観測活動の再開 ⑨
- 2019/06/04 16:25
「ところで、いっくんは文化祭に出す『新聞』のネタって決めた?」
新聞?
……ああ、そういえば、部長がそんなことを話していたような気がする。
宇宙研究部は(今年創立されたばかりの部活動だけれど)、例年新聞を発行しているのだ、と。そしてその新聞のネタは各自部員に任せる、のだと。
「うーん、そうだなあ。未だネタは決まっていないよ。けれど、UFOに関するネタにするのは自明じゃないかな」
「どうして?」
「どうして、って……。この部活動、『宇宙研究部』と名乗っている割りにはUFOに関するパーセンテージが多いだろ。だったら、UFOに関するネタに決め込んでおいた方が良いじゃないか」
「そういうものなの?」
「そういうもんさ」
僕は軽口を叩くように、彼女にそう言い放った。
そういえば、アリスやあずさはどういうものを書くのだろう。全然想像がつかない。
僕はそんなことを思いながら、さらに話を続ける。
「そういうあずさはいったい何を書くつもりなのさ? あずさだって、書かない訳にはいかないだろ?」
「瑞浪基地に関する噂でも書こうかな、って思っているけれど」
「瑞浪基地に?」
「うん。あの基地って、結構謎深き場所なのよね。実はおじさんがそこに務めているけれど、全然情報は教えてくれないし。だったら私達の手で勝手に分析しちゃおう! って算段。どう? 悪くないでしょう?」
確かに、悪くないかも。
教えてくれないなら、勝手に言ってしまえば良い。
それは面白い方法なのかもしれない。
「あの基地って、やっぱり何か変な噂ってあったりするの?」
「UFOが飛び立つ噂ぐらいは知っているでしょう?」
知っているどころか、目撃しちゃった訳だけれど。
「そのUFOは、元々宇宙部隊である自衛隊が所持しているものだって噂もあるぐらいだよ。何せ自衛隊は裏でアメリカ軍と繋がっている。それぐらいは持っていてもおかしくないだろうけれど」
ミーン、ミーン、と。
蝉が鳴き出した。
それを聞きながら、さらに話を続ける。
列は未だ半分も捌き切れておらず、良く見たら人数がさっきから増員されていた。
「アメリカ軍と繋がっているって、そんなの噂程度の話だろ?」
「『北』が戦争を仕掛けている、ってのも噂程度の話だと思わない?」
「……『北』ねえ」
北。
文字通り、北にある半島国家。全世界的に我儘を言い通した挙げ句、国連に参加したいだの、領土を広げたいだの、そのくせ求めているのが世界平和と言われているだの、訳の分からない国家である。
その、訳の分からない国家が、戦争を仕掛けようとしている。
それも、全世界を敵に回して。
それは随分と有名な噂話の一つだったし、僕も聞いたことがある話の一つであった。
「北の話は誰も開けっぴろげにしないけれど、それがどれぐらい大変な話だってことは誰だって分かっている。けれど、この国が戦争を出来ない理由がある。それは、いっくんだって知っているんじゃない?」
「……日本国憲法」
小学生でも分かっている、憲法九条。
日本国は、戦争をしない――そんなこの国独自の憲法が、それを邪魔していたのである。
「防衛ならば何の問題もないけれど、自分で攻撃をするのは問題である――厄介な法律の一つよね。最終的に自国の人間を守るためには重要なことなのかもしれないけれど」
列は、未だ三分の一程度残っていた。