど、でも、難しいところはあると思うよ。やっぱり、戦争なんて誰もしたがらない。けれど、ロボットや人工知能が発達しきっていない現状からして、結局誰かが死んでしまうことになる。それは当然であり当たり前であり、仕方のないことだと思う。……結局、人は死ぬんだよ」
 列が一歩前に進む。
 あずさの考えは、何処か戦争に進みがちな考えのような気がした。
 戦争に進まなくても生きていけるんじゃないか、って半分平和ぼけな考えをしている僕とは、対照的な考えの持ち主だった。
「でもさあ、やっぱり戦争なんて起きて欲しくないと思うよ。起きて欲しいと思うのは、それこそ戦争産業と呼べるような存在だらけだと思うし。例えば、兵器開発だとか」
「兵器開発をしている企業が、この国にどれだけ存在していると思っているの?」
 戦争をしていない――だから兵器開発はしない、なんて話は嘘になる。
 結局、自衛のために、自らを守るために、兵器開発は進められており、今もなお供給が続けられている。だから結局のところ、平和を守っている国だからといって、戦争の道具になる兵器を開発していない訳がないのだ。
 治安だってどんどん悪くなっていく訳だし。
「……確かに、兵器開発をしていないことはないと思う。現に、この国の自衛隊への予算はどんどん拡張している訳だしね。宇宙部隊なんて結成されるぐらいだ。人工衛星やロケットを討ち滅ぼすための兵器開発なんて進められているぐらいなんだし、それぐらい当然といえば当然なのかもしれないけれど」
「まあ、難しい話になるけれど、私の議題はそういう方向に持って行くことになるのかなあ、って思うよ」
「どういう方向?」
「この国が、平和を目指しているのか否か」
 僕達の番がやって来た。
「いらっしゃいませー」
 すっかり疲れ切った表情を浮かべている店員さんに、鳩サブレーを注文する。
 分けてお願いするようにしたら、少し面倒臭そうな表情を浮かべていたけれど、しかしながら、ちゃんと対応してくれたのはやっぱりプロだというところだろう。
「やっと買い物が出来たね。長々とありがとう、いっくん。いっくんじゃないと、こんな話出来ないからさ」
「……僕以外にも適任者は居るんじゃないのか? 例えば部長とか」
「……あの人、時折怖いと思う時があるんだよ」
「怖い?」
「UFOに関する興味を――失ってしまうんじゃないか、って時が」
「……そりゃ、人間は生きているからね。いつかは興味を失う時だってやって来るんじゃないかな」
「そうかな? 私はそれが……とても怖いのよ」
「どうして?」
「だってこの部活動って実質部長のワンマン経営でやって来ているようなものでしょう? そこで、部長がやる気を無くしてしまったら……」
「しまったら……?」
「この部活動は、終わりを迎えてしまう」
 ミーン、ミーンと。
 蝉は未だ鳴いていた。
 少し待っていると、部長達がやって来た。
「やあやあ、遅くなってしまったようで、済まなかったね。僕達に気にせず、涼しいところで休憩していてくれれば良かったのに。LINEで連絡貰えれば、そっちに向かっていたよ?」
 そういえば。
 そんなことをすっかりと忘れてしまっていた。
 だったら炎天下の中、待つこともなかったな――なんてことを思いながら、僕は笑みを浮かべる。
「そうですね。すっかり忘れていましたよ。……ところで、時間的にそろそろどうですか?」
「時間? ……ああ、カメラの修理のことね」
 まるで忘れていたかのような物言いだ。
 僕が言わなかったらそのまま江ノ電に乗って帰って行ったんじゃないだろうか、と思ってしまうレベルだ。
「冗談冗談、忘れる訳がないだろう? 何せあのカメラがなければUFOを観測することも出来やしないんだ。僕達にとってみれば、あれは救世主だよ」
「救世主?」
「部費で賄えるレベルで、最高峰のカメラだということだ」
 池下さんが補足する。
 成程。先程ブルジョワだと思っていたあの二万円は部費から出ていたのか。それなら一気にあのお金を出したのも納得。
 そう思って。
 僕達は一路、鎌倉カメラ店へと戻ることになるのだった。

 

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